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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
最終章 世界の真理とストーカー
23/26

3.世界はふたりの物だよ

 俺の身体はただひたすらに、向かって来るものを打ち砕く。

 俺の意志は俺のもので、俺の思うがままに。

 歯向かう奴らは皆殺し。

 銃弾を避けるのも面倒くせえ。

 邪魔をするんじゃねえ。

 身体に何発食らったか、覚えていないしどうでもいいし、俺の身体は躍動し、すべて破壊するまで止まらない。

 今弾丸を補充している奴とは何なのだろう。そいつの頭蓋を砕く。

 俺の肩が砕ける。大口径の拳銃を構えた男が次に狙うのは俺の頭で、その前にそいつの頭を吹き飛ばす。

 痛みは昂る精神を加速させるだけ。えぐれた肩が泡立って、俺の肉、神経、骨が再生してゆく。

 怯えた顔で遠くから狙う男。距離なんか俺に対しなんの意味も持たない。奴には俺が瞬間移動して見えただろう。飛び散れ、色々な何か。俺の拳が顔面を貫く。

 構成員の数は半減したか。しかし、まだ廊下から湧いて出る。

 湧けばそれだけ殺すだけ。


 血しぶきの中で、俺の心が願うのは。

 君に会いに行く。

 それだけなんだ。

 君に会いたいだけなんだ。

 銃声は鳴り止まない。

 俺を止められるか?

 その銃で。ちっぽけな弾丸で。信念で。陰謀で。正義で。真理で。世界を守ろうという意志ごときで。

 俺があの子に会う事を、止められるというのだろうか。

 

 背後の気配に俺は目視もせず、振り返り様の腰の入ったパンチを繰り出す。

 そこに居たのは、甲虫のような装甲を身にまとったキリカだった。

 俺の拳は奴の前腕に阻まれた。白銀色の装甲。

 顔面に三つの弾創を付けたままのキリカが薄く笑っている。

 てめえが、《怪人》だったか。

 俺の打撃をまともに受けたはずの装甲には、ひび一つ入っていない。代わりに俺の拳は砕けて再生中だ。

 俺を狙った銃撃の流れ弾を弾きながら、キリカが腕を振り下ろす。

 射程内にはいなかったが俺はその腕の軌道を避け、身を沈めた。

 俺の背後に居た構成員達の脚、胴体、胸、首がそれぞれの箇所で切断され、床にバラバラと撒き散らかされた。叫び声と血液の噴水。

 怪人と化したキリカは相変わらずの気取った表情で、地獄の惨状のこの部屋を見渡した。

「武史君。残念ですが、もうあなたは香乃葉様に会う事はできません。

 四肢を切断し動けなくなったあなたの、遺伝子だけを採取したら殺します」

 俺の遺伝子は俺の物だ。この腐れビッチの好きにはさせない。

 こいつの腕からは何か光線が放射されていた。あれを食らえば、俺の身体もその辺に転がっている肉塊の様になるだろう。

 それに奴の身体は装甲に守られ、俺の拳では歯が立たない。

 どうすれば良いのか。俺にこいつが倒せるのか。

 そこまで考えて、どうでもよいと思えた。

 君に会いに行こう。

 俺は目の前の怪物に向かって一直線に走る。

 右手を大きく振りかぶり、全力で跳ぶ。

 俺は何か叫んでいた。力の限りに。

 キリカの余裕の笑みと冷酷な眼差し。

 奴の腕が俺の前を数回、往復した。

 千切れろ俺の右手。吹き飛べ両脚。

 ただ、左腕だけは。

 胴体の陰になるようにしていた左腕で、最後に残ったこの腕で。

 気合いを入れろ、俺の遺伝子。細胞。血液。ナノマシン。

 飛び散れ俺の命。

 俺のすべてを込めろ。打ち砕け。

 最後に腐れビッチの恐怖に歪んだ顔を確かに見た。それを渾身の力で殴り抜ける。

 爆裂したように、キリカの顔面が肉片や何かの断片、破片となり四散した。首の無くなった怪人が床に倒れる。

 俺は、べちゃっ、と血溜まりに落下した。なんとか生きている。

 もう銃撃も止んでいた。

 

 二ノ瀬さんは、彼女は、今、どうしているだろう。すぐに会いに行かなければ。

 左腕しか残っていない俺は、血の海を呈した床にただ這いつくばり、彼女の事だけを考える。

 はやく。すぐに、行かなければ。

 生えろ、俺の両脚。再生しろ、右腕。

 ……。

 ……。

 生えねえのか。

 それならば。このまま、這ってでも行くだけだ。

 左腕に力を入れると、そこにトン、と何かが当たった。

 右腕。

「それ、タケシのじゃね? くっ付けなよ」

 見上げると、後ろ手に手錠をされたルナが立っていた。

「脚とか、探してくるし」


 俺の千切れた腕と脚が切断部で泡立ち、神経や骨が再生してゆくのを壁にもたれて待った。

「無事だったんだ。良かった」

「良く言うよ、あれだけ大暴れしといて。ルナも流れ弾とか当たるかと思って、マジビビってたし」

 ルナは何か決心した、力強い目線で俺を捉えた。

「さっきの、キリカの話? タケシは気にしないで。

 後はもうさ、タケシと香乃葉ちゃんの好きなようにしちゃってよ?

 世界はふたりの物だよ」

 たぶん、この世界に二ノ瀬香乃葉さんがいなかったら、俺はルナを好きになっていたと思う。

「彼女を絶対、幸せにしてやんなよ?」

「わかった。ルナも、幸せになってくれ」

 ルナは複雑に表情を巡らせ、照れながら、

「ばーか」

 と笑った。

 

 アジトの廊下を俺は走る。

 勘を研ぎすませれば、君がどこにいるのか俺にはわかる。この奥に二ノ瀬香乃葉さんがいる。

 そこにはあいつもいるはずだ。

 奴が言う事は予想できる。俺はそれに従うだろう。その為に来た。

 そして、君に会う為に。

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