第十五話
細やかな否定を含んだ疑問が確信へと変化する。
無作法だがテーブルを爪で弾き苛立ちが爆発するのを抑え込む。
勿論そんなことで収まるようなものではないが、外に出すことなく内に溜め込むよりは幾分かマシである。
珍しく苛立ちを隠さない僕に坂本が悲愴な顔をする。
「ケイ…。」
僕の名に続く言葉を態とらしく音を立てて立ち上がり遮る。
反射的に体を震わせる坂本の姿に、板挟みになってしまった結果を招いた僕は素直に謝ることすらできない。
「帰る。」
そう一言だけ呟いて立ち去る僕を坂本は責めない。
優しさか、または無言の圧迫か。
考えずとも答えは出ている。
坂本は優しすぎるのだ。
そんなことでは何れ身を滅ぼしてしまうだろう。
尤も、滅ぼすのは僕であろうが…。
向かう先は決まっていても足取りは重く見えない壁が僕を押し潰すようだ。
これから相手にしなければならない人を思い憂鬱になる。
一旦繋がりが消えたといえども自分の父親だ。
彼は一筋縄ではいかないことは百も承知だし、俺が起こしたことが発端となっている以上僕はこれから逃げられはしないだろう。
できたとしても僕は逃げてはいけないと思う。
起こした責任はきちんと自分で取らなくてはいけない。
アポイントを取ったところで彼は逃げもしないだろうが、少しでも上手に立ちたくて態と連絡は入れない。
今の時間ならば家にいる可能性の方が高い。
暫く踏み入れていなかった家へと僕は歩みを進める。
思い出す記憶の多くは決して良いものではないが、多少なりともある暖かなものが母親のもののみとは何とも皮肉である。
幼い僕は何も分かってなどいなかった。
悲しむ母親の姿も。
僕を支えてくれた坂本のことも。
だけど今なら分かる。
頼ってばかりはいられない。
あー、どんどん泥沼的方向へ…。