第2話-医療ミスと最初の死-
彼があの卒業アルバムの文を書いた日、彼が家に帰ると、両親が2人とも血を吐いて倒れていた。しかし、彼は持ち前の冷静さですぐに救急車を2台呼んだ。15分後に救急車は来て、両親を運んでいった。
彼はどちらの車に乗るか悩んだが、父親の方を選んだ。前回母親を選んだのを覚えていたからだった。
彼の両親は、いつも通りに大量の放射線を浴び……つまり、たくさんの検査を受け、いつの間にか肺炎が進行していたことを知った。両親はすぐに入院させられた。
両親は、もともと体が弱く、毎年1回は入院していた。彼の冷静さはここで鍛えられた。救急車を呼ぶこと自体はもう慣れっこだった。ただ、世の中には慣れてはいけないこともたくさんある。その中の一つが、両親が2人とも入院すること。これが当たり前になってはいけない。だから彼は、毎回両親が入院する度に、不安を抱えていた。
彼は欠かさず、毎日見舞いに行った。たとえ、病院が別々になっても、病院が遠くても。彼は必ず両親に会いに行き、その日学校であった楽しい出来事など、楽しいことだけを話した。彼は決して、悪いことは言わなかった。どんなにつらくても、両親を病気以外で苦しめたくないから。
だから彼は、悪いことを、心の中にずっと、放出することなく、閉じ込めていた。ストレスがたまっていたのに。でも、毎日聞く看護師や医者の、良くなってきてますよ、を聞くと、彼はストレスをその一時だけ、忘れることができた。
ある日、いつもと同じように病院に行くと、病室で両親が医者とすごく嬉しそうな顔で話していた。気になって足早にベッドに近づき、何があったの?、と訊くと、
「ご両親の退院日が決定しました。次の土曜日の午前中、3日後です。」
彼はすごく嬉しかった。そのくらい両親の体調が回復してきているということだ。当たり前である。その日、彼はいつもより明るい口調で、両親との会話を楽しんだ。数十分後、彼は帰った。
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彼は医者達や看護師たちを、心から信じていた。
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しかし、両親の容体は急変した。彼が寝ている最中に、突然電話が鳴ったのである。見慣れた番号だった。そう、病院からだった。電話に出ると、
「315号の患者様の息子さんでいらっしゃいますね?ご両親の容体が急変しました。車を用意したので、いそいで乗ってください。」
彼は焦りながらも、そして、落ち着きを保ちながら、車に乗り込んだ。
病室に着くと、看護師や医者が慌ただしく動いていた。両親にはさっきと違って数本のチューブが刺さっていた。彼は急いでベッドの方に寄った。
「お母さん?お父さん?」
医者が近づいてきて、話し始めた。
「ずっと落ち着いていたんですけど、急に悪くなって…」
彼の耳にそれ以降、音は入ってこなかった。
約1時間の処置の末、彼の両親は、………死を遂げた。
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その後、彼は警察に助けを求め、捜査してもらったところ、ベッドから不審な注射器が発見され、事実を隠蔽していることが発覚。裁判の末、病院側は1億5580万円を支払った。
命は、金には代えられないんだよ。なのに……
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ここは後白河病院。今年開院30周年を迎える、大きな病院である。毎日ここには約100名の救急患者が運ばれてくる。救急病棟長の前原弘起は、今日も救急患者の手当に当たっていた。
「先生、赤の4番、謎の症状の患者が入ります!」
「謎の症状?」
「防護マスクをして処置をしてくださいとのことです。何かの感染症でしょうか。」
「感染症か…。となると少々面倒くさいことになるかも…」
と言いながら前原は防護マスクを装着し、手当に当たった。搬送されてきたのは、30代前半の男性で、大まかな症状は、大量の吐血と、腕の異様な膨れ上がり。ただ、発熱はない。出来る限りの処置は行ったが、男性は約30分で死に至った。前原はその日、大きな不安を抱えながら、家路についた。
前原の家。前原は帰ってきてすぐに、テレビをつけた。この感染症について何かやっていないか。彼はすごく不安な顔でニュースを放送しているチャンネルに切り替えた。
『今日、各国で相次いで謎の症状の患者が病院に運び込まれましたが、そのいずれも、運ばれてすぐ、死亡しました。この謎の症状というのは、大量の吐血と、腕の異様な膨れ上がりです。この症状の患者が運ばれたのは、アメリカ、中国、シンガポール、カナダ、韓国、イギリス、カンボジア、エチオピア、ニュージーランドと、日本でしたが、どの患者もすぐに死亡したということです。各国首脳は、すでに会見を開いており、いずれの国も、謎の新種の感染症とみて調べており、これ以上の感染拡大を防ぐため、各国首脳で協力して、ウイルスの撲滅に当たりたいなどと、話しているということです。』
前原は、急いでシャワーに行き、体を念入りに洗い、その後、うがいを何回も何回も繰り返した。
次回は登場人物紹介にします。今回も読んでくださって、とてもうれしいです。これからもよろしくお願いします。