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第6章:「無為のヒーロー」

薄いカーテン越しに差し込む太陽の光が、ユキオが開いた教科書のページをそっと照らしていた。普段は静寂が安らぎを与えてくれる図書館も、今日はどこか張り詰めた空気が漂っていた。ユキオは歴史の教科書に意識を集中させ、明日のテストへの焦りを振り払おうとしていたが、いつものように準備をギリギリまで先延ばしにし、奇跡を期待していた。あるいは、自分の怠惰をすべて飲み込んでくれる深淵の優しさ、と言った方が正確かもしれない。


長い木製のテーブルには、高校生たちが集まって座っていた。最初は小声で話していたのが、次第に声が大きくなり、笑い声は不快な騒音へと変わっていった。ユキオは苦悩する明王朝の歴史に集中しようと眉をひそめた。もちろん、彼自身が静寂と秩序の守護者ではないことは承知しているが、それでもこの騒音は、彼なりに苦心するのを邪魔していた。


図書館司書である佐藤さんは、眼鏡を鼻にかけたふくよかな女性で、ちょうど奥から出てきたところだった。彼女はいつも騒がしい者には厳しかったが、今は席を外しているようだった。図に乗った高校生たちは、歯止めが利かなくなった。彼らはもうただ笑っているだけでなく、大声で騒ぎ、周囲を気にせず楽しんでいた。


ユキオの胸の奥底では、苛立ちとともに、何かをしたいという微かな衝動が芽生えていた。ネットバトルの裏では、匿名コメントとして常に無実の人々を擁護してきた、真のヒーローである彼。今こそ何か行動を起こすべきではないか。彼らに近づいて、厳しい顔で「ここは図書館だぞ!サーカスじゃない!」「静かにしてくれ、みんなが迷惑している!」と言うべきではないか、と思ったが……。


無為のヒーローであるユキオは、瞬く間に言い訳を考え始めた。「彼らは年上だ、もしも殴られたらどうしよう?」という考えが頭をよぎった。「それに、もっとバカにされるかもしれない?」と内なる声が囁き、ただでさえ緊張している状況をさらに悪化させた。画面の中でのコミュニケーションには慣れているが、現実世界での対立には全く無力だった。「まあ、そもそもこれは俺の問題じゃない。誰か他の人が対処すればいい」とユキオは結論付け、再び歴史書に目を向けたが、その苛立ちは明らかに増していた。


ユキオがほとんど諦めかけたその時、騒がしい高校生たちのすぐそばに、突然佐藤さんが現れた。まるで幽霊のように、音もなく現れた彼女は、一言も発せず、その厳しい視線で彼らを見据えた。


高校生たちの顔色は変わり、笑い声は瞬時に消え失せた。まるで誰かが音を消したかのようだった。佐藤さんは表情一つ変えることなく、ブルドーザーのような速さと勢いで彼らを図書館から追い出し始めた。まるでゴミ袋を捨てるかのように。「出て行って!ここから出て行くの!」と呟いていた。


ユキオは息を呑んでその光景を見つめた。明王朝のことなど、すっかり忘れていた。そして、最後に驚いた高校生が図書館から連れ出されると、佐藤さんは何事もなかったかのように自分の机に戻り、業務に取り掛かった。


図書館には再び静寂が戻り、ページのめくり音だけが聞こえた。ユキオは、自分はヒーローでありながら、同時に何もできなかった完全な馬鹿でもあると感じ、小さくため息をついた。


結局彼は何も言えなかったが、幸運なことに、他の誰かが言ってくれた。現実世界では無力かもしれないが、誰かが問題を解決するのを見るのは得意だ。そして、おそらくそれこそが、彼の真のヒーロー性なのだろう。無為のヒーローとして、人々の偉業の影で、心地よく過ごしていること。

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