表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/29

第4話(2):手紙の内容

「……」



私は手紙を持ったまま、石像のように固まっていた。



思考が停止する。いや、あまりの内容に脳が理解を拒否していると言ったほうが正しい。



「どうした、ソフィア。顔色が悪いぞ」



異変を察知したクロードが、心配そうに覗き込んでくる。



「……陛下。私、少し考え違いをしていたようです」



「ん?」



「王国のエリック王子は、ただの『わがまま』だと思っていましたが……どうやら、頭のネジが根本から外れ落ちていたようです」



私は乾いた笑いを漏らし、手紙をテーブルに置いた。



震える指で、その文面をなぞる。



そこには、常人の想像を絶する「勘違い」が綴られていた。



【親愛なる(笑)ソフィアへ】

突然だが、君に慈悲を与えることにした。

君が城を出ていってから、奇妙なことが起きている。


天空の結界が消え、雨風が吹き荒れ、あろうことか城内の下水道が逆流しているのだ。


原因は明白だ。


君は退職する際、腹いせに『国を蝕む呪い』をかけたのだろう?


本来ならば、国家反逆罪で処刑されるべき大罪だ。


だが、リリィは優しい。「ソフィア様にも事情があるはずです」と泣いて庇っている。


そこで、私は特別に温情をかけることにした。


今すぐ城に戻り、その薄汚い呪いを解きなさい。


そして、結界を元通り張り直して、リリィに土下座して謝罪しなさい。


そうすれば、罪は不問とし、『聖女見習い』としてリリィの下で働くことを許可してやろう。

給金は出ないが、罪滅ぼしができることを光栄に思うように。


追伸:

戻ってくる際は、私とリリィのために、有名な帝国のスイーツを買ってくること。



王国第二王子 エリック



「……………………」



読み終わった瞬間、私の口から魂が抜けかけた。



すごい。



ここまでポジティブに現実逃避できるなんて、ある種の才能だ。



「呪い? 土下座? しかもタダ働きで、お土産まで要求……?」



あまりの図々しさに、怒りを通り越して感心してしまった。



私が維持していたインフラが止まっただけだという発想は、彼の中には1ミリもないらしい。



「……ソフィア」



その時。



部屋の温度が、急速に冷凍庫並みに下がった。



「貸せ」



短く、低い声。



クロードが横から手紙をひったくった。



彼はものすごい速さで文面に目を通し――そして。



パキィィィィィィィン……ッ!



「へ?」



異様な音がして、テーブルの上の食器にヒビが入った。



いや、違う。



クロードの手元から発生した「冷気」が、テーブルを一瞬で凍りつかせたのだ。



手紙を持つ彼の手は、怒りで白く震えている。



美しい顔からは表情が消え失せ、赤い瞳だけが、ゆらりと殺気を帯びて輝いていた。



「……なるほど。理解した」



クロードが、地獄の底から響くような声で呟く。



「この国の王子は、死に急いでいるらしい」



ゴゴゴゴゴゴ……ッ!



部屋全体が振動する。



窓ガラスがカタカタと鳴り、外の空すら暗くなってきた気がする。



これはマズい。


この人は「魔導皇帝」だ。本気で怒らせると、天災(マップ兵器)が発動する。



「ソフィアを……私の至宝を、『呪い女』呼ばわりだと?」



「へ、陛下! 落ち着いて!」



「あまつさえ、あの素晴らしい自動化プログラムを『薄汚い呪い』と愚弄し、タダ働きを強要し、土下座をさせる……?」



クロードの周囲に、黒い氷の結晶が浮かび上がる。



これは帝国の禁呪、『ニブルヘイム(永久凍土)』の予備動作だ。



「万死に値する。……いや、死では生温い。この手紙を書いた指を一本ずつ氷砕し、その愚かな脳髄を永久凍結させて、未来永劫後悔させてやる」



クロードが右手を掲げる。



その掌には、圧縮された極大の魔力が渦巻いている。



「消え失せろ、愚か者ども。地図からその国ごと消滅させてやる」



「ちょ、ストップーーーッ!!」



私は慌ててクロードの腕にしがみついた。



「ダメです陛下! ここで極大魔法を撃ったら、帝都まで吹き飛びます! 私の研究室が壊れちゃう!」



「離せソフィア! これは侮辱だ! 君への侮辱は、私への宣戦布告と同義だ!」



「気持ちは嬉しいですけど! 燃やすのはもったいないです!」



「もったいない? こんな紙切れが惜しいのか?」



クロードが動きを止める。



私は彼の腕をホールドしたまま、キリッとした顔で告げた。



「違います。『請求先』が消滅したら、お金が取れないじゃないですか」



「……はい?」



クロードの殺気が霧散し、きょとんとした顔になる。



私はニヤリと笑った。



「向こうは『仕事に戻れ』と言ってきたんです。つまり、これは『業務委託のオファー』です」



「……ほう」



「ならば、提示すべきは魔法(暴力)ではありません」



私は懐から、愛用の万年筆を取り出した。



「『適正価格の見積書』です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ