第四話
人身事故でもあったのだろうか。
この混み具合は半端じゃない。
目的の駅につくなり人の多さに帰りたくなったのは気のせいではない。
クリスマスといえども、これは酷いだろう。
こんなんで一体どうすればいいのかと途方に暮れていると、声をかけられた。
「すみません。」
さすがの人混み。邪魔になってしまったのだろうかと、こちらも謝る。
「っすみません。」
しかし、なかなか目的の店までには距離がある。
「すみません。」
また邪魔なのだろうか。混んでいるのだから状況をみてくれと思い、声の方を向いた。
「すみません、今からどこに行くんですか?」
「はい?」
私の疑問の声など気にもせずに見覚えのない男性は会話を続ける。
「これから少しお時間ありますか?」
見知らぬ男性の言っている意味を汲み取るのに時間がかかった。
これは世にいうナンパ…。
「よかったら、携帯教えてもらえませんか?」
「無理!」
電光石火の速さで断りを入れ、段々と理由もわからずイラついてくるのを感じていた。
見知らぬ人には申し訳ないが、今の私に携帯の話はタブーである。
そこをなんとかと言う男性を無視し、足早に目的地へと向かう。
こんな時にナンパされるのも、こんなにイラつくのも全部慶吾のせいだと半ば八つ当たりをしつつ慶吾へのプレゼントを考えるなどと器用なことをしながら歩く。
そして頭の中はぐちゃぐちゃで、結局買うものなんて思いつかなかった。
そういえば、慶吾の欲しいものの話なんてしたことなかったな。なんて今更手遅れなことを思い出しながら歩いていれば、いつの間にか目的地にたどり着いていた。
「さて、と。メンズ向けの商品は…。」
と独り言つ。
とりあえず彼の好きなものがプレゼントの定番だろうと思いつく。が、その肝心な”好きなもの”が今一わかっていないことに今更ながら気付く。
今まで私は何をしてきたのだろうか。
与えられるばかりで相手をきちんと見ていなかったんじゃないだろうか。
それって、お付き合いしてるっていえるの?
まさか慶吾はそのことに気付いていて香菜の言うとおり愛想をつかしてしまったんじゃないだろうか。
考えれば考えるほど鬱になっていく。
私って、こんなに後ろ向きだったかな。
段々と思考のループに囚われていく私は、大切なことに気付けずにいた。
早くプレゼント買っちゃいなよ!インスピレーションで。
と言いたくなります。