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漫画原作(未作画)

大貧民 ユキト 【シナリオ形式】

作者: 阿僧祇

 ギャンブル漫画の実験作。題材はトランプの大貧民です。リライトにあたりページ制限等は無視しました。全体として構図の変化が少ない構成ですから、表情や背景の描写にいろいろ実験などしてみたい絵師さんにお願いいたします。


■あらすじ

 資産家・一条院家の嫡孫である幸人だが、祖父・重蔵により、相続試験を課せられることになった。それは「大貧民で勝負し、大富豪で終わった者に遺産相続させる」というものだった。

 参加者は、大富豪出身の幸人のほか、富豪に実業家/平民は幸人の同級生/貧民に季節労働者/大貧民にはホームレス。はたして幸人に遺産相続はできるか……いま、数十億の資産を賭けたトランプ・ゲームが始まる。



■登場人物


幸人(ゆきと):一条院幸人。大資産家の孫だが、見かけは普通の高校生。


早百合(さゆり):鐘丘早百合。幸人のクラスメート。


井郷瑠(いごうる):井郷瑠権造。気持ち悪い顔の小男の執事。


江麗奈(えれーな):由利江麗奈。無表情な若いメイド。


片村:片村逸男。中堅実業家風の男。


串田:串田昭文。工事現場労働者。


不詳:本名不詳。ホームレスの老人。


重蔵:一条院重蔵。一条院財閥の総帥で、瀕死の大資産家。


早百合父:早百合の父親。


■凡例


 ハ5 :ハートの5

 クK :クラプのK

 スA :スペードのA

 ダQ :ダイヤのQ

 JOKER:ジョーカー


 セリフでもこの例のように表現していますが、作画時にフォントはマークに変えてください。


 ○夕闇の迫る屋敷前。


  まるで幽霊屋敷のように、暗くそびえる大きな屋敷の前。不気味に風がふく。

  門前には緊張した表情の幸人が立っている。その側に早百合(セーラー服)。

  早百合、驚いて

早百合「一条院の家って、お金持ちだったんだ……」

  早百合、探るような表情で

早百合「このこと、みんなに教えれば彼女になりたいってコも出るかもよ?」

  幸人、不愉快そうに。

幸人「お前もか、鐘丘?」

早百合「え?」

幸人「フン!」

  幸人、さっさと歩き出す。

早百合「あ、待ってよ!」


 ○玄関


  ギィィィ・・・と大きな扉を開き、二人は屋敷に入る。

幸人「井郷瑠さん……。」

井郷瑠「ヒヒヒ……お久しぶりですね、幸人坊ちゃん。後ろの方が、最後の?」

  井郷瑠、気持ち悪い外見の執事。早百合はビビッてる。

  井郷瑠の後ろにメイドの江麗奈が無表情で立っている。

幸人「ああ。よりによって、同級生の鐘丘小百合だ。」

  と、江麗奈が井郷瑠に耳打ち。

井郷瑠「おお、それでは坊ちゃんの……?」

  幸人はその言葉をさえぎるように

幸人「鐘丘は、入院してる父親の代理ってだけだ。で、じいちゃんは!?」

井郷瑠「二階です。他のみなさんはすでにお集まりですよ。ヒヒヒ……」


 ○洋間


  扉を開けると、そこは、暖炉のある広い洋間。

  中央に丸テーブルがあり、片村、串田、不詳の三人がすでに座についている。

  全員に紅茶が出ている。

声「そろったようだな。」

  声の主は、重蔵。車椅子の老人で点滴を受けている。

幸人「じいちゃん、起きて大丈夫なのか?」

重蔵「相続者を決めるまでは死ねん。」

幸人「でも俺、土地や企業なんか要らないって言ったろ?」

重蔵「相続して税金を払い終わったら、あとは売ろうと捨てようとお前の勝手に

 すればいい。損はないと思うが?」

幸人「……わかったよ。」

  幸人、席につく。

  重蔵、息をつく。

重蔵「すでにご存知と思うが……もう一度確認しよう。」

重蔵「勝負は大貧民の5ラウンド。終わったときに、大富豪となっていた者にわしの

 遺産をすべて相続させる。」

  メイドの江麗奈が、幸人と早百合に紅茶をも出す。

片村「あ、あの……本当に、遺産をいただけるのですか?」

重蔵「勝負に勝てばな。」

片村「でも……嫡孫がおられるのでしょう? 一条院幸人さんが……」

幸人「…………」

重蔵「たしかに、こいつは亡き長男の子だ。だが、資産を持つ人間には勝負勘と強運が

 必要……勘と運のない者に金を持たせても、かえって不幸になる。」

片村「だからと言って……」

重蔵「片村君、要らんのかね?」

片村「とんでもない! この屋敷の土地だけでも15億! この資産が手に入れば、

 私の会社も一気に……」

  すでに貰ったような興奮ぶり。

串田「社長さん。それは勝負に勝ったら、の話だぜ?」

不詳「…………」

重蔵「ここにいるのは、幸人以外、わしが適当に選んだ人物だ。この中から相続者を

 決める。異論は無いな?」

全員「…………。」

重蔵「では始めろ。」

  重蔵がトランプをテーブルに置く。


  全員がそれを混ぜ始める。

キャプション「第1R」

キャプション「大富豪:一条院幸人  資産家・一条院重蔵の孫、高校生」

  幸人、不服そうな顔。

キャプション「富豪:片村逸夫  地方の実業家、複数の会社を経営」

  片村、重要な商談の前のように緊張している。

キャプション「平民:鐘丘早百合  会社員の娘、幸人のクラスメート」

  早百合、心配そう幸人に横目を。

キャプション「貧民:串田昭夫  季節労働者、趣味はギャンブル」

  串田、唇を舐めて目が血走っている。

キャプション「大貧民:本名不詳  ホームレス、公園住まい」

不詳「…………」

  不詳、無頓着な、酒に酔ってるかのような表情。


  ピッ、と片村がカードを2枚出す。

片村「交換だ。」

串田「チッ!」

  幸人、カードを広げる。

幸人(心の声)「JOKERは無い……交換で来たのはハAとク2か。」

幸人「じゃ、俺から始めます。」

  ク4+ク5+ク6と揃ったカードを出す。


  時間経過。

  焦ってカードを見つめているのは片村(6枚)、幸人(3枚)、串田(4枚)。

  小百合と不詳は、すでにカードを持たず、カップを手にしたりして見つめている。

  不詳の後ろから江麗奈が紅茶を注いでいる。(作者注:耳打ちできるくらいに

  顔を近づけている……読み手はすぐには気づかないように)

片村(心の声)「クッ……あそこでクKが出されるとは計算外……」

  串田、カードの山の上にダJ+ダQを勢いよく置く。

片村「パ、パスだッ!」

幸人「…………」

幸人(心の声)「ハートのK・Aがある。だけど……」

  片村を見ると、カードを見つめている。

  幸人のカードは、ハA+ハK+ス4

幸人「この後、組カードばかり出されたら負ける……。」

不詳「どうした、坊ちゃん。決断できねえのかね?」

幸人「…………」

  幸人、思い切ってハAとハKを出す。

串田「来たァッ、アガリだ!」

  串田が出したのは、スKとJOKER。

片村「何ぃ、ここでJOKERだと!」

幸人「やれやれ……富豪の2人が残っちゃいましたね。」

片村「クッ……しかし、そうとわかれば……。」

  片村、不適に笑う。

幸人「…………」

  幸人、焦りを隠せない。

  片村、ダ5+ダ6+ダ7と出す。

幸人「……パス。」

片村「フフフ……」

  次は、ハ6・ス6のペア。

  幸人の眉がピクピクと歪む。

早百合「一条院……」

幸人「パス!」

片村「ハハハ! アガリだ!」

重蔵「1R目は、鐘丘君が下剋上……幸人は大貧民に転落か。」

  何人かが、緊張の解けたため息をつく。

  ふたたびカードが混ぜられる。

  幸人の後ろから江麗奈が紅茶を注いでいる。幸人、配られたカードを確かめながら

幸人(視線はカード)「鐘丘、お前もやっぱり資産が欲しいわけ?」

早百合「え!?」


 ○回想


  早百合父、泣きながら早百合の肩を掴み、必死に

早百合父「お前が一条院家の財産を相続できたら……!」「天の与えたチャンスだ、

 絶対、絶対に勝ってくれよ!」


 ○洋間


早百合(ごまかすように)「と、当然でしょ。ウチだって、家計が苦しいんだから。」

片村「苦しいのはこっちだって同じだ。」

  片村、1枚のカードを出す(交換)。

幸人「知ってる。片村産業は投資に失敗して大赤字になってるようですね。」

  重蔵、少し驚いた様子。

片村「なっ……なぜそれを!」

幸人(つぶやき)「資産家の一族が平穏に暮らすには、情報が必要ですから。」

  重蔵、さりげなく幸人を見る。

  早百合も見ている。

  片村、焦って

片村「ビジネスなんだから、失敗するときだってある! それが悪いか!」

幸人「いえ、悪いとは……」

早百合「ビジネスの失敗とウチを一緒にしないでください!」

片村「ほう? 君ん家の家計はなんなんだ?」

早百合「そ、それはっ……」

  早百合、上目遣いにチラッと幸人を見る。

串田「ヘヘヘッ、醜いね、大金が絡むと。」

片村「お前に言われたくない!」

不詳「…………」

  幸人、早百合とカード2枚を交換しながらニヤリ

幸人「鐘丘、協力して俺を大富豪にしてくれたら、家計を助ける分くらい分けてやっ

 てもいいぞ?」

一同「!」

  早百合、怒った表情でガタッと立ち上がり、

  幸人をにらみ付ける。幸人と不詳は平然とカードを見ている。

  片村は目を血走らせている。早百合に遅れて立ち上がった串田が叫ぶ。

串田「イカサマだ! 反則だ! 失格だ!」

幸人「まだやってないよ?」

  串田、鬼の首でも取ったように必死にわめく。

串田「反則は企んだだけでも失格だ! お前ら2人、失格だぁっ!」

重蔵「落ち着け。」

  重蔵、静かに

重蔵「協力も戦術のうち、してはいかんというルールはない。やるかどうかは

 お嬢さんしだいにすぎん。」

  串田、絶句。

  早百合も息をついて座りなおす。


キャプション「第2R」

キャプション「

  大富豪:鐘丘早百合

  富豪:本名不詳

  平民:串田昭文

  貧民:片村逸男

  大貧民:一条院幸人

  」


  小百合が二枚のカードを渡す。(カード交換)

  幸人、それを見て少し驚く。

  小百合、顔を赤らめてそっぽを向く。

幸人「無意味なことはやめておけ。さっきのは冗談だから。」

  カードを返す。

他の一同「???」

幸人「今は要らない、これは鐘丘が使ってくれ。低いカードを頼む。」

串田「! きっ、キサマら、反則したな! 反則負けだ!!」

幸人「してないよ。事前に返したじゃないですか。」

串田「それでも反則だ!」

幸人「貧民のときの串田さんが、カード交換後もJOKERを持っていたのは、反則じゃ

 ないとでも?」

片村「あっ、そういえば!!」

串田「うっ!! ……や、やかましい! お前の反則負けだ!!」

片村「お前のほうがやかましい!」

串田「何おう、やんのか、てめえ!? 」

幸人「まあまあ……勝負はケンカじゃなくトランプですよ?」

  幸人を見つめる一同。

幸人「トランプで勝負してるときに拳を使えば、負けを認めるのと同じです。」

片村「……正論だな。」

串田「ちっ!」

重蔵「…………」

  重蔵、少し驚いたように何か考えている。

  時間経過。

  すでにかなりのカードが出されている。手持ちはそれぞれ3~5枚。幸人は4枚、早百合は3枚。

  串田、ダ7。

  片村、クJ。

幸人「…………。」

串田「どうした、坊ちゃん。大口叩いといてよ。」(馬鹿にしてる)

幸人「……パスです。」

片村(嘲笑)「なんだ、Qも無いのか? じゃ、そこのお嬢ちゃん(ルビ:クィーン)に

 助けを求めたらどうだい?」

早百合(すごく嫌そうに)「やめてください!」

幸人(イラついて)「パス! 鐘丘の番だぞ。」

  早百合、不愉快そうな顔をしながらスAを出す。

不詳「……パス」

串田「パス」

片村(顔をピクピクさせてる)「…………」

串田「なんだ社長さん?」

片村「少し考えさせろ。」

串田「男は決断だぜ?」

幸人(横目で見ている)「…………」

  片村、決心したようにハ2。

片村「どうだ!」

幸人(苦しそうに)「……パス。」

  片村、ニヤリ。が、

早百合「………」

  早百合が戸惑い気味にJOKERを。

串田と片村「カーーーーッ!」

串田「そんなのアリか! 反則だ!」

早百合「別に反則はしてません!」(そして静かに)「これでアガリです。」

  早百合が最後に出したのはダ4。

幸人「…………」(まだ5枚持ってる)

  小百合、「だから言わないこっちゃない」という表情で幸人を見る。


  時間経過。

  みんながカードを混ぜてる。

キャプション「第3R」

キャプション「

  大富豪:鐘丘早百合

  富豪:串田昭文

  平民:片村逸男

  貧民:本名不詳

  大貧民:一条院幸人

  」


  時間経過。

不詳「上がりだ。」

幸人「……」(手にはカードが3枚)


キャプション「第4R」

キャプション「

  大富豪:片村逸男

  富豪:串田昭文

  平民:本名不詳

  貧民:鐘丘早百合

  大貧民:一条院幸人

  」


  片村、ハ5。

  串田がス8。

  不詳がダ9。

  小百合がダ10。


幸人(広げた持ち札を見つめながら)「……パス。」

小百合「!!」

串田「なんだ、坊ちゃん。絵札の一枚も無いのか?」

幸人「……」

片村(札を出しながら)「ホントに運の無いヤツ。資産なんか持っても無駄だな、私に

 譲って正解だよ。」

串田「ま、まだおめえの物と決まったわけじゃねえ!」

不詳「皆さん、そんなに遺産を独り占めしたいんですかねえ?」(札を出す)

片村「貴様だってそうだろうが、このコ■キ野郎!」

不詳「これでアガリ。」

小百合「私もアガリです。」(ダ2を見せる)

片村「待てキサマら、卑怯だぞ!」

小百合「卑怯なことは何もやってません。」

江麗奈「……最後の勝負の前に、お食事です。」

  江麗奈がカートに、ふたをした皿を載せて持ってきて、全員勢いをそがれる。

重蔵「人間、空腹になると怒りっぽくなるからな。」

  江麗奈がふたを開けると、

小百合「サンドウィッチ……」

不詳「なるほど。カードゲームを中断せずに食事をするため、サンドウィッチ伯爵が

 考案したという……」

片村「この場にふさわしい食べ(メニュー)ってわけか。」

串田「フン! とっとと食って、金をもらって帰るぜ。」(バカにしながらとっとと

 食べ始める。)

片村(食べながら)「品性下劣とは、君みたいな人のことを言うのだな。」

串田「なんだと!」(口から食い物を飛び散らせながら立ち上がる)

幸人(焦りながら駆け引き)「さすが上手ですね、片村さん。」

  全員の目が幸人に。

幸人「相手を激昂させて冷静さを失わせる。ヤリ手のビジネスマンらしい心理作戦

 だ。」

串田「何っ!? てめえ、これは作戦か!!」(頬張りながらなのでまた飛び散る)

片村「フン……引っかかるほうが悪い。」

串田「汚えぞ、反則だ! フェアにゲームしろ、フェアに!」(飛び散る)

片村(食べながら)「自分が負けたときだけフェアじゃないって言い出すんだよな、品性

 下劣なヤツは。」

串田「何だと!!」

不詳「…………」(意外と上品に食べている)

小百合「……串田さん、食べたものをあまり飛ばさないでください。」

串田(さらに飛び散らせながら)「大きなお世話だ!」

小百合「きゃっ、汚い」

  井郷瑠が重蔵に耳打ち

井郷瑠「旦那様、本当にこんな連中に遺産を相続させるんですか?」

重蔵「…………」

  時間経過

  カードが配られる。

串田「…………」

  串田、歯を食いしばるような表情でしばらくトランプを見つめてから。

  急に椅子から降りて土下座。

串田「頼む! 頼む! 俺に勝たせてくれ!」

  一同、驚いてそちらを見る

串田「もう15年、帰ってねえんだ! これに勝って、大威張りで家に帰りてえ!」

  さらに土下座。

串田「家には妻も子もいるんだ! 頼む、俺に勝たせてくれ!」

片村「フン。泣き落としか。」

串田「何!?」

片村「貧乏人の知恵さ。そうやって泣いて無理を通そうとする。どうせウソなんだろ?」

串田(ものすごく焦りながら)「ウ、ウソじゃ、ねえよ!!」

片村「そうか。ま、15年も帰ってないんじゃ、奥さんだって再婚したろうよ。」

串田(立ち上がり、片村の襟首を掴んで)「なんだとお!!」

幸人「さっきも言いましたが、これはトランプの勝負です。皮肉や拳を応酬したい

 なら、終わってからどうぞ。」

串田「おい、ガキ! てめえ、こんなウチに生まれたからって威張ってんじゃねえぞ、

 コラ!」「何の苦労も知らねえくせに! てめえみてえなヤツがいるから……」

幸人「僕みたいなヤツがいるから、串田さんにも遺産相続のチャンスができた。そう

 ですよね?」

串田「ウッ……」

幸人「最終ラウンドが終わるまで勝ち負けはわかりません。それとも、勝負放棄で

 すか?」

串田「そんなワケないだろ!」(席につく)

片村(心の声)「この坊ちゃん、多少は「人」を心得てるようだな……何かで恩を

 売り、将来は俺の手駒に使う手もあるかもしれん。」


キャプション「第5R」

キャプション「

  大富豪:本名不詳

  富豪:鐘丘小百合

  平民:片村逸男

  貧民:串田昭文

  大貧民:一条院幸人

  」


  不詳と幸人がカード2枚を交換。

幸人「!」

不詳「!」

小百合「?」

不詳「では……私から。」

  ハ9+ス9。

片村「いきなりかよ……」

  小百合、片村を無視してハ10+ダ10を出す。

片村「クソッ」

  片村、スA+ダA

串田(半泣き)「パ、パスだバカやろー!」

幸人「……パスです。」

不詳「…………」

  出したのはJOKER+JOKER。

串田「はっ、反則だ!」

重蔵「…串田君は、よほど反則が好きなようだね?」

串田「え!? い、いや……」

  串田、あわてながらカードに目を落とす。

串田「…………」

串田(じーっ、と手持ちのカードを見て)「…………」

  ダ4+ハ4+ハ5+ス5+ク6+ク7+ダ8+ハ8+ダ9+ク10+ス10+スJ。

  串田、いきなり怒って立ち上がり、

串田「バカバカしい! こんな勝負、やってられるか!」

  カードをテーブルに叩きつける。

重蔵「棄権するのかね?」

串田「やかましい! 金持ちの道楽で俺たちを騙しやがって!」

不詳「騙されてなどおらんよ。」

串田「何ぃっ!」

不詳「このゲームに参加できたことを幸運と思えないようでは……運にも勘にも見捨て

 られとるな。」

串田「何だと、てめえ! 自分が大富豪だからって……」

小百合「この人は、カードで勝って大富豪になったんです。1Rめは大貧民だったんで

 すよ?」

串田「屁理屈を……」

  串田、小百合に殴りかかろうとするが、その腕を後ろから掴まれる。

  櫛田が振り向くと、その口にサンドウィッチが詰め込まれる。やったのは幸人だっ

  た。

幸人「あんた、ギャンブラーなんでしょう?」

串田(サンドウィッチを咥えたまま)「む?」

幸人「勝負は最後まで、勝てる確率が残っている。」「たしかに引き時は大切だけれ

 ど、捨てたらそこで負け決定です。本当にそれでいいんですか?」

串田「…………」

幸人「短期は損気、と言います。」

  串田、しばらく考えてから音を立てて座り、

串田「てめえに言われるまでもねえ!」

  とカードを手に取る。

  不詳、ク8+ク9。

小百合「パス……」

片村「畜生……しょせん、金持ちには勝てねえのか。パスだ。」

串田(嬉しそうに)「そりゃあ。」

  ク10+ス10。

  幸人、カードを見つめて考えている。

串田(嘲笑して)「パスかい、坊ちゃん?」

幸人「……。」

  出したのは、ダ2+ス2。

一同「な、何ぃ!?」

重蔵「…………」

幸人「JOKERはもう出ている。また僕ですね。」

串田「反則だ! イカサマだ!!」

幸人「なぜです?」

串田「大貧民が2を2枚も持ってるわけねえだろ! イカサマだ!!」

不詳「いや。私が彼から受け取ったのはJOKER二枚だった。そして渡したのは3を2枚だ。」

一同「!」

不詳「どうやら、彼には恐るべき勝負勘と強運があるようだ……いままで、我々の癖を

 観察しながら、勝負時を待っていた。そうだろう?」

幸人「…………。」

  パサッと置いたカードは、クラブのJQKA2。

一同「!!」

小百合「なに、それ……」

  幸人の残りカードは4枚。

片村「いや、残りが4枚もある。まだ勝負はこれから……」

小百合「……一条院、お願い! 私に勝たせて!!」

  一同の目が小百合に。

小百合「パパの連帯保証した借金が焦げ付いて……請求額が800万になってるの!」

 「年収300万のパパではとても……それだけ払ったら、残りは返すから!!」

串田「汚えぞ!!」

片村「たかが800万がなんだ、こっちは億の借金があるんだぞ。」

  幸人、しばらく考えてるが、ふと

幸人「おじさんは?」

不詳「ワシの人生はもう諦めてるよ。」

小百合(すがるように)「一条院……」

片村(心の声)「4枚のうち2枚は3……残りの2枚が何かで勝負が……」

  大汗をかいて不服そうに見ている串田と、黙って見つめている不詳。

幸人「……悪いけれど、僕も負けるわけにはいかない。」

  そっと出したのは、3のフォアカード。

  全員が、声にならない悲鳴。

重蔵「決まったようじゃな。」

串田「やってられっか、バカらしい!」

幸人「短気は損気、と言ったでしょう?」

串田「なんだ、勝者の余裕か?」

幸人「違いますよ」

  幸人、全員に向かい

幸人「この勝負で、僕は大事なことを学んだ。皆さんにそのお礼をしようと思うのです。」

片村「お礼?」

幸人「片村さん、あなたの会社の株を買いましょう。49%を5億でどうです? それ

 でなんとか会社を保てるでしょう。」「収益を上げてから適当な金額で買い戻して

 もらえばいい。」

片村「なっ……」(喜び)

幸人「串田さん。あなたには、現金100万円を無利息・無期限で融資しましょう。これ

 で大手を振って実家に帰れるはずです。」

串田(不服そうに)「なんでえ、そっちは5億でこっちは100万かい。」

片村「君は無償で貸してもらえるんだろ、私は自社の株を売るんだ。それとも君、

 家族か臓器でも売るか?」

串田(あわてて)「あっ、いや……でもいくらなんでも。」

片村「本来ならゼロのところをそれだけ手に入るんじゃないか。」

幸人「ゼロの方がよければそうしますが。」

串田「いや、借りる借りる! 無利息で貸して貰えるなら文句は言わない!」

幸人(不詳に)「栃崎のおじさん。」

  不詳、ジロリと。

幸人「僕はまだ学生です。受け継いだ企業には支配人(マネージャー)を置く必要が

 あります。」

不詳「自分の会社を潰したワシを、支配人に雇うと?」

幸人「かつては祖父のライバルだったあなたです。少なくとも経営手腕は信頼できま

 す。」

不詳「…………」

  不詳、重蔵を見る。重蔵、頷く。

不詳(満足そうにニヤリ)「しかたない。もう一度、ビジネスの世界へ戻るかね。」

幸人「で、鐘丘。」

小百合「イヤ。」

  驚く幸人。

小百合「お情けで保証の肩代わりなんてイヤよ。第一、借りたって返せないもん。」

幸人「いや、貸す気は無い。」

小百合「タダで貰うなんて、もっとイヤ!」

幸人「タダであげるんじゃないよ。代償は結婚。そうすれば、君の借金は僕の借金

 になる。」

小百合「エ!? そ、それって……」

  一瞬喜ぶが、でもすぐ表情が翳り

小百合「でも私、協力しなかったんだよ?」

幸人「だからさ。あそこでズルに乗って来る女なら、ビジネスパートナーにはいい

 けれど、結婚相手にはいやだ。」

小百合「そうなんだ……でも、お金のための、愛のない結婚なんて……」

  小百合、幸人を探るような目線。

幸人(視線をそらしながら)「僕は前から好きだったんだけど。鐘丘も、なんて思っ

 てたのは勘違いかな……?」

小百合「!!」(涙をながして喜んでる)

井郷瑠「へっへっへ……坊ちゃんの部屋には、あなたの写真が飾ってあるんですよ。」

幸人(真っ赤)「井郷瑠!! 余計なことを。」

  見ていた一同、

串田「若いって、いいねえ。」

片村「あんたも、実家に帰って奥さんといちゃつけばいいだろ。」


 ○玄関

  一同が立ち去り、車椅子の重蔵と幸人だけが残っている。

重蔵「いいのか? 資産のほとんどは不動産だ。相続税がかかるし、売れば所得税も

 かかる。あんなふうに大盤振る舞いをしたら、ほとんど残らないぞ?」

幸人「いいさ。じいちゃんには、資産より価値のあるものをもらったから。」

重蔵「何を?」

幸人「勘と運。」

  幸人、トランプを開いて見せる。一番手前にハAが来ている。

幸人「ね?」

  重蔵、じっと見ている。

幸人「俺は運がいいから、じいちゃんはまだしばらく死なないぜ、きっと。」「下手

 すると全快するかもしれないよ?」

 幸人、重蔵の車椅子を押して去っていく。

 彼の後ろの床にはトランプが散らばっている。



    <おわり>


 

「トランプの『大貧民』をネタに、少年漫画の新人賞を確実に取れるような漫画原作を」という受注に対して書いたシナリオでした。

まぁボツったからこうしてシナリオだけ公開してるわけですけど(笑)、、、でも、「確実に賞を取れる」作品を受賞暦の無い僕に注文することにもう無理があったんじゃないかなぁ?

 (^^;A

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[一言] うおぉ・・・ ギャンブル(?)小説として良くできてるし、最終的に参加者全員の問題も解決してハッピーエンド・・・ 何と素晴らしい話だ!!
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