第87章:「自画像」
太陽がだらりと学校の食堂の埃っぽい窓から差し込み、リノリウムの床に光の四角を描いていた。ユキオはいつものように、騒がしい群衆から遠く離れた隅っこに座り、漫画の単行本と散らばった鉛筆で世界から隔離されていた。長い休み時間は彼にとってのオアシスであり、現実から逃れて描かれた物語の世界に没頭できる時間だった。
しかし、今日は漫画がどこか物足りなく感じられた。普段なら彼を夢中にさせるストーリーも、今日は頭の中を素通りしてしまう。ユキオはため息をつき、本をパタンと閉じた。その視線は、横に転がっている一枚の紙に落ちた。白い紙は、まるで挑戦するかのように鉛筆を誘っているようだった。
ユキオは絵を描くのが好きだった。それは彼の趣味であり、息抜きであり、言葉では伝えられないことを表現する手段だった。普段は窓からの景色やネットの写真にインスパイアされて風景画を描いていた。時には、オンラインの世界で崇拝しているゲームのキャラクターの肖像画を描くこともあった。しかし、今日は…今日は何か違うものを描きたくなった。
突然、稲妻のようにひらめいた。自画像だ!
その考えに、彼は少し顔を赤らめた。自画像?今までやったことがない。普段から鏡で自分を見るのは必要最低限にしていた。ましてや、自分の顔を紙に細かく描くなんて、考えたこともなかった。
しかし、そのアイデアはすでに頭に深く根を下ろしていた。ユキオは新しい紙を取り出し、ためらいながら鉛筆を手に取った。
「よし、やってみよう」彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
そして戦いが始まった。自分の記憶との戦い、逃げていく顔のディテールとの戦い、自分自身のイメージとの戦い。
まずは大まかな輪郭から始めた。顔の丸み、顎のライン。次に目。ユキオは目を細め、自分の目の形や眉の角度を思い出そうとした。描いては消し、また描いた。
鼻は特に難しかった。どうやってこの…平凡さを表現するのか?普通の鼻なのに、紙の上では大きすぎたり、小さすぎたり、まるで他人の鼻のようになった。
唇…ここでユキオは手を止めた。彼の唇はかなり薄かった。そして、笑うのが恥ずかしくて、いつも唇を引き締めていた。しかし、絵の中ではなぜか、かすかな微笑みを浮かべたかった。少し不自然だったが、そのままにしておくことにした。
髪の毛…ここで彼は思い切りを出した。普段は適当に横に流しているだけで、特に気にしていなかった。しかし、絵の中では突然ふわふわで、ウェーブがかかり、額にかかる絵のようなストランドになった。
あっという間に1時間が過ぎた。休み時間のベルが彼を不意打ちした。ユキオは鉛筆を置き、椅子の背もたれに寄りかかって自分の作品を見つめた。
そして…彼は少し驚いた。
紙の上から彼を見つめていたのは…美しい青年だった。生き生きとした目、柔らかな顔の輪郭、かすかな謎めいた微笑み。
これが彼なのか?
いや、もちろん違う。鏡で見る自分はこんな風じゃない。鏡の中の彼は、角張った、内気な男で、どんよりした目と永遠にボサボサの髪をしていた。
しかし、絵の中では…
絵の中の彼は、彼がなりたい自分だった。もっと自信に満ち、魅力的で、もっと…興味深い自分。
ユキオは苦笑した。なんて画家なんだ。自画像のつもりが、理想の自分を描いてしまった。彼の空想の中にしか存在しないバージョンだ。
彼はその絵を取り上げ、くしゃくしゃに丸めた。
「バカみたい」彼は呟いた。
しかし、捨てはしなかった。ポケットにしまい、心臓の近くに置いた。
結局のところ、失敗した自画像でも、元の自分に少しは似ている。そして、いつか、ユキオはその絵の中の美しい青年に少しでも近づけるかもしれない。ほんの少しだけでも。