第六話
長いこと放置してたのでキャラ変わっちゃいました。スイマセン。
期限一日目。
瑠美は昼食を食べながら、机に肘をつき、大きなため息を吐いた。
ぺちゃくちゃ昨日のドラマの話をする親友二人の声を右から左へ聞き流し、隣の男子グループをぼーっと眺めた。
そこには、転校すぐさまクラスにうちとけた鈴木の姿があった。
どこから、どう見ても普通の学生で昨日あらわれた魔法使いだとは思えない。
鈴木に問いただしてみようかと思ったが、あまりにバカバカしくて、やめた。この近代化が進んだ現代に魔法使いがいると信じているのは子供ぐらいだ。大人からしたら、瑠美達もコドモだろうがそんな幼稚な年頃じゃない。立派なオトナなのだ。
魔法使いなんて奴は、瑠美が寝不足で見てしまった幻想なのだろう。
大きなあくびをして、伸びをする。
「ねぇ、瑠美は誰が好き?」
急に話題をふられ、不発なあくびをはなつ。
「ふぁにぃよ? 何の話」
「だから、好きな人よ。うちは恒平! きれいな美声よね。顔も中性的でかわいい」
「え〜かわいい顔なら、庸介の方だよ。でも、声なら智之さんだよ! かっちょいいもん」
「え〜っ、かっこよさなら、断然小吉つぁんだよ!」
「はぁっ? その人たち誰よ」
朱美と暁子の話に付いていけず、瑠美はたずねた。
「教えない!」
ハモった二人に、ケチなことを言われる。
「それじゃ、わかんないよ」
「わかんなくていいの! それより誰が好みなの?」
「よくわかんないけど、そんなのいないよ」
うなだれる瑠美に二人は驚く。
「うそ〜!」
「あたしら年頃の乙女だよ!」
「だって、いないもんはいないんだよ。だから、困ってるってのに…」
瑠美は長〜いため息を吐く。
「出会いがあればなぁ〜」
「ヒトメボレとか?」
「運命の出会い! 乙女らしい案じゃない」
朱美と暁子が俄然やる気モードに入る。
「本をとろうとして、手が触れ合う。互いに見つめ合う二人。ステキじゃない」
「こっちの方がいいって! 廊下の角をまがった瞬間、ぶつかる二人。抱きとめられて、こういわれるの。大丈夫? もうその甘い言葉でイチコロよ」
「学校でなら、教育実習生と運命の出会いっていいのがいいな。朗読に聞き入っていて、ぼーっとしてたところで名前を呼ばれるの。怒られて、キレイな声によってましたって、告白するの」
「逆もいいね。アタシの声を先生がホメルの。よくない」
「それいい!」
「でしょ!」
「あんたらさ」
瑠美は二人のあがるテンションに呆れる。
「もっとマシな考えないわけ?」
「マシって、どんな?」
朱美が顎に人差し指をあてて、首を傾げる。
「どんなって、言われても…」
瑠美は言葉にきゅうする。考えあぐねて、ぼそぼそと口を開く。
「例えば…よ。階段…から、落ちそうに…なった…ところを…助けられる、とか…」
「平凡ちゃ、平凡だけど、いいじゃん」
「そうね。めったにないことだもんね」
『そういうのがお望みか』
「鈴木?」
無慈悲な魔法使いの声がして、男子グループに目をやった。
「鈴木君がどした?」
朱美が瑠美の顔を覗き込んだ。
「あぁいうのが実はタイプなわけね」
暁子が紙パック入りのいちごミルクのストローに上品に指を添えながら、口を潤した。
「以外ね。軟弱君好きとは」
「タイプじゃない!あんな腹黒魔…」
魔法使いといいかけて、あわてて口をつぐむ。
鈴木が魔法使いなんていっても、失笑を買うだけで、いくら親友でも信じてもらえないだろう。
「へぇ〜そんなディープな関係なわけか」
「あたしは鈴木くんと瑠美てイイカンジになると思うなぁ」
朱美が麦茶のペットボトルを手で弄びながら、男子グループに視線を流す。
「瑠美ってさ、結構恋愛ネタとかダメじゃん。男とか眼中にないでしょ?」
「そうでもないけど…」
朱美の指摘通り、瑠美は男に興味がない。だが、恋愛をしたくないわけでもない。かといって、カレシが欲しいわけでもない。
弱気な態度の瑠美に暁子が片眉をあげた。
「なに!アタシ達には恋話とかできないっての」
「ち、違うって…」
瑠美は首を振り振り、両手も振る。
「ほんとないんだから」
とはいったものの最近気になる人がいないわけではない。瑠美にだって気になる人はいることはいるのだ。
「るぅ…ぃ、ぁ…浅岡、荷物半分持ってやろうか」
階段を上っていると、下方からハスキーな声がかかる。
「あ、浅岡先生!」
瑠美は慌てて振り返る。回収した数学のノートをばらまきそうになり、後ろ足でバランスをとろうとして、足を踏み外す。
「瑠美!」
後方へ傾ぐ瑠美の体は体重にGがかかり浅岡先生の懐に抱きとめられ、そのまま二階踊り場に倒れる。
『願いは叶えたぞ』
「鈴木…あいつ!」
不意に聞こえた魔法使いの声に瑠美は怒りを覚えた。
「瑠美?大丈夫か」
「兄貴こそ、大丈夫」
不審げに安否を問う浅岡先生の腕を退け立ち上がった瑠美は手を差し出す。
「まぁな。お前太ったんじゃないか?重かったぞ」
瑠美の手を借り立ち上がった浅岡先生は腰に片手をあてていた。
「これでも痩せました」
散らばったノートを拾いながら、瑠美は頬をふくらませた。
「兄貴こそ、ぎっくり腰になんないでよ。まったく…ありがと」
「目の前で女にケガさせたらババアに怒られるからな」
「教師が母親をババア呼ばわりしちゃいけないでしょ」
「まぁな、気を付けろよ。浅岡」
浅岡先生は瑠美の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「わかりました。浅岡先生」顔を赤らめ、ぼそぼそと呟き瑠美は顔を背けた。
「鈴木!」
深夜になって、魔法使いに出会った公園に行き大声で叫んだ。
「出てこい!」
「近所迷惑だな。なんか用か」
木の葉が擦れ合う音に振りかえると鈴木が立っていた。もちろん、魔法使いの出で立ちだ。
「なんで、あんなことしたの。あれ、お前の仕業なんでしょう」
「自分の不注意を他人のせいにするな。よかったじゃないか。好きな人といちゃいちゃできて」
さらっと盗み見していたことを公言し、冷たく言い放った。
「たしかに、兄貴は敬愛してるけど…そういう好きとは違うよ」
沈黙が流れる。瑠美はなぜだか泣きそうになる。
「鈴木のバカ!」
絶叫してその場から逃げ出していた。