忘却術師の就職先
騙された。
人のためになる仕事だと聞いたのに……。
そう後悔したがもう遅い。
「忘却術師さん。この人の記憶を消してください」
縛られて必死に抵抗する男を一瞥し、血走った目でこちらに金を置く依頼者に頷いてみせる。
「はい。かしこまりました」
理由なんて聞いちゃいけない。
こちらはお金を積まれたから仕事をする。
本当にそれだけでいいんだ。
「はい。完了しましたよ」
「ありがとうございます!」
完璧な忘却術は一度、対象者を深い眠りにいざなう。
そのせいで抵抗していた男は今はぐったりとしている。
血走った目をしている依頼者の方はニコニコと笑いながら縛っていた男を介抱していた。
「本当にありがとうございます!」
喜ぶ依頼者……もといお客さんを見て『これでいいのだ』と言い聞かせる。
そう。
笑顔のお客さんを見て『あー! 良かった!!』って思うだけで十分なんだ。
「あの。ここはどこなんでしょう?」
目を覚ました対象者。
こわごわとした様子で、それても恐怖より混乱が勝ったようで私達に聞いてくる。
直後。
「ひっ!?」
思い切り殴られる。
お客さんはとても良い笑顔だ。
「覚えてる!? 覚えてないよなぁ!? お前! こんな感じで! 何にも知らない俺の子供を殺したんだ!」
今回の対象者が先日『誰でもよかった』と言って子供を殺していたのはもちろん知っていた。
「理不尽だろ!? 理解できないだろ!? 俺の子供もそんな気持ちの中で死んだんだよ!!」
始まった見るに堪えない暴力。
唐突な暴力に対応できるほど『普通の人』は良く出来ちゃいない。
だから、私は唾棄すべき対象者の記憶を消して『普通の人』に変えたのだ。
「それじゃ、私はこれで……」
そう言ってそそくさとその場を後にする。
「あーあ……」
十分に離れたと思ってから口に出す。
「人のためにはなっているけどさぁ……やっぱりなんか嫌だわ」
すっかりと温かくなったお財布の中身を何とも言えない気持ちで見つめながら私はそう言ってため息をついていた、




