粉雪舞う夕暮れ
今日も身を粉にして働いた。
仕事が5時に終わり僕は車に乗った。
するとLINEの通知音が鳴った。
妻からのLINEにはこう書かれていた。
『帰りに歯磨き粉と粉ミルクを買ってきて』
大型スーパーに着いて中に入ると歯磨き粉と粉ミルクをカゴに入れた。
仕事の帰りにいつも頼まれるのでどこに何が売っているかは頭に入っていた。
レジに向かおうとしたらまたLINEの通知音が鳴った。
『白玉粉も買ってきて』と書かれていた。
白玉粉を頼まれたのは初めてだがすぐに見つけ出した。
カゴに白玉粉を入れたらまたLINEの通知音が鳴った。
『きな粉もお願い』と書かれていた。
白玉粉ときな粉を頼んだということは今日の夕食のデザートは『白玉きな粉』なのかもしれない。
またLINEの通知音が鳴った。
『粉末ダシもね』と書かれていた。
何だか今日は粉が多い気がする。
頼まれたもの全てが粉だがこれは偶然だろうか。
また通知音が鳴った。
『粉チーズも』
買ってきてほしいものを一個づつLINEに書いてくるのはいつも通り。
でも粉がこんなに続くのはいつも通りではない。
また通知音が鳴った。
『片栗粉も』
一個づつLINEしてくるなと言いたいが逆らうと怖いので言えない。
また通知音だ。
『カレー粉も買ってこい』
カゴは様々な粉でいっぱいになった。
まだ増えるかもしれないので油断はできない。
また通知音だ。
『そば粉も買え』
今日の夕食はカレーそばだと予想した。
カレー粉と粉末ダシを入れて片栗粉でとろみをつけたおつゆにそば粉で作った麺を入れて仕上げに粉チーズを振りかける。
絶対カレーそばだろう。
また通知音。
『米粉もお願い致します』
急に丁寧な言葉になったのが逆に恐ろしい。
また通知音。
『パン粉も』
米粉とパン粉ということは小麦粉の代わりに米粉を使った僕の大好物のエビフライを作るのだと予想した。
夕食は絶対にカレーそばのエビフライ乗せだろう。
またLINEだ。
『薄力粉と中力粉と強力粉も』
ここに来て三種の小麦粉を頼んでくるなんて予想もしていなかった。
これでカレーそばエビフライ乗せを押し退けてカレーうどんエビフライ乗せが夕食候補に急浮上してきた。
またLINEだ。
『上新粉も』
僕は粉知識がないので存在さえ知らなかった。
たぶん名前の通り上等で新しい粉なのだろう。
またLINE。
『デュラムセモリナ粉も』
今度は読むのが苦手なカタカナが並んでいる。
しかも8文字も。
たぶんデュラムセモ・リナさんという女性が生み出した粉なのだろう。
全ての粉をカゴに入れてレジに向かった。
粉・全16種類の重みが僕の右腕一本に掛かって腕の筋肉を疲れさせた。
一度にこんなに粉を買った人は今までにいないと思う。
この買い物に粉もの業界は騒然として粉専門家も驚愕することだろう。
果たして妻に粉を使いこなすことが出来るのだろうか。
周りの人にジロジロ見られながらレジを済ませて車で家に向かった。
家に着いて粉を妻に渡してこう聞いた。
「夕食はカレーそばですか?それともカレーうどんですか?」
すると妻がゆっくりと口を開いた。
「そんなの作るわけないし。
そばやうどんを粉から作ったらかなり時間がかかるよ。
そんな面倒なこと私がすると思うか?
私のこと何もわかってないアホだな。
粉を頼まれたからって夕食に使うと思うなよ。
今日の夕食はたまごかけご飯だけだよバカ!」
苦労して買った粉たちは一体いつ使うのだろうか。
妻の言葉で僕の心は粉々になった。




