花咲かじいさん
「枯れ木に花を咲かせましょう。枯れ木に花を咲かせましょう」
じいさんはそう言いながら枯れ木に灰をまき始めた。
「あの、何をしてるんですか?」
一人の通りすがりの老人が聞いてきた。
「今、花を咲かせてるんですよ」
「大変ですね。本当に咲くんですかね?」
「まあ、咲くかどうかはわかりませんがね」
「枯れ木に花じゃなくて私の頭に髪を生やして欲しいものですよ」
「ハハハハハ」
二人は声を合わせて大声で笑った。
「あの、もしかして花坂さんじゃないですか?」
「あっ、そうです。花坂ですけど」
「やっぱりそうでしたか。ほら私ですよ。高校で同じクラスだった」
「ああ、思い出しました。あの時のね」
「あの頃が懐かしいですね」
「とてもモテモテでしたよね。格好良くてクラスのマドンナの人と付き合ってましたもんね」
「いやいや、そんなモテなかったですよ」
「あの頃、俳優になるとか言ってましたよね」
「一時期なろうと思って頑張っていたんですけど、花が咲かなかったもので」
「そうなんですか。それじゃあ失礼します。頑張ってください」
「あの久し振りに会ったんだし、もっと話しませんか」
「忙しいからまた今度で」
「話しましょうよ」
「ちょっと服をつかまないでくださいよ」
「ねえ」
「離してって」
「ちょっとでいいですから」
「もう、離さんかじいさん!」
「……すみません」
「じゃあもうちょっと話しますか?」
「……」
「じいさん?怒ったから落ち込んでるんですか?」
「……」
「ちょっと何か話してくださいよ。もっと話したいって言っていたじゃないですか」
「……」
「話さんかじいさん!」
「……時間はありますか」
「大丈夫ですよ」
二人は高校時代の話に夢中になり、あっという間に時間が過ぎ去っていった。
「でも、なかなか花は咲きませんね」
「そうですね、咲きませんね」
辺りはすっかり日が暮れて、寒さをより一層感じるようになった。
「日が暮れてきましたし、そろそろ行きますね」
「分かりました。今日は楽しかったです」
そして二人はそれぞれの家路についた。
花は全く咲かなかったが、昔話に花が咲いたのだった。