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愛しいヒト

僕はヒトを殺してしまった。


あんなに好きだったアイツを殺してしまった。


可愛いアイツともっと一緒に過ごしたかったのに。


もう戻ることは出来ない。


後悔してもアイツは生き返らない。


でも、アイツにも悪いところがある。


だってアイツから刺そうとしてきたのだから。


でも、どういう理由だとしても殺してしまったのだから言い訳は出来ない。


「おい、本当に死んでしまったのかい。ごめんよ。本当にごめんよ」


床に横たわって動かないアイツに向かって僕は喋りかけた。


返事はあるはずがない。


アイツの体は血で赤く染まっていた。


僕は動かないアイツを見ながら泣き続けた。





遡ること一週間前。


蒸し暑い夏の日、家に若い女のヒトが訪ねてきた。


「どうも私、桜井と申します。ここの近くに住んでる近藤さんって知ってますか?」


女のヒトが来たときにすき間から小さい虫が入ってしまったようだ。


「ちょっとわかりませんね。僕、引っ越してきたばかりなんですよ」


「そうですか。どうもありがとうございました」


女のヒトは僕の家を去っていった。


これが僕とアイツとの出会いである。





それから僕とアイツは仲良くなった。


そして一緒に住み始めた。


最初はアイツに少しも興味がなかった。


でも段々好きになっていった。


可愛いアイツを見ているだけで幸せだった。


僕が嬉しいことがあった時には飛び上がって喜んでくれた。





ある日、家に帰るとアイツはいなかった。


いろいろな場所を僕は探した。


でもアイツはどこにもいなかった。


もしかして僕が一方的に好きなだけなのかもしれない。


だから家を出ていってしまったのだろうか。


そんなことを考えていると右腕に違和感を感じた。


何かわからなかったが自然に僕の左手が動いた。


そしてその違和感があるところを左手で軽く払っていた。


すると何かが地面に落ちた。


手は血で赤く染まっていた。


正体は一緒に住んでいたヒトという名前をつけた蚊だった。


僕の血をさっきまで吸っていたのだろう。


まさか好きだったヒトが刺してくるなんて思わなかった。


僕を仲間だと思ってくれていなかったのだろう。


僕は死んでしまったヒトを見ながら泣き続けた。

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