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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
第一章 秘密組織とストーカー
10/26

10.うらやましいかな

 組織のアジトへ帰るには迎えの車を呼ぶ必要がある。正確な場所を俺からも隠す為、アイマスクを付けられて運ばれる。

 待っていた俺と俺の肘に手を掛けて笑うルナを見て、構成員の男は怪訝そうにした後キリカさんに確認し、組織へ連れ帰った。

 一応、他の組織からの脱走者だと説明してあったのだがキリカさんは、

「……私があんな事言ったからって、昨日の今日で違う女の子ナンパしてくるの? 香乃葉様への想いはそんなもの? なんなの、男って。死んだら?」

 と俺を軽蔑の眼差しで射抜いた。

「……違います。とりあえずルナの話を聞いてみて下さい」

 キリカさんは俺に手を振るルナを引っ張って別室へ移った。たぶん、3時間は出て来ないだろうな。


「……大体のところは、かろうじて、理解しました」

 5時間後、部屋から出て来たキリカさんはげっそりした様子でそう言った。

 ルナは当然のように俺の横に座って、ニヒっと笑った。なぜか上機嫌だ。両腕を俺の腕に絡ませる。細身の身体なのに胸が大きくて、ムニムニとした弾力を感じる。俺の顔はたぶん引きつっていた。

 そんな俺達をキリカさんは微笑ましげに見て、

「まあ、彼女を組織に置いても良いでしょう。大きな戦力になりますし」

 そう言ってからニヤッと、いやらしい笑みを浮かべた。

「それにね、私安心しちゃった。あなたも女の子と普通に仲良くできるのね」

 なぜ、まるで俺のお姉さんみたいな心配をしていたんだ?

「これからはルナさんの為にも、今までみたいな無茶したらダメよ? 香乃葉様の護衛はしっかりこなして、ちゃんと無事に帰ってくるの」

 意味有りげな視線を向けられるが、意味がわからない。それから彼女は時計を見て、ゆっくり立ち上がった。

「ルナさん、先程も伝えた通り明日から一週間、我が組織で任務に就く為の研修を行ないますから。よろしくお願いします。

 それじゃ、後は若い二人だけで、ね」

 なんだその気の回しようは。ルナはハーイと返事してから俺を見上げて、にへへ、と笑った。

「あ、武史君、くれぐれも変な事はしないように。物事には順序がありますから。徐々に段階を踏んでゆくのよ?」

 ……キリカさんはなにか勘違いをしているようだ。フンフンと鼻歌まじりに立ち去った。

 殺風景なアジトの部屋で二人きりになると、ルナが興奮気味に話し始めた。

「てゆっかー、キリカさんマジ話わかるし。ルナここに居てもいいって。超ラッキー。

 香乃葉様? の事も全部聞いた。タケシがストーカーで、マジそれは引くしキモいし犯罪だし、だけど純愛? 見てるだけでいい? 守りたい? マジ意味わかんないけどそれ聞いてルナ超泣いて。

 この前誘拐されそうな香乃葉ちゃん助けた時、タケシ鬼みたく強くて、でもルナが襲った時全然弱くてナゾだったけど、女の子だから油断したとかじゃなくて、香乃葉ちゃんのタメじゃないと戦えないとか、マジイケてるしソンケーってゆうか……」

 ルナは言葉に詰まってうつむいた。

「……うらやましいかな」

 ルナは顔を上げて二パッと笑顔をつくった。鼻が少し赤い。

「マジいい話聞いた。超感動。誰かにそんな風に想われてみたいってゆうか。ストーカーはカンベンだけど。

 ルナ、彼氏とかいた時ないし、好きになってくれる人とかいればなって、思った」


 それから俺とルナはひとしきり話に花を咲かせた。

 昼間、カラオケ屋での謎行動。あの時探していた本とは?

 彼女の言うには昔は今のように端末で曲検索ができず、分厚い電話帳のような本で曲を探し、番号を打ち込んでいたのだそうだ。一曲百円でコインを入れて歌うシステムや、コンテナのようなカラオケボックスというものの存在も初めて知った。古代文明の不思議な風習の話を聞いている気分になった。

 彼女に聞かれるがまま、芸能界の情報をスマホで調べて教えてやる。モー娘。のメンバー達のその後を知るに、彼女はその都度率直で感情的なリアクションを見せてくれた。

 テヘペロというのを動画で見せるとすぐにマスターして、実践してきた。ちょっとイラッとして、ちょっと可愛かった。

 夜も更けた頃にルナは立ち上がって、

「そんじゃ。しばらく会えないけど。無茶すんなよ? タケシが死んだらルナ泣くし」

 じゃねー、と手を小さく振って部屋を出て行った。俺もおやすみと手を振る。

 ルナに彼氏がいた事がないというのは意外だった。明るく裏表の無さそうな性格で、あれだけ可愛いいのに。きっと、すごくモテるのだろうと勝手に思っていた。

 だけど、組織で育ったって言ってたし、出会いが無かったのかな。男の好みが厳しいのかもしれない。

 俺は部屋に戻りながら、二ノ瀬香乃葉さん以外の女の子の事をこんなに考えるのは初めてだと思った。俺が死んだら泣いてくれるんだ。そんな人が世界にいるんだな。なんとなく心がふわふわとして、今までにない気分になっていた。

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