第3話 勇者派アンチ襲来!――“数字”と“限界”の狭間で
夜が明け切らない王都の下町。
魔王コラボの切り抜き動画は爆速で再生数を伸ばし、登録者カウンターは〈777〉で止まったまま――伸び悩みの兆しを見せていた。
≪SYSTEM:新着コメント 3,000+/高評価 5,400≫
≪警告:通報件数が急増しています≫
ショウタの眼窩は久々のブラック企業カラー。
3日連続、睡眠は計4時間。
ユウナはマネージャーモード全開で書類の山を叩く。
「スポンサー案件が12本、公式グッズ試作が5社、そして――通報が1,200件です!」
「通報も燃料だ。アンチの声は伸びしろ……ゲホッ!」
咳と共に黒煙のような《ストレスエフェクト》が漂う。
ステータスHUDの過労死カウンターが赤点滅で110%を示した。
昼。王都中央広場で臨時ライブ――「祝★777記念ありがとう配信」。
ステージ上、ショウタは目の下にクマ、だが笑顔はフルパワー。
「皆さんのおかげでチャンネルはもうすぐ1,000人! 今日は――」
ドガァン!
広場に爆風。盾と聖光のエフェクトを纏った勇者パーティーの前衛・ガルドが降ってきた。
「その舌を噛み切れ、裏切り者! 魔王と結託する愚か者に制裁を!」
背後に勇者リーダー・リオナと聖職者、火力魔導士。
観客&視聴者は一瞬で沸騰。
【勇者派】「成敗!」「炎上芸終わり!」
【魔族リスナー】「推し活に手を出すな!」
【沈黙教会端末】「争い=声。沈黙を。」
「待て、正義ヅラで蹂躙は再生数のご褒美だぞ!」
ショウタはカメラを抱えつつ防御ロール。
ユウナが即座に結界を張る。――元聖騎士の本領だ。
「これ以上の暴徒行為は規約違反! こちら警備隊に通報済みです!」
「規約!? 我らは“世界救済”の規約で動く!」
プラチナの聖剣が振り下ろされ、ユウナの結界が悲鳴を上げる。
ショウタのチャット欄はさらに加速。
≪視聴者感情:ポジ 38%/ネガ 62%≫
≪沈黙神覚醒ゲージ +15%≫
――黒い霧が空に滲む。
「ショウタさん! ネガ率が閾値を超えます!」
「……よし、緊急プロットBプランだ!」
ショウタはカメラを逆手に構え、**“被告席カメラ”**へモード変更。
画面はモノクロ法廷風。BGMに重低音の心臓鼓動。
「裁判ショーへようこそ! 被告人:俺! 原告:勇者様!
――視聴者の投票で有罪か無罪か決めてくれッ!!」
勇者リオナが剣先を止め、訝しげに眉をひそめる。
「……何だそれは?」
「民意です。エンゲージメント即時判決!」
≪投票開始:裏切り者ショウタ処刑? Yes/No≫
ユウナがマイクに囁く。「煽るとネガ率跳ねます!」
「ネガは燃料! でも決めるのは“みんなの声”だ!」
チャットが轟く。YesとNoが拮抗し、メーターが乱高下。
リオナは動揺、聖剣を握る手に汗。
【一般村人】「昨夜の歌良かったし…No?」
【勇者派信者】「Yes!Yes!」
【魔王推し】「推しは無罪‼」
投票終了――
≪結果:No 51%/Yes 49%≫
≪ネガ率 50%→48%≫
≪沈黙神ゲージ 減少≫
「セーーーーーフ!」
ショウタが安堵した刹那、ガルドが突進。
「こんな茶番で世界は守れんッ!」
ズドン! 盾でカメラが弾かれ、配信画面に“砂嵐フィルター”。
同時にショウタの体も吹き飛び、石畳に叩きつけられた。
≪ERROR:骨折判定(右腕)/過労死カウンター 150%≫
視界がチカチカ。チャットは悲鳴と罵声が入り交じる。
ユウナが駆け寄り、治癒魔法を詠唱しつつ叫んだ。
「もう限界! 配信を切って休んで!!」
「……切ったら数字、落ちる……!」
「あなたが死んだら全部ゼロです!!」
ユウナは涙ぐみながら《神のカメラ》を握り、
――非常停止スイッチを叩いた。
≪SYSTEM:緊急メンテナンスモード(24h)≫
≪視聴者 5,800 → 0≫
配信は無音で途切れ、広場は夕刻の蝉時雨だけが響く。
勇者たちは警備隊に取り押さえられ、雑踏が散ったあと。
ショウタは担架に縛られた状態で、ぼんやり天を仰いだ。
HUDは消え、聞こえるのは自分の荒い呼吸。
ユウナが手を握り、震える声で絞り出す。
「“声を上げる”って、あなた自身の声も含まれるんですよ……」
ショウタの瞳に、うすく涙が滲む。
数字の代わりにユウナの顔が歪んで見えた。
救護テントの外、夜風に乗って聞こえるはずの喧騒はなく、奇妙な静寂。
その闇に紛れ、黒いローブの影がふわりと現れる。
胸元のペンダントに“S”の紋。――沈黙教会の長老だ。
「声は争い。沈黙こそ救い……」
長老が差し出した古い巻物が、微かに紫黒い炎で揺らぐ。
テント内部の水晶ランプが一斉に消え――闇の中、ショウタの心拍モニタが鳴り止む。
≪WARNING:心停止リスク≫
≪沈黙神覚醒ゲージ +30%≫
ユウナが慌てて治癒光を奔らせる。
「起きて! ショウタ!!」
微かに開いたショウタの瞳に、数字ではなく“真っ赤な×印”が浮かんでいた。
≪チャンネル登録者 777(凍結中)≫
≪次回予告:過労死寸前!? 沈黙教会の闇勧告と“休止配信”の是非≫
カメラのRECランプは消え、沈黙だけが光った。
To be continued…