第15話 炎の村外れ――盗賊の再襲撃
第15話では、東の柵からの火事と盗賊の大規模襲撃を描きました。
炎・煙・村人の混乱を戦術に組み込み、エルの「仕組みで戦う」姿を表現しています。
また、盗賊の中に“指揮官”の存在を匂わせ、ただの盗賊ではないことを明確にしました。
東の柵から、黒煙が立ち上っていた。
「火だ! 柵が燃えてるぞ!」
村人の叫びが村全体に響き、扉が一斉に開き、混乱が広がる。
子どもを抱えた女が走り、老人が水桶を抱えて転げるように駆けていく。
「動きが早すぎる」俺は呟いた。「昨日の偵察が今夜の襲撃に繋がっている」
「ってことは、準備してたってことね」リナが短剣を抜き、目を細めた。
古堂からもレオンが姿を現した。外套を翻し、村長に鋭い視線を送る。
「柵の東を抑えろ! 護衛と村人は荷を守れ!」
村長は蒼白になり、ただ頷くだけだった。
(……命令口調。村を支配しているのは、村長ではなく“取次役”だ)
俺とリナは駆け出した。火の粉が風に乗り、乾いた藁屋根に舞い上がる。
村人たちが水を運び、必死に火を防ごうとするが、そこへ――。
「出てこい、小僧!」
炎を背に、十数人の盗賊が柵を破って雪崩れ込んできた。
昨日とは違う。数も装備も段違いだった。
粗末ながら統一された革鎧、腰には刃物と短弓。
統率が取れている――ただの野盗ではない。
「荷を狙え!」
矢が放たれ、干し草の束に突き刺さった。
村人たちの悲鳴が響き渡る。
「リナ!」
「了解!」
リナは矢を弾きながら前へ躍り出る。
俺は周囲を見回し、使える物を探した。
倒れた桶、転がる丸太、そして燃えかけた柵。
《革新の書》――起動。
(炎と煙を利用しろ。――視界を奪い、通路を制限する)
「村人たち! 水を東じゃなく南に撒け!」
「な、なんでだ!?」
「火を広げろ!」
混乱する声が上がるが、リナが叫んだ。
「この子を信じて! やって!」
ためらいながらも水が撒かれ、火の手が一部南へ広がる。
煙が濃くなり、盗賊たちの動きが鈍る。
「今だ!」
リナが突撃し、煙に咳き込む盗賊を切り伏せた。
「ぐはっ!」
だが、まだ十人以上が残っている。
矢が飛び交い、村人が膝をついた。
俺は叫んだ。
「荷を囲め! 樽を盾にしろ!」
村人たちは慌てて荷車を引き寄せ、樽を倒して壁を作った。
矢が樽に突き刺さり、木屑が飛び散る。
リナが背を預けるようにして俺に言う。
「数が多い! さすがにやばい!」
「ここで退けば、村も荷も終わる!」
俺は丸太を掴み、全力で転がした。
「うわっ!」
盗賊二人が弾き飛ばされ、仲間が後退する。
だがその瞬間、炎の向こうに立つ一人の男が目に入った。
革鎧ではない。銀の飾りを胸に下げた、背の高い男。
鋭い目がこちらを射抜き、口元が笑った。
(……指揮官がいる。やはり野盗じゃない)
「坊主! 殺せ!」
指揮官の声に合わせ、盗賊たちが一斉に襲いかかってくる。
リナが叫んだ。
「エル、下がれ!」
「いや、ここで踏ん張る!」
俺は樽を蹴り飛ばし、煙と炎を利用して盗賊たちを分断する。
リナがその隙を突き、次々に斬り伏せた。
だが数が減っても、指揮官の笑みは消えなかった。
「今日は顔を見に来ただけだ。荷はまだ奪わん」
そう言い残し、指揮官は部下に退却を命じた。
炎と煙の中、盗賊たちは影のように消えていった。
残されたのは、燃える柵と倒れ込む村人たち。
村長は青ざめて震えていた。
レオンは冷静に腕を組み、ただ一言。
「……やはり護衛をつけて正解だったな」
その目が、俺に向けられた。
ただの感謝ではない。
(試されている――俺を、俺たちを、そして村を)
拳を握りしめ、煙に霞む空を睨んだ。
これは始まりに過ぎない。
そして必ず、この“輪”を断ち切る。
次回:「取次役の真意――王都の影が迫る」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
村人を守るための必死の戦闘、そして指揮官の登場によって、王都との繋がりがさらに濃くなりました。
次回は取次役レオンの真意が一歩進んで明かされます。
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