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わたくしの狗  作者:
6/15

六、茶会

「――それで、最近マンネリ気味でして……ユーリ様、リーネ様、何か良い知恵はございませんか?」

「………それを、どうしてわたくしに聞くのかしら?」

「まったくです。わたくしたちはエレナ様と違って、お盛んではないのです」


 悩ましげにため息を吐くエレナ嬢と、心底呆れた様子のリーネ嬢。

 週に一度の休息日に中庭の隅で三人で開いた、お茶会という名の下半身事情ぶっちゃけ大会は、エレナ嬢の惚気と彼女の狗、ギレスのテクニック自慢でなんともいえない風になっていた。


「――そういえば」

「?」

「知恵といえば、ユーリ様の狗ですね。この前、教育長を口喧嘩で言い負かしてたのを見たのです。なかなかのものですよ」

「へー……あ、いや、そうですの! 鼻が高いですわ!」


 思わず、口調が崩れてしまった。それくらい、驚くことなのだ。

 教育長といえば、学園はおろか、国一番の賢者である。下手すれば、理事長より権力を持ってたりもする。――そんな彼女を言い負かすなんて、ていうかそもそも、喧嘩になるなんて……。クロード、一体何を言ったの……。


「まあ、素晴らしい。それに比べて、うちの駄狗(ギレス)ときたら……。あっちのほうは覚えはよくても、勉強はさっぱりですわ」

「…あえて何も言わないです。そもそも、ユーリ様の狗に対抗心燃やそうとするほうが馬鹿なんですよ。どこぞの中流貴族みたいに」

「「あー…」」


 どこぞの中流貴族、と聞いて真っ先に浮かぶのは、オレンジがかった金色の髪。私も髪の色は金だが、彼女よりも白っぽい。

 彼女――フォーリズ=プロウドは、よほど国文学で負けたことが悔しいのか、クロードと会うたびにいちゃもんをつけてくる。

 やれわたくしの方が優秀だの、いつか絶対跪かせてやるだの…。貴族には珍しく、互いの家柄をまったく意識していないところに好感は持てるが、クロードをけなされては我慢ならない。


 ちなみに言うと、彼女はゲームに隠しキャラの主として登場するが、一番悲惨に奪われる。

 攻略対象の、彼女の狗であるエンヴィーはイエスマンで変わり身が早く、攻略されるとすぐ、主を見限ってヒロインと共に異世界にわたってしまう。

 残された彼女のその後がエンディングの後にちょろっと流れるが、それは途中までざまぁと笑っていたプレイヤーですら言葉を失うほど悲惨だった。フォーリたんを慰め隊、なんてファンサイトができたほどだ。


「ちょっと、それ、わたくしのこと!?」


 うわさをすれば何とやら。背後から鼻息荒く現れたのは、フォーリズ嬢。片手にはリードと、それにつながったエンヴィーが後を追う。いつ見ても胡散臭い半眼から覗く薄紅色の瞳と、真っ白な髪が印象的だ。

 突然の無粋な来訪者に、エレナ嬢が皮肉な笑みを浮かべる。白魚のような指でさりげなく口元を隠した笑い方は、同姓から見ても妖艶で、魅力的だ。


「あらあら、こんなところに狗を連れ出すなんて、野暮なこと。よほど体が火照ってらっしゃるの?」

「あなたなんかと一緒にしないでよ、この色魔! ところでユーリ、あなたの狗がまたやらかしたみたいだけど! わたくしの狗の方が、よほどすごいんですからね! 今に見てなさい!」


 エレナ嬢の笑顔が凍りつくのも気にせずに、びしっとこちらを指差すフォーリズ嬢。それを見て私は、面倒なことになったな、と胸中でため息をつく。

 典型的な負けフラグを立てた後、数分間にわたって好き放題喚き散らした彼女は、こちらが何も言わないのを確認し、最後にフン、と鼻で笑いその場から去っていった。


フォーリズ嬢、結構気に入ってます。

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