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魔導士フェーリンの魔法史学  作者: ハッカ堂


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6/8

3時限目 魔法技術学/基礎魔法技術;魔法測量法・魔法理工学/魔道具工学;セオドリック測量器(1)


 日が昇り初めてまだ間もない朝。ルームメイトを起こさないよう、寮を出る支度をそっと済ます。寮の入り口にある受付に、寮母が不在の時用の外出届を出せば、私の1日がようやく始まった。


 学校の校門から城へと伸びる大通りはいつも通り静かで、横顔を照らす日差しは少し鬱陶しく感じる。

 路地に入り進んでいく。日が届かず薄暗い。そして、その先にある店へと入る。


「おばさん、おはよう」


 暗い店の中で、キッチンだけが明るく灯っている。そして、おばさんがいつも通り食材を切っていて。


「あぁ、おはよう。いつも通り、野菜の仕込みを頼んだよ」


 そうして、手を洗った後に、大量の野菜を切る工程が始まった。

 ここ、ソレイルという名のビストロには、街で働く人が昼と夜に大勢やってくる。時には店の外に列ができるほど。そのため、仕込む食材の量もとても多い。私がここで働かせてもらうようになる前は、店主のカロルおばさんが1人で切り盛りしていた。


「そういえば、あんた、高等部になったら忙しくなるんじゃないのかい」

「そうだね。勉強もうんと難しくなるって聞いてるし、覚えることも多くなりそう」

「なら、もうじき学業に専念すべきじゃないのかい」


 正直驚いた。普段私のことは自分で話を振るため、滅多に口出しすることがないおばさんがそう言ってきたからだ。


「...それは、私に辞めろっていってるの?」

「違うよ。この朝の時間くらい手伝いに来なくてもいいって話さ。第一、うちにはあんたに、この朝の分の賃金まで十分に払ってやれる余裕がないんだよ」

「別に大丈夫だよ。今のままでも十分にお金をもらえてるし。それに、学費は家に支払ってもらってるし、自分で学費を稼がなきゃいけない状態でもないし、大丈夫だよ」

「ならなおさら、友達とかとの時間をとった方がいいんじゃないかい。初等部の頃も、高等部に上がってからだってよくやってそうだったじゃないか」

「まあ、おとといの人たちはね。でも、ここがいいかな」


 別に人間関係に悩んでるとか、新しい環境で友達もできなくてとか、そういうわけではない。ただ、ここが私にとって親しんだ場所なんだ。


「でも、なんでいきなりそういう話を?普段なら言わないし」

「別に。老婆心ってやつさ。まあ、あんたがいいならアタシも別に構わないよ」


 そう言って、おばさんは変わらず仕込みを続ける。


「あぁ、一つ、忠告というか、あんたにアドバイスだ」

「何?忠告って」

「あんたはどう考えてるか知らないが、この店がいつまでもあるとは思わないことさ。近頃、不穏な空気が街で流れてる気がしてね。もしかしたら、その大きな波にうちも巻き込まれるかもしれないし、単にアタシが先にくたばるかもしんない」

「でもそんなことは...」

「そんなことはやがて起きる。そういうもんさ。だから、同年代の人たちとの関わりを大事にするんだよ。うちなんかよりも、きっと一生モノさ」


 同年代の人たち。ソニアさんたちとはたまたま仲良くなれた。けれど、私にはまだそれを受け入れる準備ができてないと思う。


「人間がそこにいる限り、変化は必然なのさ。だからこそ、何が変わったかを自分で見に行っといで。それに、アタシがくたばらない限りは、ここであんたの帰りを待ってやるさ」

「...ありがとう、おばさん」


 気づけば、私は玉ねぎを切っていた。目にくる刺激がいつも厄介だが、その刺激も今日は一段と強いみたいだ。


「さあ、さっさと終わらせるよ。あんたの登校時間までに朝食も出してやらんとね」

「ありがとう、おばさん。おばさんのご飯、毎日楽しみなんだよね」

「そうかい。ほら、早く手動かしな」






 おばさんの店で朝食を済まし、学校へと向かう。同じ敷地内の寮から校舎へと向かう人は未だ少ないのが分かる。

 校舎へと続く道の途中にはグラウンドや練習場があり、朝早くから魔法の練習に勤しむ人を何人か見かける。

 みんなが練習用の的に手を向け、詠唱し、魔法を放つ。火属性魔法の焼けるような匂いと魔法が空を切る音。朝の澄んだ空気と静けさの中では、それをよく感じる。

 練習している人たちを見てみると、その中にあのリュカ・ジルベールの姿を見かけた。それも昨日から、いや、もっと前から見かけてはいたような気もする。

 きっと、あの日のことが悔しかったんだろう。彼の目は、前にある的しか見えてないようだった。


 生徒用の入り口から校舎へと入る。初等部の頃からの習慣で、自分の教室ではなく、実習棟の屋上へと向かう。

 教室棟とを結ぶ渡り廊下は誰もいない。外にさらけ出された状態のこの場所は、やけに反対側が遠く感じる。それに、日差しの方向的にもここは影になり、若干の冷え込みもあるためか、感じるこの不気味さにはいつまで経っても慣れない。

 渡り廊下を進んでいく。いつもと変わらないはずの廊下だけれど、何やら前から気配がする。滅多にないことなので身構えていたら、やってきたのはフェーリン先生だった。


「おはようございます、リディさん。こんなところにどういった用事で?」


 表情を伺っても、何を考えているのかはよくわからない。別にやましいことがあるわけではないが、少し厄介に思えた。


「実習棟の方で少し体を動かそうと。いつもの日課でして」

「なるほど。確かに時間まで30分ほどありますしね。それでは後ほど。ホームルームに遅れないようにしてくださいね」


 そう言葉を残しただけで、先生は何事もなく去っていった。

 とりあえず私も、ここに居続けるのはなんだか嫌だったため、急いで屋上の方に向かうことにした。


 屋上は厚い塀に囲まれた小さな庭園になっていて、時折お世話をしている生徒に会うのだが、今日はいなかった。

 雨に濡れて少し塗装が剥げたベンチに腰を掛ける。

 風に運ばれる花の香りが、私の学校の1日が始まり合図だった。


 にしても、なぜ先生は実習棟にいたのか。職員室は教室棟にあり、実習棟で他の生徒を見かけることがあっても、先生を見かけることはほぼ無かった。それに、なぜよりによってフェーリン先生だったのか。もしや私のこの居場所がバレたのか。

 つい深く考え込んでしまい、ハッと意識を戻す。目の前には、変わらず咲き続ける綺麗な花があった。

 もうこれ以上考えるのは時間がもったいない気がして、花を眺めながら穏やかに過ごすことにした。






 午前中の2時間分の授業が終わり、次の授業には魔法科目が控えていた。

 どうやら実技をするために授業は外で行われるらしく、面倒に思いながら支度をしていると、横から誰かが話しかけてきたみたいだった。


「あっ、あの、リディさん。よかったら、その、一緒に外まで行かない?」

「…うん、行こ!」


 前言撤回。思いの外良い授業になるかもしれない。




「皆さん、時間通りに集合できましたね。それでは、授業を始めましょう」


 今朝も横を通った、的が置かれた練習場。今日はここで授業をするみたいだった。魔法を使わない体育みたいに着替えたりはせず、魔法の実技は制服で行う。だから、激しく動いたりするには少し服が重たく、体育の服の方がいいな、なんて思ったりもする。


「まず始めに、今年の魔法技術学の補佐の先生を紹介します。先生、自己紹介をお願いします」

「皆さんこんにちは。もうすでに会っている人もいると思いますが、改めまして。私はアンリエット•スミュール、理工学科の化学を担当しています。是非、アンリ先生と呼んでください。よろしくお願いします」


 つい拍手をしてしまった。なんなら周りの拍手もそれなりに大きい。

 それもそのはず、この学園一と言ってもいいほどの美人な先生で、可愛さもありながら凛々しい一面もあり、その上優しく、まさに非の打ち所がない。

 今年はお隣Dクラスを担当しているらしく、正直言ってしまえば、そちらが少し羨ましいもの。

 それはそうとして、フェーリン先生の綺麗な顔立ちと髪は、アンリ先生と並ぶと中々映えるものだった。


「アンリエット先生、ありがとうございます。それでは早速授業の方に入りましょう。先生、あれを持ってきていただけますか」


 アンリ先生が頷いてどこかにいくと、フェーリン先生は話を続ける。


「おととい、基本単位詠唱式について皆さんは学んだと思います。そこである一つの応用方法を紹介したと思いますが、それがなんだったのか覚えていますか、フローリー君」

「うーんと、えーっ、すみません。覚えてないです…」

「素直で何よりですよ。その応用方法は、魔法が持つ魔素量を測るといったものです。フローリー君、その仕組みは思い出せそうですか?」

「そうですね…。確か、基本単位詠唱式が1マナであるっていう性質があるから、どれくらいそれを使って魔法を相殺できたかで魔素量を測るとかですか?」

「その認識で問題はないでしょう。では。ここからが今日の本題です」


 途端に空気が変わったように感じる。圧を感じるというよりかは引き締まる感じ。先生の方へと一気に意識が集中する。


「実は、先程述べた応用方法には名前がついていて、『ガース式測量法』と言います。今日は、そういった魔法の魔素量を測る、測量法を皆さんに行ってもらいます。ではまず、2人1組になって4列に並び直すように。早急に。始め」


 急な合図にみんな一瞬固まる。かと思えば、すぐに揉みくちゃになっていった。私はその中で1人を探す。少しペアが決まってくると、自分がなんか焦っているように感じた。


「あっ、いた」


 誰かに手を掴まれたと思えば、ソニアさんだった。


「きゅ、急に掴んじゃってごめんね。もし良かったら私と…」

「うん、よろしく」


 思わず両手で握り返してしまった。ソニアさんだと気づいた途端に、私はとても安心したのだった。その気持ちを隠すかのように、つい出てしまった行動だった。


「説明の続きをしましょう。本日皆さんが行う測量法は3つ。一つは先程の『ガース式測量法』。次に、方魔晶石と呼ばれる、魔素をある程度吸収させることで爆発する性質を持った石を用いて測る『レノー式測量法』。最後に、『セオドリック測量器』と呼ばれる器械を用いて測量を行う。これら3つの測量法を、最終的には実験結果と長所や短所、その他特徴を一つのレポート用紙にまとめて提出してもらいます」


 先生がそう話すと、前から詳細の書かれた用紙が配られた。


「最後に、今回の測量で放つ魔法ですが、『ガース式』と『レノー式』に関しては基本単位詠唱式で、『セオドリック測量器』に関しては自分の好きな魔法で構いません。詳細は配布した紙に記載してあります。それと、監視はしますが、常に安全を確保することは怠らないようにしてください。では、距離を確保した上で始めてください」


 先生の合図とともに、早速みんな散らばっていった。それに釣られるようにしてソニアさんを誘おうと彼女の方を見ると、どうやら紙を読み込んでいる見たいだった。


「ソニアさん」

「あっ、ごめんね。集中しちゃってて」


 居眠りしているところを先生に叩き起こされた後のようにあたふたする様子を見ると、思わずニヤけてしまっていた。


「ううん、大丈夫。とりあえず行こ!」

「あっ、うん。でもその前、道具を取りにいかないと」


 なんのことかと思い、紙を見てみると、確かに必要な道具とその扱い方が記載されていた。『レノー式測量法』には方魔晶石とその保管用の袋が、『セオドリック測量器』は教師立ち会いの元で行うと明記されている。


「よく気づいたね。なんかさすがって感じ」

「い、いや、そんなこと…。ほら、早く行こ。そうしないと時間かかっちゃうかもしれないし」


 照れているソニアさんに背中を押されながら、まずは先生の元へと向かうことにした。


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