第八話
彼は一体、何歳なのだろうか。
知識の豊富さを感じさせる会話の内容や滑らかな身のこなしから、かなり世慣れた印象をうけるため、お年寄りとはいかないまでも結構な年齢なんじゃないかと思う。
だが、なかなかどうして、この僕の推測を見事に裏切る見た目…。
第一印象どおり紳士であることに変わりはないのだけれど、中身と外見のギャップがありすぎるんじゃないかと思う。
ここまでくれば、いっそ外見はキグルミで中身は相応の他人であった方が納得できる。
若いんだか歳を取っているんだか。まったく不思議な人だ。
これは僕の偏見だけれども、住宅街に、そこだけぽっかりと浮いて現れた異空間のような店の店主というならば”初老”の紳士のほうが、しっくりする。
まあ、若しくは”魔法使い”とか。
だが目の前の神原さんは、どう見たって20代後半から30代なのだ。ただ一応、僕の目測が誤っていなければというのを付け加えたい。
会話は弾むものの、出会って間もない僕たち。突然年齢なんて聞いたら失礼だろうか。いや、女性ならば間違いなく失礼だ。
僕の悪い癖。
ちょっとでも気になると、他人からしたら本当どうでもいい事でもずるずると考えてしまう。これで何度飽きられたことか…。
”三つ子の魂百まで”なんて昔の人は上手いことを言ったものだ。生来からの僕のこういったものはどうしようもなく、また、今となっては前向きに”個性”と捉えるようにしている。
うん。年齢については、追々聞いてみよう。
思考のループに囚われてしまえば、自分はともかく、他人からは電池の切れたロボットに過ぎない。明らかに異常だ。世間とは欺瞞に満ち、マイノリティーに厳しい。
そして僕は、残念なことにマイノリティーであり、臆病者だから必至でそれを隠している。
「神原さん、今更ですけど、この店って家具屋ってわけじゃないですよね?」
さっきから散々会話をしておいて本当、今更。
「そうですね、家具も置いてはいますが家具屋ではないです。うまい名前が思いつきませんが、言うなればセレクトショップというのが当て嵌まるかもしれません。」
整った若い顔に不釣り合いな皺を作りながら彼は答える。
簡単な質問にですら真面目に考えて答えてくれる姿に、彼の真面目さを感じる。
沢山の人間が蠢く中で誰かと誰かが出会うというのは、運命というものの力が働いているんじゃないかと考えてしまう時がある。
そしてそれは出会う人物がよい人であればあるほど、そうであると僕は思う。
悪いところを見付けるのは簡単で、良いところは見付けにくい。
否定することは簡単で、肯定することは難しい。
素晴らしい人とは長く付き合いたい。
神原さんとは長く付き合っていきたい。恋愛感情じゃない人目惚れなんて、今日まで知らなかった。
新しい発見をした。
彼女の出番を奪われた気が…。
さて、次回。