崖から落ちまして
マコトとマナツはとても仲がいい。
二人で一緒に旅行するほどである。
ある日、二人はバスに乗り温泉へと向かった。
急な坂道が続き、ゆらゆら揺られながらバスは走ってゆく。
「温泉楽しみだな」マナツはテンションが高かった。
「温泉も楽しみだけど料理も楽しみだよね」マコトの考えることは食べ物ばかりである。
少しすると、もみじの赤が目に飛び込んできた。
「もみじ綺麗だな」マナツのテンションは更に上がった。
「綺麗だね。もみじで思い出したんだけど今日旅館で、もみじおろし出るかな?」マコトの考えることは食べ物ばかりである。
そして、旅館まであと少しという所で事件は起きた。
運転を誤り、バスが崖に落ちてしまったのだ。
「キャーッ」
乗客の悲鳴がバスの中に響きわたった。
事故直後、意識のあったマナツは辺りを見渡してあることに気付いた。
見えるはずのない自分が目には映っていたのだ。
幽体離脱では無いし何だろうとずっと考えていた。
すると意識を失っていた自分が目を開け、少し経ってからこう言った。
「何で自分が目の前に?」
その言葉でマナツはすべてを理解した。
マコトとマナツの体は事故で入れ替わってしまったのだ。
「ねえ、この体どうする?」マナツが鏡で顔をみながら口を開いた。
「マナツも私も女優だし、何とかなるんじゃないの」マコトは冷静に答えた。
「マコトのイケメンの彼氏は私のものね」
マナツはそう言うと笑みを浮かべた。
「何を言ってるのよ。絶対に正志は私のものよ」
マコトは焦りながらそう言った。
「冗談だよ」
マナツはそう言って自分の頭の傷を撫でた。
「姉妹そろって何の用だい?」
正志は不思議そうにしている。
すると姉のマコトは静かに口を開いた。
「私たち事故で体が入れ替わったのよ」
「えっ?」正志は驚いた様子だった。
そしてマコトがこう聞いてきた。
「こういう訳だけどどっち選ぶ?」
その問に正志は少し考えてこう言った。
「俺はマコトの心を好きになった。だから俺はマナツさんの体のマコトを愛するよ」
「双子で顔は同じだもん。普通そっち選ぶよね」
マナツは悔しそうな顔をしていた。
その後、元に戻ることは無かった。




