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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
最終章 世界の真理とストーカー
21/26

1.本当にそうなのかしら?

 俺がかつてキリカに初めて《組織》や《陰謀》について聞かされた部屋へたどり着く。

 ドアを開けると三人の構成員、そしてキリカさんが俺とルナに冷ややかな視線を送った。

「ルナさん、こちらへ」

 キリカの言葉にルナは身体をビクッと震わせ、そして頭を垂れて従った。

 構成員達がルナの手を後ろへ回し、手錠なのだろうか、ブロック状の金属で固定した。彼女は大人しくされるがままになっている。

「おい、ルナに何してんだよ」

 キリカが俺とルナの間に割って入る。一見普段と変わりのない、クールな表情。

「あなたには少々、お話ししておくべき事があります。

 ルナさんの事は心配しないで。彼女は重要な《役割》を負った大事な身体です。丁重に扱いますから」

 ルナは構成員に腕をつかまれ、うなだれている。

「二ノ瀬香乃葉さんはどこだ?」

 クソ眼鏡の話より、先に彼女の安否を知りたい。一体今頃何をされているのか。

「彼女は今、《カルマ》を授かる為、催眠状態へ誘導されている最中です」

 また訳がわからねえ。それは無事なのか、何なのか。

「俺に解るように説明しろ。そして彼女に会わせるんだ」

 さっき新たに弾丸を装填したばかりの銃を突きつけ、妄想眼鏡を睨みつけた。奴の表情にまったく変化は見られない。

 ルナ以外の全員を殺し、二ノ瀬さんを捜してもよいが、それは最後の手段だ。

 黒幕であった鮫島が死んだ今、組織の企みを知るのはこの腐れ眼鏡だけだろう。まだ聞くべき事がある。

 それに、これだけ無防備に俺の前に姿を晒すからには、この部屋のどこかに戦力が、俺のような改造人間が潜んでいる可能性もある。下手には動けない。


「ルナさんには、あなたを身動きできなくさせて連れてくるように言ったのですが。おかげで手間が増えてしまいました。

 もうお聞きでしょうが、あなたには香乃葉様に関する記憶を失って貰います。辛いとは思いますが、次にあなたがするべき《役割》の為なのです。拒否するならば力づくで行使しますので、悪しからず」


「勝手な事ばかり言ってんじゃねえぞ。すべて、今すぐに話すんだ」

 そうでなければ俺は後先考えず、こいつ等を皆殺しにする。

「そうですね、あなたの真の《役割》の事でも話しましょうか?」

 それからキリカは、なにか思わせぶりな態度でルナを振り返った。

「やめてよ! 言わなくたっていいでしょ!?」

 ルナは今にも泣きそうな顔で叫び、キリカに懇願するような視線を投げつける。

「あら、これを聞けば武史君も気が変わって、素直に記憶除去の催眠を受けるかもしれないのに」

「おい、ルナが嫌がってんなら、そんな事は知りたくねえ」

「優しいのね。あなたはいい夫になるわよ」

 オット。なんだろうかそれは。どんな奇怪な役割を負わされるのか。


「香乃葉様がカルマを受け継ぎ、この世界はかつてない素晴らしいものに変わります。彼女は今後20年程でそれを成し遂げるのです。

 そして、彼女の後継者はまだこの世にいません。

 20年後に香乃葉様から支配者の座を継ぐのは、武史君、あなたの子です。もうわかったわよね? 

 あなたの子を孕むのは、ルナさんよ?」


 今、このイカレ眼鏡を撃ち殺すべきなのか。ルナは顔を伏せているが耳が真っ赤だ。

「何を勝手な事を言ってんだ? 誰の子を産むかなんて、ルナが自分で決める事だろう?」

「いえ、違いますよ? 組織が、我々が決めるのです。

 ねえ、鮫島?」

 俺は耳を疑った。鮫島?さっき確かに地下の喫茶店で殺したはずだ。

 ルナの腕をつかんでいた男が苦笑まじりに口を開いた。

「お前さんよ、何のためらいも無く俺を殺しやがったよな?」

 その口調は確かに鮫島のもので、しかしその男の外見はかつての彼とはまったく違った。


「まあ、あん時は殺してくれて構わなかったんだがな。

 俺の《意志》はよお、死ぬと同時に特定の構成員に自動的に引き継がれる事になってんだ。お前さんと同じような改造手術のひとつだな。

 だから、何度俺を殺したって意味がねえ。だって、監督が死んじまったら映画が完成しないだろう?

 俺が、《組織》がすべてを決めるんだ。これからもな。

 お前さんと、この嬢ちゃんの子が、いずれ世界の支配者の座を継ぐ。DNAによるとな、香乃葉様に劣らない素質を持った子が生まれるんだそうだ。

 その為にわざわざコールドスリープなんて手を使って、若いままでこの時代に来てもらったんだがな。

 香乃葉様に関する記憶が消され、ルナが優しくしてくれりゃあ、お前さんもこっちを好きになるだろうよ。それも、決められているんだ。

 まあ、初恋の相手の事は忘れちまうかもしれねえが、こんな可愛い嬢ちゃんと結ばれるなら、それでもいいんじゃねえか? 武史よ?」


 顔を伏せたままのルナの足下に、ポタポタと涙が落ちる。

 銃声。俺は鮫島の額を撃ち抜いた。下卑た笑いを浮かべたまま、奴は床に倒れ込んだ。殺しても意味は無いだろうが、意味はどうでもよかった。

「おい、本当に躊躇ってもんがねえな、お前さんは」

 隣にいた構成員の男がそう言いながら、旧鮫島の代わりにルナを捉える。

 もう沢山だった。こいつらは全員殺し、ルナを解放してすぐに二ノ瀬さんのもとへ行こう。

「武史君、一番聞きたい事がまだあるんじゃないかしら?」

 クソビッチ眼鏡にこれ以上喋らせておく必要は無い。銃口を向ける。

「香乃葉様の事です」

 それを聞き、引き金に触れた指がほんの少し緩んだ。


「彼女の、本来あるべきだった姿を知りたくはない?

 《組織》が彼女を今の人格に作り上げました。何から何まで我々の思い通りに。

 でも、本当にそうなのかしら?

 香乃葉様の本当の人格は、消え失せてしまったの?

 そして、そっくり同じ事があなたにも言えるわ。

 あなたの本当の心はどこにあるのかしらね?」


 それは、俺がキリカに聞こうとしていた事だった。

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