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わたくしの狗  作者:
5/15

五、食堂

ランキングとかありがとうございます。生まれて初めてです。

それと最近、アルビノのハエを目にしました。吉兆でしょうか。

食堂につくと、時間が時間なので、それなりに混雑していた。ふと、壁際の席に見慣れた二人の姿を見かけ、声をかける。


「エレナ様、リーネ様、ごきげんよう。ご一緒してもよろしくて?」

「ええ、もう待ちくたびれて、お腹がぺこぺこですわ」

「もちろんなのです。今日の料理も美味しそうなのですよ」


 豊かなキャラメル色の髪に抹茶色の瞳の、エレナ様ことエリーン=マルキード嬢と、青がかった黒髪に紫水晶の瞳の、口調が独特なリーネ様ことリオネア=クレヴァー嬢。

 席をとって待っていてくれたのか、手を付けた様子のない食事の前に座る二人に感謝しつつ、空席に腰を下ろす。学園内でもそれなりの家の生まれの彼女たちのそばに、座れる人はいない。


 あれから数年、逆光源氏計画に熱中しているうちに、同じく狗には知性も必要だ、と考える友人ができた。それが、この二人だ。


 記憶を思い出す前の私は随分と高慢ちきで不遜な性格だったらしく、友人と呼べるものがまったくいなかった。

 しかし、12歳のとき、いつもどおり図書室でスパルタ指導をやっていると、不意に声をかけられた。当時、二人とも新しく狗を与えられたばかりで、接し方がわからない、というのだ。

 私は当然とばかりに、自分の理想に育て上げなさい、と言った。見目がよくても、使えなければただの愛玩道具。真の賢人は、狗の教育も怠らないのです! と。――正直、自分に酔っていたことは否定しない。

 それを聞いた二人は、目からうろこが落ちたとばかりに、自分の狗に、それは熱心に教育を施した。内容は主に知識と武術を、エレナ嬢は、その……あっちのほうも。


「ユリシア様、食事をとってまいりますので、少々お待ちください」


 そう言ってクロードはさっそうと立ち上がり、厨房の方へ歩いていく。それにあわせて、先程から全身をチクチク刺していた視線が移り、あからさまな反応に思わず笑ってしまう。


「相変わらず、すごい人気なのですね」


 リーネ嬢が呆れたように言うと、エレナ嬢もそれにうんうんと頷く。女性特有のひりつくような視線は、クロードと一緒にいれば常に浴びているが、いつになっても慣れるものではない。


 一分も立たないうちに、視線を引き連れたクロードが二人分のトレーを手に戻り、周囲など一切気にしない様子で席に着いた。


「ありがとう、クロード」

「いえ、お礼を言われるほどのものではありません。私はユリシア様の狗なのですから、もっとお役に立ちたいのです」


 さらりと言ってのけるクロード。本気でそう思っているのだから、始末が悪い。

 このやりとりも毎度のことだが、いつになってもクロードは、あくまで狗であることを譲らない。私としてはもっと、気楽に接して欲しいのだが。


 ――まあ、最初の頃に、すべての料理の毒見をすると言い出した時よりは幾分かましか。あの時は本当に驚いたもの。

 真顔のまま私の皿に手を伸ばすのだから、食い意地がはっているのかな、と思ったが、違った。どこまでも忠犬で、やや思い込みが激しい彼は、大声で盛られてもいない毒の危険性を主張して譲らず、結局その日は、すべての料理を冷め切った状態で食べることになった。その時の食堂の空気と、料理人の悲しげな目は未だに忘れられない。


(役に立つ、ねぇ……)


 私が望んでいたのは、こんな関係だったのか。完璧な仕草でスープを口に運ぶクロードの横顔を見つめ、小さくため息を吐く。

 ――あの日、彼と私の主従関係は始まった。暗く沈んだ瞳の彼に、力を与えるため。しかし、私が本当に望んだのは、彼の主なんかではなく……。


 私の視線に気づいたのか、クロードの視線がこちらに向き、心臓がはねた。

 彼のどこまでも透き通った目に見られると、前世のことを隠している自分が、あさましく思えてしまう。


「――ユリシア様、食事が進んでいないようですが、具合でも悪いのですか?」


 すぐに視線は私の手元に動き、どうやら全く食事に手を付けていなかったことを心配されたらしい。「――なんでもないわ、ちょっとぼーっとしちゃって」そうごまかして、私もスープを口に入れた。




 その日の食事は、全く味がわからなかった。




クロードは狗なので本来は食堂などの施設は利用できませんが、学籍を手にしてからは利用可になりました。

学籍を手に入れるまでは、ユリシアがいないと図書館も資料室も利用できなかったので、主の手を煩わせないために、頑張りました。

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