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第七話

促されるまま階段を下ると、昔ながらの喫茶店にあるような本格的なカウンターに大きな暖炉といった凡そ最近ではなかなかお目にかかれないものが視界に飛び込んできた。そこはまるで物語のようで、先ほどの空間に感じた安心感とはまた違った心を落ち着かせるものを感じさせた。


「あの暖炉は使えるんですか?」

本物の暖炉など見たこともない僕は、興味津々で彼へ問う。

「もちろん。今は暖かいですから使いませんが、冬には薪を入れてマシュマロなんか焼いたりすると美味しいですよ。」

甘いものなど食べなさそうな彼からマシュマロなんて可愛らしいお菓子の名前が発せられ、寒い冬に煌煌と照らされる炎、その中へ串に刺したマシュマロを焙って…。などと何とも魅惑的な想像を僕は掻き立てられる。

「…おいしそうですね。」

「冬になったら試してみるといいですよ。ただし、食べすぎには注意ですがね。」

そう言って彼は悪戯小僧のような笑みを浮かべた。

不意打ちの意外な笑顔に、さっき会ったばかりの彼の”紳士”という印象を、僕は早くも”居心地のいい人”に塗り替えていた。

「さて、コーヒーにはミルク?砂糖?」

「両方お願いします。」

暖炉の話をしながら視界に入る色々なものに僕が意識を奪われているうちに、彼は手際よくコーヒーの準備を終わらせていた。

せっかくだからとカウンターの椅子に僕を座らせ、彼はコーヒーとお菓子を差し出す。

これは?と問えば、ヌガー・グラッセです。と聞いたような聞かないような横文字を教えてくれた。第一印象の”紳士”は強ち間違いではないようだ。

お洒落なお菓子の味をもやもやと想像していると、いつの間にかカウンターの反対側にいた彼は僕の隣に座っていた。

「自己紹介が遅れました。私、ここで店主をしています、神原尚人です。」

「僕は、今大学生で、戸塚慶吾といいます。」

自分も名乗っていなかったことに気づき、慌てて自己紹介をする。

「大学生ですか、どうりでお若いと思いました。」

「高校生じゃないですよ、童顔なんでよく間違われるんですけど二十歳越えてるんです。」

おそらく”若い”という言葉に”未成年”という意味を感じ取った僕は、成人であると念を押す。

分かっているんだかなんだか曖昧に頷きながら、ゆらゆらと彼は話す。

「若いって、いいですよね。私みたいに年を取ってしまうと新鮮な感覚が鈍ってしまう。非常に残念です。」

「そういうものですか?」

「そういうものです。」

そう真面目くさって言う彼は、何とも形容しがたい不思議な空気を身に纏っている。

「戸塚君、冷めないうちに、どうぞ。」

彼の雰囲気は、僕に、せっかく淹れてもらったコーヒーの存在をすっかり忘れさせてしまっていた。

そして店だけでなく、店主である”神原尚人”という人物に、僕は、走り出してしまった興味を抑えられなくなっていた。

店主の名前が判明!

ちょっと停滞気味。

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