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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
最終章 世界の真理とストーカー
22/26

2.君の望む世界なら

 俺は目の前にいる巨乳金髪クソ眼鏡を、改めてまじまじと見た。

 思えば俺がこの組織に関わりを持ってから、ほとんどの事柄はこの女に聞かされたことだ。

 二ノ瀬香乃葉さんを中心とした、《世界》と《陰謀》と《真理》。《秘密組織》。なにがどこまで《真実》なのか。

 キリカ自身の望む物は。

「勘の良いあなたなので先に言っておきますが、今お話しているのは有り体に言って、時間稼ぎの為です。

 香乃葉様が《カルマ》を継ぐにはもう少しだけ時間がかかるのです。それをあなたに邪魔をさせる訳にはいきません」

 余裕のあるゆっくりとした口調が俺を苛立たせる。

「わざわざこのような事を言うのは、これから、我々にもあなたにも有益な取り引きを提案したいのです」

「早く言え」

 回りくどい話は苦手だ。


「まず、武史君、あなたが知りたかった事を教えて差し上げます。

 あなたの、香乃葉様への異常とも言える恋心ですが、これは当然我々がそのように仕組んだものです」


 俺はその言葉を聞いても、何も感じなかった。


「特定の心理状況下で、あなたの場合は彼女の事を想う時ですが、自分の限界を超えた能力を発揮できるような遺伝子を、我が組織は開発に成功しました。

 あなたはその遺伝子を手術によって埋め込まれました。

 香乃葉様に恋心を抱かせるのは非常に簡単でしたよ? それまで散々な境遇にあなたを置き、それとなく彼女に意識を向けさせるのは、我々の組織にはたわいない事でした。

 あなたにはその能力を香乃葉様を守る為に使うよう言いましたが、それは事のついでに過ぎません。

 その遺伝子を、あなたの子供に受け継がせるのが真の目的です」


 キリカの言葉を俺はただ黙って聞いていた。そして、ある理解に達した。

「つまり、俺は実験台ってわけだな? その訳の分からねえ遺伝子が、上手く作用するか。

 そして、限界を超えた能力を発揮するトリガーにする為だけに、俺が二ノ瀬さんを好きになるよう仕向けた」

 キリカは「よく出来ました」とでも言うようにニッコリと微笑む。


「次に香乃葉様のお気持ちですが。

 我々も驚いた事に、彼女は今あなたに夢中です。あなたはきっと気付かなかったでしょうね。自分に向けられた好意に、あなたは鈍感すぎますから。

 もちろん、数週間前にあなたと彼女をわざと引き合わせ、香乃葉様があなたを好きになるように仕向けたのは我々ですが、それが予想以上の成果を上げてしまいました。

 今日のデートをいい思い出にして、この後あなたは居なくなり、失恋を味わって貰う予定だったのですが、急遽このような事態になってしまいました。

 この後彼女は、喫茶店での出来事から数時間の記憶を失くし、新たな人格を持って生まれ変わります。

 世界の支配者として」


 俺の聞きたい事はまだ聞けていない。彼女の本当の心は。彼女が自分で選ぶはずだった道は。これ以上、時間稼ぎをさせてはいられない。

 俺の目つきが変化したのをキリカは見逃さなかった。取り繕うような笑顔で言葉を続ける。


「では、核心に入りますね。

 今、香乃葉様はこの奥の部屋で催眠術を受けています。彼女の心が最もフラットな状態になって、《カルマ》を受け入れる態勢が整うように。

 その状態の彼女なら。

 もしかしたら残っていたかもしれない、我々が操作する以前の、本当の人格が、見いだせる可能性もあります」


 血管を、血が、凄まじい速度で駆け巡る。

 会いたい。二ノ瀬香乃葉さんに。


 そして、聞きたいんだ。本当に君が望むものを。

 本当ならば君が選んでいた道を。

 世界が君に、どのように映っているのかを。

 君に見える世界なら、俺も見てみたいんだ。

 君の望む世界なら、俺も生きたいと思えるんだ。


「勘違いされては困りますが、決して確実なことではありません。可能性があるというだけです。

 それから、武史君。あなた自身の本来の姿の事ですが。

 我々は、これからあなたに大人しく記憶除去の催眠を受ける事を、強く勧めます。

 それはあなたが次の《役割》へと進む為なのですが、その催眠にも準備があります。香乃葉様の場合と同じく、あなたの心も平坦な状態へ移行させなければなりません。

 記憶除去、しかも期間を限定してのものですから、かなり大掛かりな施術になるので、そんな準備も必要となります。

 わかったかしら? その状態ならあなたの、我々が関与しなかった場合の人格が現れるかもね?

 取り引きというのは、それです。

 もしあなたが素直に我々に従えば、二人とも催眠を受けた状態で、会う事を許可します。二人で、充分な時間をかけてお話させてあげますよ?

 後に二人ともその記憶は無くなりますが、だからこそ、すべてを語り合えるのでは?

 その先はあなた達次第ですが、何かいい事が起きるかもね? なにせ、二人っきりですし」


 キリカは勝利を確信したような、余裕たっぷりの笑顔を俺に向け、その顔面に三つの弾丸を俺は撃ち込んだ。

 部屋の物陰から、廊下から、数十人か、ありったけの数の構成員がなだれ込み、俺を狙撃する。

 数十の銃声が重なり、ずれて、連なり、響く。

 来いよ。邪魔する奴は皆殺しだ。

 銃弾はすべてが止まって見える。

 宙で静止した弾を避け、流れるように円を描いた俺の両手の銃から放たれた弾丸が、男達の頭部を確実に撃ち抜いてゆく。

 俺にとって一瞬で、手持ちの弾が切れたが、なんの問題も無い。銃を奪う必要も無い。

 何事かを叫びながら銃を乱射する男の懐へ潜り込み、脇を締めて最短距離で顎を打ち抜く。拳で。ぐるんと回った顔はまだ何かを叫んでいて。振り返り様に一人の男の頭蓋を拳で砕く。色々な何かが飛び散った。

 まだいくらでも構成員はいるだろう。

 いくらでも来ればいい。全員殺す。

 こめかみの辺りに一発、銃弾を食らうが、軽くよろけただけだ。揺れるのをやめろ、俺の脳。そう念じると脳は揺れるのをやめた。

 俺は、君に会いにゆく。

 君に会いたいんだ。

 俺は、君の為ならなんだってできるんだ。

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