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幼い頃の記憶
私が溺れそうになった時
手を差し伸べてくれたのは
誰だったのだろう
降りそそいだ水飛沫が
潤んでいて麗しかった
僕、山宮潤美は悩んでいた。
悩んでいたのではなく、現在進行形である。
いやいや・・である。じゃなくて、ってもういいや。
僕の心とオソロなのか、双子コーデなのかはわからないが、カフェのお洒落な窓から見える空は薄暗い色をしていた。
とりあえず曇ってきた思考を晴らすため、頼んでおいたアイスティーを一気に飲む。
・・ごくんっ
「あああっつぅぅ!!!!」
ぶはっ!!
「ちょッ、潤美!!熱い紅茶を一気に飲まないの!!そして零さないッッ!!」
「ごめん孔雀ぅぅ~・・」
まったくこの子は~・・。
と、ため息混じりに言いながら、超高そうなバッグから超高そうなハンカチを取り出し、濡れてしまった服やテーブルを惜しげも無く拭いてくれるのは、超短大級のお嬢様、燎野孔雀様である。
たしかお父さんが、社長なんだっけ。
どこのお嬢様も金髪美形がデフォなんだなぁ。
と、つくづく思う。
それに比べて僕は・・決して可愛い訳でもなく童顔、幼児体型。
お金が無いので、自分でカットした結果、段々短くなり(良く言うと)アシンメトリーなミディアムに落ち着いた。
ただ、僕がひとつ自慢できるのが「色素が少し薄い」ということで、自慢できるのかできないのか微妙なラインだ。
「とんだ挑戦者ね。」
テーブルを拭き終わった孔雀様が告げた。
「うぅ・・そうだけど、挑戦者って書いてバカって読まないでよ」
「あら、よく解ったわね馬鹿」
「そのままじゃんか」
バをヴァにしたって少しもカッコ良く無いよね、とか思いながらちょっとロイヤルな感じがして嬉しかった僕は正真正銘のヴァカだ。
「ありがとう孔雀~!!」
「・・あんた、馬鹿って言われて嬉しいの!?」
「違う違う!!そーじゃなくて、拭いてくれたことだってば!」
「そうねぇ。」
女性ならハンカチくらい持っておきなさい。レディなら常にハンカチは2枚持っておくもんよ。
なんでって・・自分用とあんたみたいなドジな他人様用とね。
そんなことを言って、孔雀はアイスコーヒーが入ったティーカップを上品に口元に近づける。
その行為に僕は、忘れていたことをハッと思い出して疑問に思った。
「そいえば僕、アイスティー頼んだんだけど・・」
「何言ってるのよ」
コトンとティーカップを置き、孔雀はため息をついて苦笑する。
「"アイスティー、ホットで!"・・って可笑しな注文したの、あんたじゃない。」
あれ?そうだっけ?
う~ん。
僕は乏しい記憶を頼りに、思い出すように脳みそを畝ねった。