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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
第二章 あの子とストーカー
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3.やっぱり少しだけ変わってる

「え?」

 君はそう言って立ち止まった。慌てて振り返った俺は、見たことの無い君の表情をどう捉えていいのかわからない。

 驚いているようで、でも怪しんでいるのか、恐怖なのか、視線が強く俺を見据えた。

 ランナーが一人、俺達を追い抜いて行った。

「私ね」君が声をなんとか絞り出すみたいに言う。

「緑川君は、みんなのこと、嫌いなんだと思ってた。だって、教室で誰とも親しくしてなかったし、険しい顔してること多かったから。ちょっと変わった人かなって。

 でも今日しゃべったら、違うってわかった。

 避けてたのは私の方かもしれないね」

 何をどう思ってそうなったんだろう。君は真面目で素直な性格の分、思い込みが激しい。俺、みんな嫌いだったよ?君以外は。

「それ、だいたい合ってる。俺はみんな嫌いで変わり者で、でも二ノ瀬さんと話がしたかった」

 口を両手で押さえた君の目が大きく見開かれていく。

「でも、どうしてもできなかった。避けてるって思われても仕方ない。ごめん」

 少ししてから手を下ろした君は笑顔と泣き顔の中間くらいで、「行こ」と俺をうながした。

 再び夜の公園を二人で歩く。

「もっと早く緑川君とお話しとけば良かった」

 呟くような口調で言って、俺を見る。

「君はやっぱり少しだけ変わってる。ちょっと不器用なとこがあって。なにか隠し事してて。でも、いい人だと思う」

 今日初めて見る、君の自然な笑顔。俺、いい人じゃないんだよな。君の部屋に忍び込んだり盗聴したりしてるよ?

「緑川君、進路は?」

「え、えーと、就職? なのかな?」

「そうなんだ! 不況なのにすごいね、どんな会社なの?」

「……中小企業?」

「どんな仕事?」

「人に話すの禁止されてるんだ」

「守秘義務みたいな?」

「そんな感じ」

 秘密組織で改造人間として君を守る仕事なんだ。


「せっかく君とお話できるようになったのに、もう卒業なんだよね。私はアメリカに留学するんだ」

 うん、盗聴したから知ってる。俺もついて行くし。君はまだ知らないだろうけど、ロサンゼルスでの住所や行きつけになる予定のスーパーとかも知ってる。キリカさんに聞かされた。

「自分で決めたんだけど、やっぱりちょっと怖いね。英語覚えなきゃいけないし。向こうでの生活も、うまくできるか自信ないな。なにが起こるかわからないもんね」

「大丈夫。絶対、全部うまくいく」

 組織がすべてに裏から手を回して、これから起こる事は全部決まっているんだ。

「君って、なんていうか……、不思議だよね。そう言われると不安が吹っ飛ぶよ」

 もうすぐ公園の外に出る。今度は彼女も通りへ出る遊歩道に進んだ。

「あの、……緑川君はさ、明日も、走りに来る?」

 俺を見ずに真っすぐ前を向いたまま尋ねてきた。平静を装っているけど、多分なにか言いづらい事を言おうとしている。そうでなかったら君はきちんと人の目を見て話すから。

「毎日来て走ってる」

 君がサボらなければ。

「もし、えと、君さえよければ、一緒に走らない?」

 この、夢みたいな申し出に、俺はどう答えたらいいんだろう。今日みたいに君と話すのは、最初で最後だと思っていた。

 組織には二ノ瀬香乃葉さんと接触する事を厳しく禁止されている。今も鮫島さんは俺達の様子をずっと見ているはずだ。どう思われているのか。

「あ、ご、ごめん、嫌だったら、いいの。ただ話し相手がいたらいいなって……」

「一緒に走ろう」

 俺の言葉に君は一瞬絶句して、それから照れたみたいに顔をそむけた。

「……よかった。私も一応女の子だから、夜中に一人で走るのちょっと怖かったの。男の子と一緒なら安心です」

「おれもよかった」

 待ち合わせの時間を決めていると通りに出た。

「私こっち」と家の方向を指す。

「家まで送ってくよ。俺他にやる事ないから」

「え!……ちょ、いや、んーと……」

 君はわかりやすく、困って戸惑って怪しんでいる。

「二ノ瀬さんがさらわれたり襲われたりしないように、これから毎晩そうする。心配だから」

 正確にはこれからも、なんだけど。

 君は目を丸くしてから「……えへへへへ」と笑って体をくねくねさせた。

「本当に、なんなの? 君は? 全然照れないでそんな事言えちゃうんだ?

 ……ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて、頼んじゃおうかな。よろしくお願いします」

 俺の正面に向き直って、君はペコリとお辞儀をした。

 二人で住宅街を少し話をしながら歩いた。家の前で君は俺に「明日ね」と手を振った。

 本当に、夢みたいなことばかり起きた。一人で歩きながらこの日起きた事を反芻する。こんな事が起こりうるとは。彼女が俺を心配していたなんて。

 組織の車の前に鮫島さんが立っていた。

「おめえ、何やってんだ?」

「すみません」

「知らねえぞ、俺は」

 叱責するような強い口調だけど、顔は笑っていた。

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