ロロ村より、
「カミーラ、おはよう」
「おはよー」
太陽が昇るか昇らないか、そんな早い時刻から私たちの村、ロロ村の活動は始まる。
「もうすぐロロの実の収穫時期ねー」
「春ロロは人気だし、今年は量も多いから期待できるわねー」
他愛の無いおしゃべりをすることが、この村の女たちの、そして私の楽しみ。
でもその間も誰一人、仕事の手を止めるものはいない。みんな働き者だ。
一つ一つ確認し、傷んだ実を見つけたら摘み取っていく。
「今年は量だけじゃなくて、質も良さそう…ってあれ?そういえばサーニャは?まだ姿が見えないけど…」「なに言ってんのよ、カミーラ。あの子は新婚よ、遅れるに決まってるわでしょ」
「あー、そうだった」
先々日、親友のサーニャがトルテという村の若者と結婚したのだ。
村人総出で二人の門出を祝い、ちょっとしたお祭り騒ぎだったのを思い出した。
「あのとき飲んだロロ酒、おいしかったわねー」
「ほんとねー。というわけだからカミーラ、さっさとあんたも結婚しなさい」
え、なんでそうなるの。
「あんたが結婚したら、またロロ酒が飲めるもの」
「そんな理由で結婚したか無いわよ!…それにこんな嫁き遅れ、貰い手なんていないわ」
そうなのだ。私は今年21。18が嫁ぎのピークといわれているこの御時勢、すでに私は立派な嫁き遅れなのだ。
「大丈夫よー、同じ嫁き遅れ仲間だったサーニャも結婚できたのよ?」
「そうよ、カミーラも結婚できるわ」
「そんな簡単にできるわけ…「そうだよ」ん?」
アンおばさんの所のロンだ。
普段この時間の子供たちは薪拾いの仕事をしているはずだけど…。
「ロン、あなた仕事はどうしたのよ」
「カミーラみたいなおばさん、誰もお嫁になんてもらってくれないね」
こんなカンジにロンはいつも私に憎まれ口をたたく悪ガキだ。
でももう慣れているから腹も立たない。
「ロン!あんたっ!!」
「わあっ!」
でもアンおばさんは怒り、ロンは逃げ惑う。
おばさんの腕をすり抜けながらロンは私に、
「だからボクがもらってやるよ!」
それだけ言うと、さっさと走り去っていった。
「ロン!待ちな!」
「ハハハ、ほらカミーラ、結婚はそう遠くないよ」
「ハハハ…」
私はただ苦笑いするしかなかった。
みんなは笑いながら持ち場に戻っていった。私も仕事を続けるが、さっきより身に力が入らない。
みんな結婚を勧めるが、どうにも私は結婚したいとは思わなかった。
今のまま、父さんと母さんと暮らしていければいい。それしか考えていなかった。
プチリと熟しすぎたロロの実を摘んだ。
今の私はこのロロの実のようだ。熟しすぎて時がたつと、自らの重みで落っこちる。
ならそうなる前にさっさと身を引いて、ほかの果実の邪魔にならないほうがいい。
「(…これでも昔は結婚に憧れていたんだけど…)」
そんなことを考えていたら
「カミーラ!!」
「サーニャ。どうしたの?そんなに急いで。旦那さんとゆっくりしてくれば…」
「ドーヴァさんが…!ドーヴァおじさまが…!!」
「…父さん…?」
ぐちゃりとロロの実が落ちた。