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第二十一話
夕焼色に染まる重厚な調度品達は、冷えた僕を柔らかく迎えてくれた。
神原さんとの重苦しい空気を忘れたくて、普段の僕を装い指定席となってしまったスツールへ座る。
存在を消していた坂本は、飼いならされた犬然として僕の隣へ腰を下ろした。
当たり前にした坂本のその行動は、どんなにか僕を安心させたことだろう。きっと本人は全く分かっていないのだろうけれど。
そんな坂本が嬉しくて嬉しくて、こっそり自然を装って隣を盗み見る。
やはり犬なのだろうか。僅かな空気の動きを優秀な鼻で嗅ぎ取り、だらしなくも愛おしい笑顔を僕に向けてくる。
「神原さん…。」
そうこぼれた名前に、当の本人は貼り付けた笑顔のまま、ソレ頂きますね。と僕の手の中でぐちゃぐちゃになってしまった受領書を丁寧に引き伸ばした。
「あのっ…。いつからっというか、どこまで知ってるんでしょうか。」
やっと出た言葉は、壊れたラジカセのように奴彼へ向けた質問を繰り返していた。ここでもまた、否定の言葉を聞きたかったのかもしれない。
「…最初から。全ては偶然を装った必然でした。」