表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

第14話 古堂の取引――三重の輪と取次役

第14話は、村の古堂での取引シーンを中心に描きました。

初めて登場した“取次役”レオンが、王都の裏流通と貴族の影をはっきりと匂わせます。

エルの直球の質問と、レオンの冷たい警告。静かなやり取りの中に、強烈な緊張を入れました。

夜を越えた朝。村の空気はどこか張りつめていた。

扉を開けると、昨日までの沈黙とは違い、農具を担いだ男や水を汲む女たちの姿がある。

だが――彼らの視線は、俺たちを素通りしない。ちらりと一瞥し、すぐに逸らす。

(……見ている。だが“関わりたくない”目だ。村全体が、何かを恐れている)


「古堂は村の中央、井戸のすぐ横だ」商人カリムが案内しながら、声を低くする。

「今日の取引には、王都の“取次役”が来るはずだ。奴がいれば、盗賊や昨夜の影の意味もはっきりする」


村の中央に立つ古堂は、灰色の石で作られた簡素な建物だった。

祈りの場であり、村の倉庫でもある。

だが今日は、扉の前に二人の見張りが立ち、腰に剣を差していた。村人には似つかわしくない、王都風の武装だ。


「……武装した見張り?」リナが小声で言う。

「あれは村の人間じゃない。動きが軍のそれだ」俺は観察する。

立ち姿、視線の配り方、剣の角度――王都で訓練を受けた兵士と同じだ。


扉が開き、中へ通される。

古堂の中は薄暗く、燭台の炎がわずかに石壁を照らしている。

中央に置かれた長机の向こうに、二人の人物が座っていた。


一人は村長。髭を蓄えた白髪の老人で、目を伏せたまま落ち着かない手を組んでいる。

もう一人――。


「遠路ご苦労」

そう言った男は、三十代ほどの壮年。

黒の外套に金糸の刺繍を施した服。腰には細身の剣、胸元には王都の紋章を模した銀の飾り。

目は笑っているが、その奥には冷たさが潜んでいた。


「私はレオン・ド・カルト。王都から派遣された“取次役”だ。今日の品の受け渡しを確認させてもらう」


村長が慌てて頭を下げる。

「お、お頼み申し上げます」


カリムが荷車から樽と袋を運び込み、机の上に並べる。

蓋を開けると、乾いた草の香りが漂った。薬草を乾燥させたものだ。

レオンは白手袋をはめた手で、草を一つまみ取り、鼻に近づける。


「確かに。質は良いな」

彼はうっすら笑い、懐から小さな印を取り出した。

――三重の輪。

昨日、俺たちに差し込まれた紙片と同じ印。


(やはり……これが“裏の商流”の証。公的な組合印ではなく、王都の一部商家が独占のために使う標だ)


「代価は王都を通じて支払われる。……ただし、村が余計なことをせぬ限り、だ」

レオンの声は柔らかかったが、その言葉には刃が含まれていた。

村長は怯えたように肩をすくめる。


俺は一歩前に出た。

「質問をしても?」

レオンの視線が俺に移る。

「ほう……十歳の小僧が護衛に? だが目が子どものものではないな。いいだろう。言ってみろ」


「なぜ組合印を使わず、この印で流通させるのですか」

堂内の空気が一瞬で凍った。

村長が蒼白になり、カリムが咄嗟に俺の袖を掴む。

「エル!」


レオンは笑みを崩さなかった。

だがその笑みは、薄氷のように冷たい。

「……護衛風情が、随分と突っ込んだことを聞くな」

「護衛だからこそ知る必要がある。命を賭けて守る荷が、何を意味するのかを」


リナが横で短剣の柄に指をかけた。

緊張が走る。

レオンはやがて笑い、椅子に深くもたれた。

「ふむ……理屈は悪くない。だが答えは簡単だ。この印の下にある品は、“表に出してはならぬ”と決まっている。それだけのことだ」


「表に出せば困る人間がいる――そういうことですね」

「……坊主、頭が回りすぎるな」

レオンの瞳が鋭く光った。

「だが口は慎め。王都には“余計なことを知りすぎた者”を処理する仕組みがある」


その言葉は警告であり、脅しだった。

だが、確信も得た。

(王都の裏商流。古参冒険者の視線。盗賊の偵察。……全てが“この輪”に繋がっている)


その時、外から村人の叫び声が響いた。

「火だ! 東の柵だ!」

レオンは眉をひそめ、立ち上がる。

「……話は終わりだ。護衛の小僧、次は余計な口を開かぬことだ」


燭台の火が揺れ、三重の輪の印が赤く照らされた。

俺は拳を握り、唇を固く結ぶ。

(必ず、この輪を断ち切る――いつか必ず)


次回:「炎の村外れ――盗賊の再襲撃」


お読みいただきありがとうございます!

この回で「三重の輪=裏流通標」が確定し、王都と村の関係が一気に現実味を帯びてきました。

次回は東の柵から火が上がり、盗賊が再び登場します。戦闘と陰謀が重なる“動の回”です。

感想やブクマで応援していただけると、執筆の力になります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ