第十九話
どこへ向かうとも決めずに動けば、神原さんの店の近くに来ていた。
行先も告げずに動き回る僕に大人しく付いて来た坂本については、もう何も言うまい。
無意識の内の意識というものか…。
ここまで来れば神原さんのもとへ行かないわけにはいかないだろう。
今行かなければ、これから先はきっと行かない、いや、行けない。
自分の性格が恨めしいが、ぐるぐると無限に嵌って悪い方向にしか進めない僕だから。
ここで坂本がいるのは逆によかったと思うところだろう。
一人で行くよりは、ずっとも気まずくない。
坂本。と進行方向だけを見ながら口を開けば、どうしたの?と優しく返すこの男は人がいいんだか何だか…。
さんざん僕に振り回されていながら全く気にする素振りがないのは好かれている証拠と思っておこう。
「今からちょっと行くとこあるから。」
「うん。じゃ、俺は帰ってようか?」
期待した応えとして正反対のことを言う坂本に、ここは空気を読め。と眉間に皺を寄せる。
「いや、一緒に来て。」
「…大丈夫なの?」
一体何が?
と過るが、坂本に神原さんのことは話していないが榊の件で一緒に調べたのだと思い当たる。
まったく、鈍いんだか鋭いんだか…。
「問題ない。僕が一緒にって言ってるのに、不満なの?」
意地悪くも坂本の優しさに付け込む。
予想通りに、そんなことはないと言う言葉にいつの間にか強張っていた身体の力が緩んでいく。
結局僕は一人では何もできない子供であるということか。
紗依だけでなく坂本にも依存する僕のココロは不安定でなんとちっぽけなのだろう。
あまつさえ、あの男にすら依存しているのかもしれないのだ。
これを滑稽と言わずなんとあらわすのか。
一人前の大人として扱って欲しい。
一人でできるんだと認めて欲しい。
独りは怖い。
僕を独りにしないで…。
矛盾した感情の渦は、際限なく湧き上がり僕を飲み込んでゆく。
無様にも震える自分の手を見て笑いが零れる。
一体いつまで子供でいるのだか。
大人になりきれない子供の僕は身近な助けに手を伸ばす。