第十四話
目的の場所に着けば、そこには人目を引く金髪が気怠そうに座っていた。
「坂本、明るいうちから酒を飲むのはどうかと思うよ。」
一応、日本国では昼から飲酒というのはスタンダードじゃないんだよと含ませた言葉を金髪男に伝え、さも当然とばかりに僕は金髪男の目の前の椅子へ腰掛ける。
「誰のせいで俺が飲んでるんだと思ってるんだよ、ケイ。」
派手な顔をこれでもかというほど歪ませ、金髪男もとい坂本は僕に非難めいた視線を向ける。
原因は考えずとも僕だろうが、坂本のくせに口答えするなんて生意気。と俺様なことを思ったが、坂本相手ならば仕方のないことだろう。
「そんなことより、僕に言わなきゃいけない事があるんじゃないの?」
満面の笑みを湛えて嫌とは言わせない強い口調で質問という名の確認をする。
「それが聞きたくて俺を呼んだのか?」
眉間の皺はそのままに真っ直ぐに僕を射抜くその視線は男の僕でさえときめきそうになる。
しかし僕にはそんな趣味はないし、長い付き合いで現実に戻るのは常人に比べれば早いものだ。
「僕が隠し事されるの嫌いだって、知ってるでしょ。」
本当は態々聞かなくたって分かっている。
それでもそれは嘘なんだと、関係ないのだと思っていたい僕がそこにいる。
意地が悪いだなんて言われたくはないけれど、今の僕は形振りなどかまっていられる状態ではなくなってきていた。
坂本の質問を無視して自身の質問に答えろと静かに強迫し、かつ裏は読めているのだと滲ませる。
「ケイ、分かってるんなら俺に聞くな。俺には言えないって知ってるだろ。」
大きな溜息と共に苦しげに言う坂本の姿は、長年付き合ってきた悪友の初めて見るものだった。
いつも僕の事を一番に考え、僕の我が儘にも滅多に異を唱えることなどなく僕といつも一緒にいた坂本。
紗依の他に心を許した唯一の人間。
自分を落ち着かせるように猶もアルコールを摂取し続ける坂本を僕はただ見つめていた。
坂本にも事情があるのは分かっている。
だけど、僕にだって譲れないものがある。
次の行動を纏めることができず気晴らしにとアイスティーを注文する。
カフェインは逆に興奮作用をもたらすのだっけ等と意識を飛ばしていれば、未だ僕から視線を剥がさない鮮麗な面と絡み合う。
坂本は僕の言うことをきくけれど、僕も坂本の言うことには逆らえない。
それは身分とか契約とかではなく心的なものに要因するのだけれども、視線で坂本の考えを読めた僕は溜息と一緒に口約束をする。
「分かった、無茶はしないから。でもこれだけは答えて。いや、僕の言うことに頷くだけでいい。」
無理強いはできない、いや、したくない。ただ、これだけは答えてもらはなくては…。
「この件で動いているのは、父さんだね。」
僕の言葉に坂本は無言で頷いた。
その眼には自分の今後を憂うのではなく、僕を気遣う色が乗せられていた。