1. 出発
今日は高等魔法学校試験の当日。
今までしっかりやって来た。
魔法陣の回路も覚えたし、中級水魔法の詠唱も全て暗記した。
魔法の杖と、箒、中級魔法書に、三角帽子。それと、黒のマント。
三角帽子を頭につけて、黒のマントを纏った。バックに必要なものを入れた。不備はない。準備万端だ。
「よし!行こう!」
気合を入れて、部屋のドアを開けた。
すると「頑張ってくるのよー!」と母がキッチンから声をかけて来てくれた。
「うん!」
と、元気よく会釈した。
そのまま玄関に向かい、革靴を履いて、裏手の広場へ赴いた。
箒を使って試験会場へ行く。そのために、自身に飛行魔法を授けなければならない。
この箒は学校から、出願した時に貸し出されたもので、追跡の魔石が埋め込んである。
これは受験者の魔法の素質を図るためだそうで、箒で試験会場に来れなければ、その時点で不合格となる。
もう試験は始まっているのだ。
「飛行魔法、ええとなんだっけ、」
緊張しているのか、うまく頭に魔法の構造式が浮かんでこない。
やばい。ここで飛べなかったら、私、不合格?
幸いにも時間はある。落ち着いて考えるんだ。
人気のないところなんだから、失敗したって怪我させたりしない。落ち着け。
(ダルバーストが発見した、クララ派の構造式が元で、ああ、あ、あれか!!)
脳が活性化したのを感じる。そうだ。クララ派の詠唱を使えば今の私の魔法でも飛行ができるんだった!
こんなことも思い出せないなんて、試験がより不安になるが、ともかく、思い出したことだし、まずは詠唱だ。
クララ派の詠唱は短いのが特徴だ。そのため私のような子供でも頑張れば覚えられるものになっている。
その上、他の派と比べてクオリティは下がるものの、魔力消費が少なく、コスパがとても良いものなのだ。
「クララさん、ありがとう!」
クララさんに感謝して、詠唱を唱えることにした。
「ふぅーー」
息を吐いて、心を落ち着かせる。魔法詠唱には精神を落ち着かせるのが大事だと、師匠は言っていた。
「暗い大地、広い海、川の流れ、豊かな緑、私に空を飛べる翼を、私に力を授けよ、魔法をもたらせ!」
体全体に電流が走ったような衝撃が走る。痛覚と、少しばかりの快感が脳を突き抜けた。
周りの草木が少し揺れる。私は少し足元が浮いた。
「よし!まずは第一段階成功」
次は第二段階だ。
箒に乗る。いつもここで失敗して、師匠に怒られてたっけ。
「ええい、ままよ!このまま乗っちゃえ!」
私は勢いよく箒に飛び乗った。自身の魔力を放出している感覚が全身に伝わる。
「くっ…うう」
ここで魔力放出の量をミスしてしまうと、よろけて箒から落ちてしまう。
ここは正常に保つことを意識!
「おおっと!?」
少し箒がよろけた。気合を入れすぎると、魔力も放出されすぎてしまうみたい。
師匠は…なんて言ってたっけ、そうだ。目を瞑って、思考を止めて、魔力だけに集中しろって言ってた。
集中。集中。
意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。
自分の魔力の動きが朧げながら掴めてきた。よし!安定してきたぞ。
「第二段階クリア!」
やった!これで箒で試験会場まで行ける!
一度魔力の量を安定させると、体が魔力放出に慣れて、一定に魔力を放出してくれるようになるから、もう安心だ。
バックの中から地図を取り出す。ここから北西二キロメートル程だ。これなら全然余裕だ。
私は試験会場へ向かった。