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創造のバベル-Re:the tower of babel  作者: マナ'
第一章 -Return
11/40

4/機器

 扉の先は狭い通路だった。正面は壁で道は左右にわかれている。道はゆるやかなカーブを描き、どうやら環状になっているようだ。

 操佳は正面の壁を手でぺたぺたと触っている。それから右を見、左を見して小さく頷いた。

「二手に別れるしかなさそうね」

 操佳は右の道は一輝と美里、左の道は自分と刀熾で手分けして行くように提案した。

 しかし操佳の提案に一輝は異を唱えた。

「でも、それはどうなんだ? 別れるっていうのは分かるんだが、いくら環状っぽいからって本当に繋がってるかはわからないだろう。繋がっていたとしても両方行く意味ってあるか?」

 操佳はしばし考え込んだ。

「いや、二手に分かれる意味は十分ある。これだけ狭い道、人数は少ないに越したことはないわ。仮に戦闘になったとして、場所が狭いとそれだけ仲間に被害が及ぶ。危ないでしょう? 大丈夫、別れても【遠隔精神感応(テレパシー)】が使えるはずだわ。塔内部では外部より【統一言語(ランゲージオブバベル)】の浸透率が高いからね。そして、環状かどうかについては……」

 操佳は刀熾の方を見た。

「刀熾、此処に来る前にしたように視てくれないかな。あれ、【透視(STV)】っていう【力】なの」

「あ、あぁ。集中すればいいんだよな……」

 刀熾はゆっくりと目を閉じた。マンションを見たときは対象がはっきりとしていた。刀熾自身、自分の【力】というものをまだ自覚できていなかった。今回は対象が広い。どうすればいいのかはっきりとはわからない。

 ただイメージした。

 何かを見る、のではなく視えるということに集中する。

 そうするとすぐに視えてきた。

 脳内に映ったのは道を上から見たような映像。3DCGのように全てが立体的に感じ取れる。

「環状……だな。逆側に階段がある。そして……途中で…………四十五度ほど進んだところから道が極端に狭くなっている…………うっ……」

 ズキン、と頭痛を感じた。すぅと映像が遠のく。視界が元に戻る。

「無理に【力】を使おうとしちゃダメ。刀熾はまだ慣れてないんだから。今のうちから酷使すると、脳が過負荷によって神経回路焼き切れるよ」

 さらりと怖いことを言い、操佳は刀熾の頭を軽く撫でる。

「さて、状況把握もすんだことだしゆっくりしていてもしょうがないし、早速別れて探索と行きましょう。本当は刀熾の【透視(STV)】で敵の情報とかも探ってほしいんだけど、少し今は無茶なようだからね。向こう側の階段で落ち合いましょう」

「分かった」

 一輝と美里は互いに頷き合い、右に行こうとした。そこで操佳は思い出したように一言付け加えた。

「そうそう、【転移】は使わないほうがいいわ。塔内部は【統一言語(ランゲージオブバベル)】の力で満ちている。どんなセキュリティプログラムが成されているかわからないからね」



  †



 道は想像以上に狭かった。

 【透視(STV)】で視えた映像はまだ精度が低いらしい。

 人が丁度二人横並びになれるかなれないかという狭さだった。


 ……で、何故操佳(こいつ)は一々横にいるんだろう。


 操佳は刀熾にベッタリとくっつき歩いている。こんなに狭い道なら前後ろ、縦に並んでいけばいいものを、操佳は刀熾の真横に並んで歩いていた。

 刀熾はわざと歩調を乱して何とかズレようとするのだが心を読んでいるかのように(事実読んでいるのではないかと刀熾は思う)操佳は歩調を合わせてくる。

 しかし、刀熾は口を開くことも出来ず、また横を向くわけにも行かず結局前に進むしかなかった。


 †


「ねぇ反田くん」

「……なんだよ、古雅」

「狭いっ!」

 一輝の後ろをついて歩いていた美里はドカッと一輝の背中を蹴りあげた。

「痛っ! なんで蹴られた! 俺!」

「遅い! 早く先に進んでよ! 空調はいってるのに暑苦しくてたまらないんだよ!」

 言いながらさらにストレートパンチ。

 そんな美里に一輝は顔をしかめる。

 確かに一輝の進むスピードは遅かった。

 一輝としても早く先へと進みたいのだが、この狭さではそうも行かない。それにこんなよくわからない場所に唐突に連れてこられ、色々と不安でもあった。そのせいでなかなか歩が進められない。

 むしろこの状況でも平然としている美里のほうが、一輝からしてみれば不思議だった。


 ていうか……それよりもおかしいのはあいつだよな…………。


 一輝は操佳の顔を思い浮かべる。

 ろくに授業に出ていないようなサボり生徒。たまに現れたかと思うとふっと消える幽霊少女。

 躊躇もなく全校生徒を焼こうとした彼女が真っ当な人間であるとは到底思えなかった。

 そして目的が曖昧な【バベルの塔】への潜入。日本を出る前、操佳が言っていた目的(ことば)


 彼女の真意はわからない。

 第一、なぜ自分らがここにいるかも分かっていないのに。


 不意に何かが落ちるような物音が聞こえた。それは今歩いているその先の方からだった。

「だれかいるのかっ!」

 一輝は狭い通路をなんとか急いで進む。

「どうしたの?」

 突然急ぎ出した一輝を美里は状況を把握できないまま追う。

「いや、今物音がして…………」

 一輝は足元に何か携帯のようなものが落ちていることに気付いた。一輝はおもむろにそれを拾い上げる。

 美里も狭い通路の中なんとか首を伸ばしてそれを覗きこむ。

「なにそれ。古い携帯のようだけど……?」

 拾い上げたそれは長方形の小さなデバイスだった。上部に小さな画面が嵌めこんであり、下には幾つかのボタンがあった。

 見る限り、それは四世代ほど前の携帯電話のようだった。ただ、ボタンにプリントしてある文字は数字でもアルファベットでもなく、周りの壁に刻まれているのと同じ【統一言語(ランゲージオブバベル)】であった。

 色々とボタンを押してはみた一輝であったが、電源すらつかず全く意味はなかった。

「あいつなら何か知ってるかもな……」

 知らず、一輝はそう呟いていた。

「あいつって? ……あぁ、火屋さんのこと?」

 美里は一輝が誰のことを行っているのかすぐに把握した。

「そう、火屋操佳。なんだか、なんでも知ってるって感じだろ、こういうこと。でも信用に欠けるんだよな……」

「そう……? 悪い人には見えないけど?」

 美里の呑気な言葉に「どこがだよ」と呟き、一輝は耳を澄ました。

 軽快な足音が聞こえた気がした。



 †


「あ、一輝。……どうだった? 何もなかったか?」

 十分もかからず、刀熾たちも、一輝たちも階段のある場所へと辿り着いた。今まで狭い通路とはうってかわり、広けたロビーのようになっている。

「そっちは何もなかったってことか? こっちはちょっと気になるものを拾って……ってお前なんでそんなにげっそりしてるんだ?」

 一輝は刀熾の顔を心配そうに窺い見る。

 刀熾はなんでもない、と首を振り平静を装う。実際は、操佳がずっと横にくっついたことに、ずっと緊張していたせいでだいぶ疲れていた。

「なんでもないならいいんだけどな。あまり寝てないし、そのせいもあるだろう。まぁ、ほらこれ。拾った」

 言って、一輝は先程拾ったデバイスを刀熾に手渡す。

「これ、携帯?」

「みたいだけど、電源ボタンも見当たらないし、ボタンは全部【統一言語(ランゲージオブバベル)】だし、よくわからないんだよ」

「【統一言語(ランゲージオブバベル)】? ちょっとそれ貸して!」

 【統一言語(ランゲージオブバベル)】という単語に反応した操佳が刀熾の手からデバイスを強引に奪い取る。

 操佳はそのデバイスを隅々まで調べると、うん、と小さく頷いた。

「これ【バベルの塔(ここ)】の機械なんだから、その通りの使い方しないと」

 操佳が画面中心を軽くタッチすると画面に明かりが点った。

「これ……塔の地図ね」

 そう言って操佳はデバイスを刀熾に渡す。

 手渡された刀熾は画面を覗きこむが光がともっているだけで何も映しだされていないことに気付いた。

「なにも映ってないぞ」

「それじゃだめ。それは頭の中に直接地図の情報を送り込んでくれる。額にかざしてみて」

 刀熾は言われたとおりにデバイスを額にかざす。

「……すごい、本当だ」

 また不思議な感覚だった。頭の中で塔の全景が組み立てられる。立体図のように鮮明に。意識を集中させると、ある場所を拡大して知ることができた。

 刀熾はデバイスを一輝に回し同じ事をするように促す。

「おぉ……これはすごいな」

「うわぁ。このデバイス欲しいなぁ。勉強とか流し込んだり……」

 一輝も美里もただ感嘆の声を上げるばかり。

 操佳は使い終わったデバイスを美里から受け取り、ポケットへとしまった。

「さ、早速いくわよ。この上はどうやら第一研究施設。なにの研究かは知らないけど、進まないことには意味が無いわ。それに注意してね。そろそろ他の誰かと会ってもおかしくないから」

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