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ドリームオブレイニーデイ

今回はPixivで活躍しておられる椿 龍燕さんのオリキャラである、「迦楼鴉かるあ」とコラボさせていただいた話です

椿さんほんとありがとうございました!


椿さん→ http://www.pixiv.net/member.php?id=2369442

 まるでバケツをひっくり返したかのような大雨だった。

 登校時は軽く曇っている程度だったから、傘がなくても何とかなるだろうと楽観的に考えた俺を、まるで嘲笑うかのように雨は午後から降り始めた。何故か妙に強い風もあいまって、横殴りになっている雨粒は容赦なく俺の顔面へ叩きつけられる。

 髪の毛の先から靴下の中まで全身ズブ濡れ。カッターシャツはビショビショのスケスケで、現在俺の姿は誰も得しないスケスケサービスモードだ。

 上半身にまとわりつくカッターシャツと、歩く度にグチョグチョと不愉快な音を立てる靴下に舌打ちしつつ、俺――久々津弘人くぐつひろとはどこか雨宿り出来る場所を探して全速力で走っていた。

「超会どころじゃねえな……」

 いつもなら、学校の後は超会ちょうかいの本部へ直行なのだが、流石にこの状況だと本部より先に家に帰りたい。ビショビショの状態で本部へ行っても、本部の中までビショビショになるだけだし、どうせ行くにしても一度家で体勢を整えるべきだろう。


 超会。というのは超常現象解決委員会の略称で、超常現象解決委員会とは、この町――蝶上町ちょうじょうちょうに存在する非公式の団体のことである。

 この町は、どういうわけか通常では起こり得ない超常現象が頻繁に起こる。幽霊にUFOに妖怪、果てにはUMAまで何でもござれとでも言わんばかりの超常現象発生率であり、そのバリエーションも何故か豊か。そんな超常現象達を解決するために、ボスこと藤堂鞘子によって作られたのが超常現象解決委員会、通称――――超会。

 そして俺は、その超会の数少ないメンバーの一人だ。


 雨にビシビシと打たれながらも走り続けたが、依然として雨宿り出来そうな場所は見つからない。車道では車が通り過ぎるばかりで、傘を忘れてズブ濡れになっている哀れな男子高校生を助けてあげようなどと考えてくれるドライバーは一人もいない。まあ、当然だけど。

 これからは鞄の中に折り畳み傘を常備しておこう、とボンヤリ考えつつ、俺と同じくビショビショになっている鞄をチラリと見た直後、俺はピタリと足を止めた。

 目の前にあるのは真っ赤な鳥居と石段。そこにあるのは間違いなく――

「神社だ」

 ボソリと呟き、俺は急いで鳥居の下をくぐり、石段を駆け上った。

 こんな場所に神社なんかあったのか、と疑問に思いはしたが、今はそんなことはどうでも良い。とにかく雨と風をしのげる場所に逃げ込まないと……。

 体力測定の時でも出せないような速度で石段を駆け上り、俺はすぐに屋根のある社殿へ、駆け込み、賽銭箱にすがるようにしてその場へ座り込んだ。

 風のせいで横から少し雨粒に打たれはするが、上からの雨粒を防げただけでもかなり違う。社殿の外にいるよりは今の方がよっぽどマシだった。

「ふぅ……」

 安堵の溜息を吐いた後、俺はバッグの中から財布を取り出し、中から百円玉を取り出すと、賽銭箱の中へと投げ入れた。

 何の神様かは知らないが、とりあえず感謝。

 ついでに財布の中を確認したが、バッグの中にあったせいか中身は無事なようだった。

 再び安堵の溜息を吐き、俺は財布をバッグの中へ収めた。

 この神社、どういうわけか人の気配が全くしない。神主さんや巫女さんがいてもおかしくないハズなのに、まるでここに誰もいないかのように人気がない。

 もしかするとここは廃神社なのかも知れない……。そう考えると、ちょっと不気味だが背に腹は変えられない。とりあえず、雨が落ち着くまではここで雨宿りしていよう。

 廃神社だと思い始めた途端、賽銭箱に入れた百円玉が惜しくなってきたが、もう入れてしまったものは仕方がない。ちなみに、確認すると賽銭箱の中には百円しか入っていなかった。

 つまり、俺は廃神社にある空の賽銭箱の中に、全く意味のない寄付をしてしまったことになる。

 どうせ入れるならコンビニに置いてある募金箱に入れて、世界の恵まれない子供達に寄付した方が良かった……などと後悔しても時既に遅し。

 軽く溜息を吐きつつ、俺はビショビショになって身体に張り付いているカッターシャツを脱ぎ、軽くその場で足元へ絞った。

 すると、まるで水を染み込ませた雑巾の如く水が滴り落ちていく。同じようにして靴下も脱ぎ、絞る。流石にズボンまで脱ぐ気にはなれなかったから、とりあえずカッターシャツと靴下だけ。

 カッターシャツと靴下を、干すようにして賽銭箱の上へ広げ、俺は犬のように頭をブルブルと振って濡れた髪から水滴を飛ばした。

 雨の勢いは、弱まらない。

「……親に電話すりゃ良いじゃん」

 馬鹿か俺は。

 携帯あるんだから、親に連絡して車で迎えにきてもらえば良いだろ。

 簡単なことに今まで気付かなかった自分に呆れつつ、思ったより早く家へ帰れることに喜びながらバッグから携帯を取り出し、画面を開いた。

 一面闇。

 画面は真っ黒なまま、どのボタンを押してもうんともすんとも言わない。電源もつかない。雨の中で壊れてしまったんじゃないかと心配したが、そういえば電池なかったなと思い出し、ただの電池切れであることを理解する。と同時に、自分の間抜けさにこの短時間の内の何度目とも知れない溜息を吐いた。

「アホだ……俺……」

 自分が哀れ過ぎて何も言えねえ。

 ガックリと肩を落とし、恨めしそうに地面へ降り注ぐ雨粒を眺めていた――その時だった。

「あのー」

 不意に、剥き出しの背中へ声が飛ばされた。

「えっあっはい!?」

 突然のことに驚きを隠せず、声を裏返しながら振り返る。

「だぁれ?」

 背後にいたのは、あどけない表情を浮かべた一人の少女だった。

 着物風の服を着たその少女の年齢は俺と同じくらい……のようにも見えるが、それよりも幼い印象も受ける。黒く長い髪は腰元まで伸びており、湿気の多い雨の日だと言うのに、その艶は美しく保たれている。長い髪から少しだけはみ出ている耳は、まるで鳥の羽のような形をしており、人目で彼女が人間ではないということが察せられる。首元には三日月の形をしたネックレスがかけられており、彼女を美しく装飾している。

「あの……服……」

 彼女は右手で俺を指差すと、どこか言いにくそうにそう言った。

 あ、そういや俺今上半身裸じゃん。

「うわ、ちょっ……!」

 慌てて生乾きのカッターシャツを身に着けました。



「かるあ?」

「うん、迦楼鴉かるあ

 ベッタリと身体に張り付くカッターシャツの不快感に耐えつつ、彼女の名乗った名前を俺が復唱すると、彼女――かるあはコクリと頷いた。

 俺がカッターシャツを着た後、ちょこんと俺の隣に座ったかるあは、まだ何も話していないのにも関わらず、もう既に楽しそうな表情を浮かべていた。

「あなたは?」

「俺か? 俺は……久々津弘人」

「ふーん、ひろとかー」

 何がそんなに楽しいんだ? と問うてしまいたくなる程、かるあはニコニコと微笑んでいる。

「えっと、かるあ……は、ここの神社の人?」

 一瞬呼び捨てにするかさん付けにするか迷ったが、何だかかるあは「さん」って感じじゃないので呼び捨てに。同い年くらいっぽいし。

「うん、そうだよー」

「あ、なんかごめん勝手に雨宿りしてて……」

 そういや俺無断で雨宿りしてんだよな。

 でもこの神社、入った時人の気配は全くなかったような……。それに彼女の耳、あの耳は明らかに人間のものじゃない。ああいうのに慣れている俺だから驚かないけど、よく考えたらかるあって「超常現象」の類っぽい。

「いいよいいよー! 雨宿りくらい! それにひろと、おさいせん入れてくれたし……」

「お賽銭? ああ」

 さっき入れた百円玉のことか。

 てっきり意味のない寄付になってしまったんじゃないかと思っていたが、そういうわけではないらしい。百円玉が無駄にならなかった安心感と、この神社に誰かがいた、という安心感が同時に訪れ、俺はほっと胸をなでおろした。

「おさいせんありがとー!」

「いやいや、こっちこそサンキュ。雨宿りさせてもらって、助かってるよ」

「へへー」

 かるあはにんまりと笑うと、賽銭箱を叩きながらもう一度「おさいせんありがとー!」と繰り返した。

 見た目は高校生くらいなんだけど、その仕草や言動はどこか幼い。下手すりゃ小学生くらいなんじゃないかと思う程だ。

「ひろと! ひろとは雨好き?」

 不意に、かるあはそんなことを俺へ問うた。

「いや、俺はあんま好きじゃないな……今日もこうして酷い目にあったし」

 とりあえず今日の大雨のせいで、しばらくは雨なんか大嫌いです。

「そっかー。かるあも雨きらーい。空とんでる時、羽がぬれちゃうもん」

 あ、やっぱ人間じゃないんだ。

 害はなさそうだし、とりあえず深く言及はしないでおく。

「でもね、今は好き」

「今は?」

「うん」

 屈託のない笑顔を浮かべ、かるあはやや大げさな動きで頷いて見せた。

「だって、神社に人が来てくれたから!」

「それってもしかして……俺のこと?」

 うん、と頷き、かるあはもう一度屈託なく笑った。

 ただ雨宿りするために来ただけなのに、そんな風に喜ばれると何だか照れ臭い。自分の顔が徐々に赤くなっていくのを感じ、俺は咄嗟にかるあから目を逸らした。

「こうしてだれかとお話するの、ひさしぶりなんだー!」

 瞬間、柔らかいものが俺の冷えた身体に触れた。

 暖かい温もりが、雨で冷え切った俺の肩を少しずつ温めていく。しばらくその温もりを堪能し、俺の表情が少しにやけ始めた頃……やっとのことでその柔らかさの正体に気がついて、俺は慌ててかるあを俺の身体から引き離した。

「な、何で抱き付くんですか!」

 うろたえ過ぎて敬語だし、声裏返ってるし。

「うろたえちゃだめ! ドイツ軍人はうろたえない!」

「ドイツ軍人だろうがなんだろうが、女の子に抱きつかれたらうろたえるわ!」

「シュトロハイムはうろたえなかったよ?」

「お前抱きついたことあんのかよ!?」

「うん、足のあたりに。シュトロハイムをとりこみながら」

「サンタナじゃねえか! 危うく俺も取り込まれるところだったわ!」

「だきついちゃだめ?」

「駄目です、うろたえるので」

「あァァんまりだァァァ」

「それはエシディシだろ」

 サンタナなのかエシディシなのかハッキリしろよ。



 それにしても、さっきからピコピコとかわいらしく動いているかるあの耳が気になって仕方がない。最初に見た時からずっと気になってはいたんだが、ああもピコピコ動かれると余計に気になってしまう。何度か触ろうと手を伸ばしたが、流石に急に触るのは失礼なのでやめる。でも「耳触っても良いですか?」って断ってから触るのもなんかおかしい……っつか変態臭い。

「かるあはね、神さまなんだ……」

 不意に、外で降り続けている雨を眺めながら、かるあは呟くようにしてそんなことを言った。

「神様?」

「うん、この神社でまつられてる神さま。だからえらいんだよ!」

 どやっ!? とでも言わんばかりの表情(つまりドヤ顔)で、両手を腰にあてて胸を張るかるあ。

 彼女の、かるあの言うことが本当なら、彼女に関する色々なことに合点がいく。かるあが人間じゃないと思しき発言をしたことも、人間のものとは思えないあの耳も――


 そして、何故この神社に人がいないのかも。


 この神社には、人の気配がない。まるで廃神社であるかのように。

 ――――こうしてだれかとお話するの、ひさしぶりなんだー!

 そう「ひさしぶり」なんだ。ここに人間がいるのは。だからかるあは現れた。久しぶりに会えた自分以外の誰かと「お話」するために。

「どう? かるあってすごいでしょー!」

 無邪気に見えた、かるあのその瞳の奥に、どこか寂しげな色が隠されているように見えた。

「ああ、すごいよ」

 ポンと。かるあの頭の上に右手を乗せる。最初は呆気に取られたような表情をしていたかるあだったが、やがて嬉しそうに……でも少しだけ恥ずかしそうに、頬を赤らめてニコリと微笑んだ。

「ねえ、雨はもう、やんじゃうのかな?」

 不意に、先程までと比べてかなり弱くなった雨を眺めつつ、かるあは不安そうにそう言った。

「かるあは……やだよ。雨がやんじゃうの」

 屋根にたまっていた雨の雫がこぼれ落ちて、泥が少しだけ跳ねた。

「雨がやんだら、ひろとはかえっちゃうから……」

「来るよ、また」

 俺の言葉に、かるあは驚いたように眉をピクリと動かした。

「雨が止んでも、また来るよ。賽銭入れに……今度は皆も連れて」

 詩安に紹介すれば、どんなことを言うだろうか。詩安はきっと、かるあと仲良くしてくれるハズだ。

 理安は多分、耳を触りたがるだろうな……。

 ボスはどうだろ? あの人見かけによらずかわいい物が好きらしい(詩安調べ)から、かるあのことを沢山愛でるのだろうか。

 そしてシロは……多分、かるあと一緒にお菓子でも食べるだろ。

 そんな他愛のない想像を膨らませていると、かるあは寂しそうな視線を俺へと向けていた。

「……かるあ?」

 俺の言葉に、かるあは言葉では答えない。ただ悲しげに、首を左右に振るだけだった。

「ひろと……わすれないで」

 そっと。かるあは俺の、まだ乾き切っていない身体に顔を埋めた。

 冷えた俺の身体を、もう一度かるあの暖かい温もりが温めていく。

 今度は、離さなかった。

 しばらくそうしていた後、かるあはそっと俺から離れると、付けていた三日月形のネックレスを外し、そっと俺へ差し出した。

 戸惑いながらも俺がそれを受け取ると、かるあは嬉しそうに笑みを浮かべ――

「ありがとう」

 と、そう言った。





 静かに目を開けると、既に空は赤く染まっていた。

 一瞬どういうことなのか理解出来ず、俺はポリポリと頭をかきながらこれまでの出来事を反芻し――すぐにかるあの姿を探した。

 でも、そこにはかるあどころか神社すら存在しなかった。

「ここって……?」

 俺が倒れていたのは、何もない空き地だった。

 どうやらしばらく意識を失っていたらしく、雨は既に止んでいた。

「……夢?」

 かるあも、神社も、まさか大雨ですら……と思ったが、自分が素足であることに気付き、やはり夢ではなかったと判断する。

 俺のすぐ傍に、ほとんど乾いている靴下と靴、そしてバッグが置いてある。やっぱり俺はここで雨宿りをしていたハズ……なんだ。

 だけど、俺が雨宿りをしていた神社はどこにもなくて。

「かるあ……」

 呟いても、彼女の姿は見当たらない。

 ふと、自分が右手に何かを持っていることに気が付き、ゆっくりと握っていた右手を広げてみる。

 俺の右手が握っていたのは、かるあから受け取った三日月型のネックレスだった。

 ――――ひろと……わすれないで。

「忘れないよ」

 独り呟き、俺はネックレスをそっと握り締めた。





 蝶上町には、既に取り壊されてしまっている神社がある。

 鴉の神様を祭っていたその神社はもう取り壊されてしまっていて、その場所は今空き地になってしまっている。

 だけど時々、空き地になっているハズのその場所に、神社の姿が見えることがある。

 その時はどうか、神社に行ってあげてほしい。それで、百円くらいで良いから、賽銭箱にお金を入れてあげてほしい。


 彼女はきっと、喜ぶだろうから。


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