第十話
電車で20分弱。駅からバスで10分ぐらい。
ここ、どこでしょう…ね。
言っておくが、道に迷ったわけじゃない。
来たことがない場所を歩いているだけだ!
神原さんから渡された住所と地図。流石というべきか、勿論見やすいわけで。
あの人にできないこととかはないんだろうな等と勝手なことを思ったりしているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。
いやいやいや。
大きい家が多いなあ。なんて思ってはいたけれども。
これは、大きすぎるんじゃないでしょうかねー。
ちょっとした芸能人なんかが住んでいそうな邸宅。
…一応表札を確認する。
”榊”
多分、間違いないだろう。
最悪間違ったとしても素直に謝ればいい。何事もプラスに考えるに越したことはない、と思う。
些か緊張しながらインターホンを押す。すると存外早くに返事があった。
「どちら様ですか?」
…若い女性?
家の外観から、てっきりお手伝いさんが出てくるのかと想像していた僕は、予想外の声に驚いてしまった。
「あ、あの…ヴィラヴェスカですが、ご注文の品をお届けにあがりました。」
「はい、中へどうぞ。」
失敗した。
…これじゃ蕎麦屋の出前じゃないか。
こういう時に己の経験値の少なさを思い知らされる。
『ごめん、神原さん。オシャレって、難しいね…。』
なんて心の中で謝罪とも諦めとも思える呟きをしながら『オートロックかよ!』なんて器用に突っ込みを入れたりする。
案外僕はやればできる子なのかもしれない。
まあ、敷地に入れば想定内すぎて乾いた笑いが込み上げてくる。勿論笑うのは失礼なので我慢しているのだけれど…。
そして玄関で出迎えてくれた女性もとい少女は、とび抜けて美人だった。
神原さんも綺麗な顔立ちをしているが、目の前の少女はその比ではない。男性と女性を比べるもんじゃないというそもそも論なんて今更言わないで欲しい。そんなの分かりきってる。
美人の周りには美人が集まるというが、強ちそれも都市伝説ではなかったようだ。なんて、どうでもいい事を考えてしまう始末。
彼女がいる身とはいえ僕も男だったのかと認識させられ、ある意味安心した。
まあ言っちゃなんだが見た目は良いに越したことはない。
それより仕事をしなくては…。