転校生
二学期初日。
タクヤは弾んだ気持ちで教室に向かっていた。夏休みに楽しいことが一杯あった。初めて飛行機に乗って家族でハワイ旅行に行ったし、田舎のおばあちゃんのところで見た花火大会がちょーかっこ良かったし、地元のサッカー団で下級生なのにレギュラーになれた。どれもこれも早くみんなに話して自慢したかった。サッカーボールをぶら下げたランドセルをガチャガチャいわせながら四年一組の扉をがらりと開けて開口一番。
「おっはよう!」
皆が自分の方を振り向く。
「おう、タクヤ、久しぶり!」
「たっくん、元気してた?」
「タクヤー、イエイ!」
ケンケンとユウタとみっきんが両手を高く上げる。タクヤもイエイとハイタッチを交わして自分の机にランドセルを放り投げた。
「うわ、たっくん、焼けたねえ。夏休なにしてたの?」
ユウタがいつもの人懐っこい笑顔で聞いてくる。
「そうか? まあ、色々あったんだけど…」
ユウタの問いかけにチャンスとばかり
「まあ、聞いて驚くなよ。実はさ…」
と勢い込んで話し出した途端、キンコンカンコンとチャイムが鳴り出した。それと共に教室の前扉から担任の山ちゃん先生が入ってくる。かあさんと同じくらいの歳のおばちゃん先生だ。
「はい。みなさん、座って下さい。ホームルーム始めますよ」
「えー」
そこかしこから声が上がる。タクヤたちだけでなく他のみんなも夏休みの話に盛り上がっていたのだろう。タクヤはいつもの調子で先生! と勢いよく手を上げた。
「はい、なんですか、岡崎タクヤくん?」
「来るの早いよ! もうちょっとみんなと夏休みの話がしたいんだけど」
「あら、そう」
「なー、みんなもそう思うだろ?」
タクヤがクラスを見渡すと、男子はノリよくイエイと手を上げ、女子は半ばあきれ顔で笑っていた。なんだかんだ言いながらタクヤはクラスの人気者なのだ。
「そうね、お休みの間の話をするのはとても良いことだと思います。でも今日は少し大切なお話しがあるので、まずは座ってくれるかしら? みなさんの夏休みのお話を聞く時間はあとで取りましょう」
大切な話? なんだろう? そう言われるとクラスのみんなの関心もそちらに移った。タクヤも仕方なく自分の席に着いた。
「先生、大切な話ってなんだよ?」
山ちゃん先生が出欠を取り終わるのを待ちかねたようにタクヤが声を上げると先生は「それはね…」と言いつつ教壇を降りて前扉を開けた。
「お待たせ。入ってきて」
教壇に戻る先生のあとから現れたのは見たこともない綺麗な女子だった。
おおというざわめきが聞こえる。まるでテレビで見るアイドルのような整った容姿。お嬢様という形容が似合いそうな落ち着いた雰囲気で、長い黒髪ストレートが印象的だった。誰々? と言うささやき声。もしかしたら? と言う呟きがクラスに漏れる。そんな中、先生が黒板に大きく名前を書いた。
【高倉ひかり】
「みなさんに新しいお友達を紹介します」
先生のそのひと言で、わあと歓声が上がった。
「二学期からみなさんのクラスメイトになる高倉さんです。みなさん、仲良くしてあげて下さいね」
「やっぱり転校生なんだ」「うわ、すげー」「可愛くない?」「どこから来たんだろ?」
喧騒の中、高倉さんは先生に促されて、ぺこりと軽く頭を下げると
「高倉ひかりです。父の仕事の都合で転校してきました。よろしくお願いします」
緊張しているのか少し控え目な口調の、けれどしっかりした挨拶だった。
「おーすげー」
それがまたみんなに好印象を与えた。クラスは新しい転校生の登場で沸き返った。
転校生の紹介やら、二学期始まりにあたっての注意事項やらで時間が掛かって結局ホームルームでは夏休みの話をするような時間は無かった。
「ちぇっ」
タクヤは軽く舌打ちする。みんなに話して自慢したいことが一杯あったのに待ちぼうけを食らわされた気分だ。
二学期初日はホームルームが終わったら、もう下校になる。けれどみんな転校生のことが気になるのか、高倉さんの周りに集まってなんやかんや質問している。どこから来たの? 兄妹はいる? お家はどの辺? ペットは飼ってる? 好きなものはなに? 取り巻いているのはもちろん女子が多いけれど、少し遠巻きに男子も興味津々で耳を傾けている。ケンケンやみっきんもその中にいた。
「たっくんは行かないの?」
離れたところから見ていたタクヤにユウタが聞いてきた。
「俺は…興味ないし」
「え? そうなの?」
ユウタは意外そうに首を傾げる。
「僕、あんなきれいな子、今まで見たこと無いよ。たっくんもそうでしょ?」
なんて正直なやつなんだと思った。ユウタには照れとかないのか?
「いや、俺、女子とか苦手だし……」
これは嘘だ。親戚に年の近い従姉妹がいるので大抵の女子とは普通に話せる。ただちょっと今はみんなと一緒になって彼女の周りに集まりたくなかった。なんとなく癪だったのだ。本当なら自分が注目を集めているはずなのに彼女に全て持って行かれたようで、彼女の周りに集まるザ・モブにはなりたくなかった。
「ふーん、そうだったっけ?」
ユウタが再び首を傾げる。タクヤは強引に話を変えた。
「それよか、ユウタ。俺の夏休みの話を聞かないか?」
「うん、いいよ。たっくんの話、聞きたい!」
たちまちタクヤは嬉しくなった。
「じゃあ、行こうぜ」
自転車通学のユウタがゆっくり走る傍を歩きながらタクヤは夏休みのあれこれを夢中で話したのだった。
二学期が始まって二週間。タクヤはなんだかムシャクシャしていた。理由はやっぱりあの転校生だった。当初、転校生という物珍しさから彼女の元に集まっていたクラスメイトの数は二週間経っても減ることはなく、むしろ日に日に増えていた。最初の印象通り、彼女は良いところのお嬢さんのような落ち着いた雰囲気でクラスの誰よりも大人びていた。一方、誰に対しても気さくで話しやすい態度でたちまちクラスの人気者になっていた。
「高倉さん、お父さんの仕事で外国で生活してたこともあるんだって」「しかも何カ国も行ったらしいよ」「外国語も少しはなせるんだって」「へえ、すごいね」
クラスで交わされるそんな話を耳にしながらタクヤはずっと転校生と直接話したことがなかった。今更彼女の取り巻きに加わろうとは思わなかった。それは別にいい。それよりもクラスの中心が明確に転校生になってしまっているのがムシャクシャの理由だった。少なくとも二学期始まる前までは自分がその場所にいたはずなのに。今や誰もが彼女と話したがり、彼女の新しい話題を見つけるとみんなに自慢して話し出す。その話題にタクヤはすっかり蚊帳の外だった。
仲良しだったケンケンとみっきんもすっかり彼女の取り巻きになっていて夏休みが終わってから、ふたりとちゃんと遊んでない。だから、ふたりが帰ろうとしているところを久しぶりに呼び止めた。
「なあ、今日一緒に遊ぼうぜ」
けれど
「あー、わるい。今日さ、みんなで高倉さんに市内を案内する事になってるんだ」
「え? 俺、聞いてないけど」
「あー、タクヤも来る?」
「…俺は、いい」
「そうか。じゃあな」
二人が楽しそうに教室を出て行くのを黙って見送る。仕方ない、またユウタと二人で帰るか。そう思ってユウタを探すと
「あ、たっくん、ごめん。今日、塾があるから先に帰るね」
ユウタは申し訳なさそうに言った。
「ああ、塾の日だったな。そうか。じゃあ、サヨナラ」
「うん、また明日」
ユウタが帰っていくのを見ながらタクヤはちぇっと息を吐いた。それからのろのろと帰宅の途についた。
もちろんそのまま帰るなんて胸がムシャクシャしてできるわけがなかった。タクヤは公園に行って思いっきりサッカーボールを蹴った。苛立ちを叩き付けるように壁に向かって何度もボールを蹴っていると段々ムシャクシャした気分が薄れてきた。いつしかドリブルやフェイントの練習に夢中になっていた。
「そろそろ、帰るか」
いつの間にか結構な時間、ボールを蹴っていた。気分はだいぶ良くなっている。公園をあとにして駅前の繁華街を抜けようとした時、ゲームセンターが目に入った。そうだ。今日の仕上げにゲームしていこう。タクヤは対戦型格闘ゲーム機の前に座る。結構自信のあるゲームだ。たぶんハイスコアの記録は自分が持っている。これで気持ちよく勝って今日を締めくくれば、ここ数日のムシャクシャした気持ちもすっかり無くなるだろう。そう思ってゲームを始めた。
最初は対戦相手が現れずCPU相手の戦いだったがタクヤは連戦連勝だった。一息ついた頃、画面に対戦依頼の通知が点滅した。対面のゲーム機に誰かが座ったのだろう。首を伸ばしてチラッと対面を見るとゲーム機の向こうにキャップを被った頭だけが覗いていた。自分と同じ小学生か、それとも中学生だろうか? よーし。気合いを入れるとタクヤは対戦受け入れのボタンを押した。
くそ! 負けた! しかも瞬殺だった! 嘘だろ!
悔しさに頭が真っ白になる。それでも、すぐさま再戦の申し入れをする。次は負けないからな! そう思った。
まじか?!
連敗だった。さっきよりは少しは粘れたがやはり一ラウンドも取れずに敗退。すぐさま次の対戦を申し込む。次は勝つ! けれど…三回戦も、そのあとの四回戦、五回戦もタクヤは勝てなかった。完敗だった。こんなこと初めてだ。明らかに技量が違う。それでも負けず嫌いなタクヤはもう一回と再戦を申し込んだ。けれど、その申し込みは拒否されてしまった。
なっ!
タクヤはガバッとゲーム機から立ち上がる。対面のゲーム機からキャップを被った少年が立ち去ろうとしているところだった。くそ! 勝ち逃げなんてさせないぞ!
「おい、ちょっと待って!」
慌てて肩を掴んで自分の方に振り向かせる。その拍子にタクヤの腕が少年のキャップをはじき飛ばした。
えっ?
バサリと長い黒髪が流れ落ちる。振り向いた顔は少年ではなく少女のモノだった。しかも自分が知っている…
「高倉?」
少女は目を見開いていた。それから慌てて落ちたキャップを拾うとそのまま歩き去ろうとする。咄嗟に腕を掴んでいた。
「ちょっと待って高倉。なんでおまえが…」
「放して!」
ビックリした。教室では聞いたことのない大きな声。初めて見る余裕のない表情。もしかして…
「高倉って、ほんとはそんな感じなの?」
「っつ!」
彼女が焦ったように眉根を寄せる。
「わたしは…」
彼女が何か言いかけたところでタクヤはそれが目に入った。
「やべえ!」
とっさに身を低くしてゲーム台の影に移動する。当然、腕を掴んでいた彼女も引っ張ってくることになった。
「え? なに? なんなの?」
「いいから。頭下げて」
タクヤはゲーム台の横から覗き見る。そこに学校の先生がいるのが見えた。壁時計を見上げるともう六時(十八時)を三十分も過ぎている。ヤバイ。対戦に夢中になって気がつかなかった。先生が見回りにきたのだ。小学生は保護者無しで六時(十八時)以降のゲームセンターの出入りは禁止されているのだ。見つかったら大目玉だし親に連絡が行ってしまう。それはまずい。タクヤはランドセルを背負うと
「おい、先生に見つからないようにゲームセンター出るからな。付いてこいよ」
「…なんでわたしまで」
彼女はぶつくさ言っていたが案外素直にタクヤのあとを付いてくる。タクヤは勝手知ったるゲームセンターの抜け道を辿って先生に見つからずに外に出ることに成功した。よし! その成功になんだかほっとして後のことはとりあえずどうでも良くなった。振り返ると被り直したキャップに髪を押し込めている彼女と目が合う。
「じゃあな」
そのまま帰ろうとしたら今度は彼女に肩を掴まれて振り向かされた。
「ちょっと君。えーと…」
「タクヤだよ。岡崎タクヤ」
「岡崎くん。えーと…」
彼女は何かを迷うように瞳を動かす。
「今日のこと、学校では、その…」
「なんだよ? ゲームセンターに来たこと知られたくないのか?」
「う、うん。それもあるんだけど…」
「なんでだよ? おまえ、あの対戦ゲームメッチャ上手いじゃん。俺なら自慢するレベルだぞ」
タクヤの言葉に彼女は一瞬嬉しそうな笑みを浮かべかけて慌てて引っ込める。
「でも私、ここでは、その…お嬢様キャラでいこうと思ってて…」
「はあ?」
なんだそれ?
「じゃあ、クラスでは、みんな演技なのか?」
「みんなってわけじゃないけど…多少は…そうかも」
決まり悪そうに彼女が目を逸らす。
「ぶふぁ!」
思わず笑いが漏れた。
「え? なに? どうして笑うの?」
「いや、なんか、おまえ、苦労してるんだなと思って」
その返答を聞いて彼女が急に頬を膨らます。
「そうよ! 苦労してるんだから。笑わなくてもいいでしょう!」
「ああ、ごめん。悪かった」
タクヤが素直に謝ったことが意外だったのか彼女はすこし目を見開いた。それから表情を戻すと
「私ね、転校ばっかりなんだ」
タクヤに横顔を向けて話し出す。
「お父さんが転勤族でね、海外も含めて色んな所を渡り歩いてるの」
“てんきん族“てなんだろう? なんだか弱そうだなと思ったけれど、タクヤは口をはさまなかった。
「だから、毎回、転校した初めは不安なの。今度はどんな子がいるのかなとか、上手くやれるかなとか、お友達出来るかなとか、いじめられないかなとか。だから、頑張ってみんなに好かれるようなキャラを作って、それで一緒にいる期間、楽しく過ごせたらいいなって思ってるの」
彼女がタクヤを振り返る。
「だから学校では、今の私のこと、黙ってて欲しいんだけど」
彼女の真剣な眼差しにタクヤは少し気圧される思いがした。
「ああ、分かった。言わねえよ」
言っても誰も信じないんじゃないか。普段お嬢様な転校生が猫かぶりで格闘ゲーム好きだなんて。それでも言っておきたいことがあった。
「でもなあ、おまえ、ずっと猫被ってるの大変じゃないか?」
「ね、猫被るなんて…そんなことしてないけど!」
「いや、まあ、そうじゃなくて、クラスのみんなの前でなければ、猫被る必要ないだろ。だから時間があるとき、俺と格闘ゲームしようぜ」
「え?」
彼女が目を丸くする。タクヤは頬を掻きながら
「負けっ放しじゃいやなんだよ、俺が!」
「君って…意外に優しいのね」
「は? な、なに言ってるんだ」こいつ?
女子から優しいなんて言葉を掛けられたのは初めてだ。動揺で顔を背けていると不意に身体に柔らかい暖かみを感じて耳元で
「ありがとう」と声が聞こえた。
「ふえ?」
彼女はハグしていた腕をほどくとふふっと笑ってじゃあねと手を振り、暗くなった街に消えていく。タクヤはそれを呆然と見送ったのだった。
そんなことがあって彼女に対するムシャクシャした思いはきれいさっぱり無くなった。代わりになんだかドキドキが収まらない一夜を過ごして翌日登校すると、いつものように彼女はクラスのみんなに囲まれてお嬢様然とした笑顔を浮かべていた。やるなあ、あいつ。思わず漏れそうになる笑いを堪えていると彼女と目が合った。途端、彼女が小さく素早く舌を出した。
「ぶはっ!」
堪えきれずに吹き出してしまう。
「あれ? たっくん、高倉さんとなんかあった?」
「はあ?」
いきなり言われてギクッと固まる。ユウタが首を傾げて自分を見ていた。
「は? 転校生と? なんもないけど」
「そうなの?」
「あたりまえだろ」
「そうかなあ。なんかふたり、合図してたように見えたんだけど」
まじか! こいつはほんとによく見てるよな。用心しなくちゃ。
「そんなことあるわけないだろ!」
「そっかー。残念」
「は? なんで残念なんだよ?」
「うーん、なんとなく?」
「なんだ、そりゃ」
ユウタは真実残念そうな表情で自分の席に戻っていった。なんなんだいったい? そこで不意に昨日の別れ際の光景が蘇る。途端に心臓が騒ぎ出した。わー、忘れろ! とタクヤは慌てて頭を振った。
「わー、ちょっと待て、高倉! そのコンボのやり方教えてくれ!」
ゲームセンターのいつもの格闘ゲーム機の後ろでタクヤは声を上げた。ゲームをしているのは高倉ひかりだ。CPU相手の格闘戦で超絶コンボ技を繰り出したところだった。
あれから、ふたりは週に一、二度、ゲームセンターで遊ぶようになっていた。例の格闘ゲームではタクヤはまだ一度も彼女に勝てなかったが、他のゲームでは勝敗が逆になることもあり、白熱した戦いはやっててとても楽しかった。けれど学校では今でもあまり親しく話したりしなかった。タクヤ的にはなんとなく照れくさく、また今さら彼女の取り巻きに交ざるのは気が進まなかった。あと、彼女の別の姿を知った今となっては、学校での振る舞いはなんだか嘘くさく、よくやるよなあと言う思いと、彼女の本当の姿を知っているのが自分だけだという優越感でちょっと気分がよかった。
「そろそろ六時だし、帰るか」
「そうね」
二人して壁時計を眺める。彼女は名残惜しそうな表情を見せた。いつもそうだ。もっとゲームしたいんだろうなと思う。もちろん自分もそうだ。楽しい時間はいつだってすぐ過ぎちまう。そんなことを思いながらゲームセンターを出ると
「うわー雨だ!」
「うそ?」
盛大に雨が降っていた。そんな予報だったっけ? もちろん傘なんて持ってきてない。チラッと横を見ると彼女も呆然と空を見上げている。その瞬間、閃光が奔った。すぐにゴロゴロバシャンという大きな音。
「きゃぁ!」
彼女が耳を押さえて蹲った。
「え? おい、大丈夫か?」
返事は無く、彼女は蹲ったまま耳を押さえて震えている。タクヤも屈んで
「かみなりダメなのか?」
顔を上げた彼女は涙目だった。初めて見るその気弱な表情に不意に心臓がキュッと締め付けられる。慌てて顔を逸らした。
ええっと、どうすっかなあ。もう一度ゲームセンターの中に戻るのはもう六時過ぎちまうからダメだし、傘ないから他のとこにもいけないし、やっぱ親に連絡して迎えに来てもらうしかないか。タクヤは持たされているスマホを取り出して
「親に連絡して迎えに来てもらうから、そしたら高倉も家まで送ってもらうから、それでいいか?」
我ながらいい案だと思っていると彼女はフルフルと首を振った。
「え? ダメか?」
「…家で一人なの」
「え?」
「パパ仕事だから」
「かあさんは?」
「……いないの」
「あー…」
やっちまったと思った。気まずくなって言葉が出ない。すると
「…一人で居たくないよ」
そう彼女が小さく呟いた瞬間、またゴロゴロと雷鳴が轟いた。
「きゃあああああ!」
ドンと彼女の身体がタクヤに押しつけられる。俯いた首筋が小刻みに震えているのが見える。
「じゃあ、俺んちに来いよ」
その言葉はするりと口から出ていた。
「え?」
「雷が収まるまで俺んちに居ればいい。それから送ってもらえばいいよ」
「…いいの?」
彼女が涙目で見上げてくる。
「…も、もちろん」
勢いで言ってしまったが、家に女子を呼ぶなんて冷静に考えるとヤバイ気がする。(特に、かあさんが!) でも雷に震えている彼女を見ていると今更なかった事になんか出来そうにない。ええい、なんとでもなれ! タクヤはスマホのラインを立ち上げた。
「まあまあ、それは大変だったわね」
「いえ、あの…」
「どうぞ、どうぞ、入って入って」
「かあさん」
「遠慮せずにね」
「あ、はい、おじゃまします」
「ちょっとかあさん」
「タクヤ、何やってるの。あなたも早く上がってお友達を居間に案内してあげなさい」
「はあ…」
予想通り、かあさんは雨で帰れなくなっていたとは言え、俺が女の子を家に呼んだことではしゃいでいた。ったく! こっちが恥ずかしくなる。
「…ごめんな」
小さな声で彼女に謝る。
「いいお母さんね」
さっきまで震えていた彼女がクスッと笑った。それで俺はなんだかホッとした。
スマホで事情を話してかあさんに車で迎えに来てもらった。車内ではまだ雷の音に震えていた彼女は家に入ってようやく落ち着いたようだった。
「そこ、座って」
居間のソファを指さす。自分も対面に座ろうとランドセルを放り投げたら
「ちょっとタクヤ、ランドセル自分の部屋に置いてきなさい」
「えー」
「ほら、早く」
「ちぇっ!」
仕方ないのでランドセルを掴んで自分の部屋まで持っていく。自分がいない間にかあさんが余計なことを彼女に話さないか、気が気じゃなかった。急いで部屋にランドセルを置いてついでにトイレに寄って居間に戻ってみると
「まあ、そうなのひかりちゃん。いつも夜遅くまで一人じゃ寂しいわよね。晩ご飯とかどうしてるの?」
「コンビニのお弁当とか…」
「まあまあ、それは大変ね。そうだわ、よかったら今日、うちでごはん食べて行きなさい」
「「え?」」
二人の声がハモった。
「あら、タクヤ、戻ってきたのね。今ね、ひかりさんに晩ご飯食べていったらって言ってたとこなの。いいわよね」
「俺は……別に、いいけど」
彼女の方を見るとポカンと口を開けていた。
「あ、高倉がイヤなら別にそう言えばいいぞ。雨上がったら送ってもらうし」
「あ、うん、いいの……と言うか、いいんですか?」
「もちろん。こんなかわいい娘さん、大歓迎よ」
「ちょっとかあさん、そう言う事言うの、やめてくれよ!」
「なに照れてるの、あんたは」
「ううー」
撃沈した。これだからかあさんに会わせるの不安だったんだ。でも、俺たちの会話を聞いて笑っている彼女を見て、まあ、いいかと思い直した。それにしても、かあさんの距離の詰め方が早すぎるんだけど!
「おとうさまが商社マンなの。ああ、それで転勤が多いのね」
「はい」
晩ご飯を食べながら話し好きなかあさんが彼女に何かと話題を振っていた。正直余計な事言わずに黙ってて欲しいんだけど、俺にどうにかできるわけがない。
「今までどこに行ったのかしら?」
「えっと、アメリカとか、ドイツとか、フィリピンにも少し」
「まあまあ、それは大変だったでしょう?」
「そうですね。父が忙しいのでずっと一人で居ることが多くて」
「おかあさまは?」
「かあさん!」
ハッとして声を掛ける。でも彼女は俺に向けて首を振ると
「母は私が幼い頃に亡くなりました」
「あら、ごめんなさいね。それは辛かったでしょう?」
「いえ、いいんです。それにずっと幼かった頃なのであまり憶えて無くて」
「でもまだあなたは子供だもの。寂しいことも多いわよね」
「…はい」
そこでかあさんは何か思案すると漫画のようにぽんと手を打った。
「じゃあ、よかったら、いつでもうちに遊びに来て。晩ご飯も食べていってちょうだい」
「「え?」」
再び声がハモった。でも次の言葉はバラバラだった。
「かあさん、なに言って…」
「いいんですか?」
「え?」
思わず彼女を見る。嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
「ええ、ええ、いつでも来ていいわよ、ひかりちゃん」
かあさんはすっかり彼女のことを気に入ったみたいだった。ちょっと頭が痛い。夕食後、かあさんが彼女のお父さんに連絡を取り、お父さんが帰宅する頃に彼女を送っていくことになった。それまで時間があったので
「ゲームする?」
「あるの?」
「うん」
ゲーム機をテレビに繋いで
「どれする?」
彼女が選んだのはやっぱり格闘ゲームだった。
「じゃあ、車だしてくるわね。それまで帰る用意しておいて」
「はーい」
かあさんが団地の駐車場に車を取りに行ったので、ソファでゲームの片付けをしていると
「いいなあ」
隣で彼女が小さく呟くように言った。
「え? なに?」
「岡崎くんの所はいいね」
「なにが?」
「あったかい」
「うん?」
「あったかくて、いいなと思ったの」
「そうかあ?」
「そうだよ。いいおかあさんだね」
「ええー!」
色々反論したかったけど
「…わたしもこんな家に生まれたかった」
呟くように言われたその言葉を聞いてなにも言えなくなった。その時、かあさんが玄関から呼ぶ声が聞こえた。
「あ、行かなきゃ。今日はありがとう。また、よろしくね」
「あ、ああ」またな、と言う言葉を返す前に彼女は扉の向こうに消えていた。結局なんと返せばよかったのか分からなかった。
それから週に一、二度、ゲームセンターで遊んだ日には彼女はうちに来るようになった。かあさんがなんやかや言うのが面倒なのと、遅く帰ってくるとうさんが彼女に会えないことを残念がるのが鬱陶しかったけど、だんだん気にならなくなった。それよりも彼女が来たときはお菓子があったり、晩御飯が豪華だったりしてテンション上がった。ご飯を食べてテレビゲームで遊んで、時には学校の宿題を一緒にやる。そんな日々が続いて楽しかった。
「高倉さんは風邪でお休みです」
山ちゃん先生が朝のホームルームで言った。十二月も半ばを過ぎ、みんなが冬休みを待ち望む頃、彼女は学校を休んだ。数日経って登校してきた彼女はやつれた表情でまだ具合が悪そうだった。クラスのみんなから心配されて言葉を掛けられていたが、その度に弱々しい笑顔で「うん、もう大丈夫」と答えていた。その様子を見ながらタクヤはさすがに今日は遊べないよなあと考えていた。
授業が終わって、さあ、帰るかとランドセルに教科書を詰め込んでいると、珍しく彼女がタクヤの所までやって来た。
「岡崎くん、今日、お家、行ってもいい?」
「え?」
見上げると妙に真剣な瞳とぶつかった。
「…いいけど。風邪大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
「なら、いいけど」
「ありがと」
その日、ゲームセンターには寄らず、直接タクヤの家に行くことにした。会話はあまりなかった。彼女がしんどそうだったこともあってタクヤも話しかけづらかったのだ。家に着くと、かあさんが彼女の体調を心配してまた甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「まあまあ、ひかりちゃん、大丈夫? 寒くない? 今、温かい紅茶淹れますからね」
「タクヤ、リビングのエアコン入れて暖めといて」
「タクヤ、膝掛け取ってきて」
「タクヤ、冷蔵庫からミルク持ってきて」
「タクヤ…」
俺がかあさんに振り回されている間、彼女は精一杯、明るく振る舞っていたけど、やっぱりいつもより元気がなかった。
「ちょっと、かあさん、うるさすぎ」
「えー」
「高倉が疲れちゃうだろ」
かあさんはあらためて彼女を見ると
「そうね。ごめんなさいね。じゃあ、お夕飯の準備するわね」
ようやく居間を出て行った。
「ったく。うるさいんだから」
ごめんなと言うと彼女はううんと弱々しい笑顔を返す。
「えーと、ゲームでもする? しんどかったら、そのまま休んでたらいいけど」
「ゲームする。したい!」
「お、おう?」
思いがけない強い声にちょっとビックリした。
「じゃあ、やろう」
それからいつものように二人で対戦ゲームを始めた。
「つ、強えじゃねえか」
彼女は体調不良だから今日は自分の楽勝だろうと思っていたら、全然そんなことはなく、むしろいつもよりくそ強かった。まじか! 横目で彼女を見ると、モニターの光を反射して瞳がきらきらと輝いている。少しだけ元気を取り戻したように見えてなんだかホッとした。
夕飯を食べ終わって、今日は彼女の体調を考えてかあさんが車で送っていくことになった。かあさんが車を取りに行っている間、居間で二人残される。ソファに並んで座って何気なく点いているテレビを眺めていると
「あのね、岡崎くん」
「うん?」
「わたし…」
そこで彼女の声が途切れた。不審に思って顔を向けると彼女が真剣な瞳で俺を見ていた。
「あのね、わたし……」
なんだか身体が小さく震えているように見えた。
「え? おい、大丈夫なのか?」
風邪がしんどいんだろうか? また熱でも出てきたんじゃないか?
「おまえ、早く帰った方がいいんじゃ…え?」
なにが起こったのか良く分からなかった。彼女の身体が急に大きくなって温かい感触が全身を包む。耳元で声が聞こえた。
「帰りたくない」
彼女に抱きつかれていた。
「ちょ、おまえ」
「帰りたくないよ。ここにいたい」
恥ずかしさから引き離そうと思った腕は彼女の今にも泣き出しそうな、その声を聞いて動けなくなった。
「なんだよ。なんかあったのか?」
答えはなく、ただ彼女は首を振るだけだった。
玄関からかあさんの呼ぶ声が聞こえてきた。彼女が離れる。目元を拭って立ち上がると恥ずかしそうにアハッと笑った。
「ごめんね。ありがと」
「あ、おい!」
俺が何かいう間もなく彼女は居間の扉を開けて出て行った。俺は呆然とそれを見送った。
なんだったんだあれ?
それからしばらく、あの時のことを俺はあれこれ考えてしまった。もしかして彼女は父親に虐待されてたりするのだろうか? それで逃げ出したいとか? いや、まさか。単に風邪で体調不良だっただけでは? それとも、もしかしたら、俺に、き、気があるとか? ま、まあ、これはないだろうけどな。
それから数日、すぐ二学期の終業式がやってきた。あの日以来、放課後彼女と遊ぶことはなかった。明日から冬休みだし、今日は久しぶりにあの格闘ゲームで彼女と勝負がしたい。結局まだ一度も彼女に勝った事がなかったからだ。そう思って彼女が来るのを待っていたのだけど、始業の鐘が鳴ってもやってこない。あれ? また、休みか? 風邪がぶり返したんだろうか? 昨日はそんな風には見えなかったけど。ヤキモキ考えていたら山ちゃん先生が入ってきた。
「山ちゃん先生!」
我慢できずに声を掛ける。
「高倉、さんって、今日休み?」
先生はチラッとこちらを見ると教壇に登って座るように手で合図する。
「みなさんに大切なお話しがあります」
その言葉で教室がざわつく。俺の心臓もドキリと鳴った。
「高倉ひかりさんがお父さんのお仕事の都合で転校されます」
ええー! と言う悲鳴が教室中に上がる。心臓の鼓動がどんどん大きくなる。彼女が転校する? いなくなる? それって…
「先生、それって、いつ? いつだよ!」
「高倉さんは今日、お引っ越しだそうです。お引っ越しの都合で朝早く学校に来られて荷物を持って帰られました。みなさんに最後会えないことをとても残念に思っておられましたよ。みなさんも…」
今日? いなくなってしまう? もう会えなくなってしまう? なんで? 嘘だろ? 先生がまだ何か話しているけれどもうなにを言っているのかよく分からなかった。それよりも彼女の事で頭がいっぱいになる。なんで? うそだろ? なにも聞いてないぞ? そこであの日のことを思い出した。あの日、何か言いたそうにしていた彼女。帰りたくないと涙声で言った彼女。あれか! あれなのか?! 急に怒りが湧いてきた。なんだよ! なんで言わねえんだよ! 言えよ!
「バッカやろう!」
教室中に響くような大声が出た。一瞬、クラス中が静まり返る。俺はガバッと立ち上がった。
「たっくん?」
ユウタがビックリした表情で俺を見てる。俺はなにも言わず教室を飛び出した。
下駄箱で急いで靴を履き替えて走って校門を後にする。彼女の家に向かって走る。なんだよ! なんでだよ! 怒りは続いていて、ひと言何か言ってやらないと気がすまないと思った。だからといってなにを言っていいのか分からなかった。ただ、このまま会わずにサヨナラするのがいやだった。怖かった。
気ばかり焦って、どんどん息が苦しくなって来る。こんなにあいつの家って遠かったっけ? 足元がぐらついて、はあはあと息が漏れる。立ち止まって膝に手を当てて喘いだ。今から行って、まだいるのかな? もういなくなってるかもしれない。もう遅いんじゃ…弱気の虫が急速に胸に広がる。その時、
「たっくん!」
声が聞こえて振り返る。後ろから自転車に乗ったユウタが追ってくるところだった。ユウタは隣まで来ると自転車を降りて
「これ、使って」
「おまえ……」
「先生に聞いたら、高倉さんのお引っ越し、九時過ぎなんだって。まだ間に合うと思う」
「おまえ……」
「いいから、行きなよ。僕、こういうのに憧れてたんだ」
「え?」
「”俺”にかまわず先に行けってね」
「おまえなあ」
ユウタがいつもの人懐っこい笑顔で笑う。それで元気が出た。
「じゃあ、借りるぞ」
「うん」
タクヤはユウタの自転車に跨がって彼女の家に急いだ。
遠くに彼女の家が見えてくる。家の前の路上に引っ越し会社のトラックが止まっているのが見えた。その後ろに乗用車。玄関から人が出てくる。彼女だ! でもまだ遠い。彼女が車に乗り込むのが見えた。タクヤは思いっきりペダルを踏み込んだ。あと少し。もう少しで着く。けれどそう思ったとき、トラックと自家用車が動き出した。みるみる距離が遠ざかっていく。くそ!
「止まれー!」
声の限り叫んだ。
「止まれー! 止まってくれー!」
けれど距離はどんどん開いていく。それでもここで諦める気にはなれなかった。車が角を曲がって見えなくなる。焦りながら曲がり角に侵入するとその先で自家用車が赤信号に捕まっているのが見えた。変わるなよ。変わるなよ。心の中でそう唱えて渾身の力でペダルを漕ぐ。
ドンとぶつかるように車に寄せて止まる。間に合った! 助手席のガラスをどんどんと叩く。中で彼女が目を丸くしているのが見えた。けれどスーと車が前に進み出す。あ、信号が青に変わったんだ。くそ! ちょっと待て! 慌ててペダルを漕いで追いかける。すると交差点を抜けたところで車が停車した。扉が開いて彼女が降りてくる。降りた彼女はこっちに向かって走ってきた。
「ちょっあぶねえ!」
あやうくぶつかりそうになってキイと自転車を止めた。目の前に信じられないと言う表情で彼女が立っていた。
「なんで、なんで来たの?」
「なんでって、それはこっちが聞きたい」
彼女がハッと目を逸らす。
「なんで教えてくれなかったんだよ? なんで黙っていなくなるんだよ」
「それは…だって…」
「俺たち、友達じゃなかったのかよ? そう思ってたのは俺だけなのかよ?」
「ちがう! わたしだって…でも!」
彼女の目に光るものが溢れる。
「わたしだって、ここにずっといたかった! ここにいさせて下さいって、父さんにずいぶんわがまま言って困らせて…でも、どうにもならなくて、だから、岡崎くんにちゃんとさよなら言おうと思ったけど、どうしても、悲しくて、泣きそうで、言えなくて、だから、だから…こうするしか、無くて…」
ぽろぽろと零れる涙を見ながら俺はなんて言えばいいのか分からなくなる。言いたいことがあったはずなのに。ひと言、言ってやろうと思ってたのに。
「くそ! 分かった! もういいよ」
「岡崎くん?」
「だけど…勝ち逃げなんて許さないからな!」
我ながら、なにを言ってるんだと思った。けれどとっさに言葉は出ていた。
「え?」
「まだ俺、あのゲームでおまえに勝ってない。だから、いつか絶対おまえに勝ってやる」
「う、うん?」
「だから必ず、おまえと対戦しに行くからな。分かったか?」
「あっ!」
彼女の涙顔に喜びが浮かぶ。
「そんで、引っ越し先はどこなの?」
「えっと、サン・ディエゴ」
「え? どこ?」
「アメリカかな」
「ははあ」
アメリカまでどうやったら行けるんだろうとちらっと思ったけれどそこはもう勢いだ。
「だから、待ってろ!」
「うん!」
車の中から彼女のお父さんが呼ぶ声がする。
「向こうに着いたら連絡するね」
「わかった。じゃあ…またな」
「うん、またね」
彼女は車に戻りつつ振り返る。
「岡崎くん」
「うん?」
「大好き!」
それだけ言って車に乗り込んだ。俺は走り去る車を呆然と見送ったのだった。
ーーーこれが俺と彼女の出会いと別れの物語だ。
会場では正装した男女がテーブルに着席して前面の大きなモニター画面に映し出される映像を見ながら朗らかに笑っていた。その様子を一段高いところから眺めながら俺は頭を抱えたくなっていた。
「以上が、新郎新婦の出逢いの物語でありまして…」
モニター横のマイクの前に立っているのは幼馴染みの花園ユウタ。モニターには小学四年生の時のクラス写真が映されており、俺、岡崎タクヤと新婦である高倉ひかりの姿が赤線で囲まれていた。
「このように新郎新婦は初めての出逢いから愛を育み…」
おい、ちょっとやめろ。恥ずかしすぎるだろ!
「それでは次に、新郎が新婦との約束を果たすべく、小学五年生の時に起こした飛行機無賃密航未遂事件のご紹介を…」
「おい、もう、やめろおお!」
思わず立ち上がって叫んでいた。そんな黒歴史を披露宴の席でぶちまけるなよ! けれど、隣でクスクスと笑いながら
「本当なの?」
と聞くウェディングドレス姿のひかりを見ていたら、もう、どうでも良くなった。
そうこれは、幼い頃に出会った俺と彼女の、ハッピーエンドの物語なのだから。




