第五話
鈴木は瑠美の問いを無視して、続ける。
「星に願うとき、不法行為をしたな」
見下すような目を一瞬注いで、鈴木は何もないところから紙を取り出し、瑠美に突き付けた。
『星約第二十条流星に願い事をする際、そのまじないに違法があれば、罰せられること。』
と、紙には書かれていた。
「何これ」
瑠美には身に覚えがあるようでない。
もしかして、三回きちんと言わないで“×3”と言ったことだろうか。もしかしても何もあったもんじゃない。まちがいない。
「それがどうしたのよ、鈴木。あんた何様さ」
ちょっと強気にでてしまっただろうか。だが、そのくらいがちょうどいい。相手が誰だかはわかっているが、正体までは知れていない。要注意だ。
「魔法使い相手に開き直るとは、どんな罰を下すかはこちらの手中にあるというのに愚かなものだ」
魔法使い。瑠美はぽかーんと口を開け、鸚鵡返しにした。
ありきたりすぎる展開だ。こんな突拍子もないこと魔法使いでもなければできないだろう。
いやいや、魔法使いなんて非現実的なことなんてありえない。
鈴木の心は病んでるのかもしれない。または、某児童書の読みすぎで衣裳まで用意してしまったのかもしれない。かわいそうに。そこまで魔法使いになりたかったなんて、瑠美は哀れみの目で鈴木を見る。
それに気付いた鈴木は冷めた目をかえす。
「言ったところで、信じないのが人間だがな」
「当たり前でしょ」
ふっ、と鈴木は笑って、咳払いをした。
「お前への罰即は『三日以内にカレシを見つけること』だ。オプションとして一日に一回魔法が使える。罰にしては好条件の方だな」
鈴木はにっこり笑う。
「困ったことがあったら助けてやる。これが悪魔との取引でなくてよかったな」
悪魔の取引とほぼかわりがないではないか。
ほうけていた瑠美は思う。
三日でカレシをみつけろ。
なんて無理な話だ。スタイルはよくないし、美顔でもない。頭もよくないし、性格もよくない。つまり、器量よしでもなければ、美人薄命なんて縁もない。モテる要因もないのに、たった、たった三日でカレシをみつけろだ。冗談は余所で言ってほしい。それにカレシ欲しいて願ったのは冗談半分だったのだ。
瑠美は頭を抱えてしゃがみこんだ。本気じゃないのに。
「うまくいくことを祈ってやるよ」
そう言い置いて、鈴木は箒に乗りさっさと帰った。
「どうしよう…」
瑠美は落ち込んで、空を眺めるどころじゃなくなった。