mika誕生
JOJOさんのエラリーシリーズ、午前零時の案内人シリーズの設定を使わせていただいています。
特に
午前零時の案内人【チャットルーム】
https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2241179/noveldataid/23154626/
の続きとなりますので、上記作品を読んでから本作をお読みください。
JOJOさん、勝手に続編を書いてしまいまして申し訳ございません。
登場人物
九院偉理衣:くいんえらりぃ。エラリーと呼ばれている。大学生。
愛内利理衣:あいうちりりぃ。リリーと呼ばれている。エラリーのことを「お姉さま」と呼び愛しすぎている。高校生。
J会長:文学サロンの管理人。
午前零時の案内人……殺し屋集団。構成員はボス、ダーク、mika、剣蔵。
ボス……殺し担当。午前零時の案内人を束ねている。
ダーク……情報収集担当。ターゲットのPCやスマホにハッキングし情報収集をする。
mika……ハニートラップ担当。表の顔はフォロワー数が1000万人いるインフルエンサー。裏の顔は人の死ぬ様子を見るのが大好きな狂った女。
剣蔵……雑用担当。何でもやる。
人は死んだらどこに行くのだろう?
友達のさおりんに聞いた。
――さぁ? わかんない。
学校の先生に聞いた。
――そういうことを考えるにはまだ早いです。
教会の神父様に聞いた。
――良い行いをすれば天国に、悪い行いをすれば地獄にいきます。
公園で寝ているおじさんに聞いた。
――お嬢ちゃん可愛いね。ところでお金持ってない?
皆言っていることが違う。
どれが正解なんだろう?
それとも正解はないのかな?
それなら自分で確かめよう。
◯
きっかけは目の前で交通事故を見たからだった。
わたしの数メートル前を歩いていた大学生カップル。
二人は仲良くお喋りしながらショッピングモールに向かっているようだった。
横断歩道を渡ろうとしたとき、暴走した車が突っ込んできて大学生カップルは跳ね飛ばされた。
周りの人たちは悲鳴を上げパニック状態。
わたしは目の前で起きた出来事を理解できず呆然と立ち尽くした。
跳ね飛ばされた大学生カップルのところまで行くと見るも無惨な姿だった。
「見ちゃダメだ!」
すぐそばにいた見知らぬ大人に声を掛けられ、わたしは大学生カップルから遠ざけられた。
「大丈夫かい? ご両親は近くにいる?」
わたしが黙ったままでいると
「ショックで口が聞けなくなってしまったのかな? 救急車がすぐに来るから一緒に運んでもらうといい」
見知らぬ大人はそう言うと、見るも無惨な大学生カップルのそばに駆け寄って何とか助けようとしている。もう無駄なのに。
この時、わたしは確かにショックを受けていた。
目の前で人が車で跳ね飛ばされる。そして原型を留めていない人体。
そして次に湧き上がった感情は
興奮
だった。
事故直前までわたしの目の前を仲良く歩いていた大学生カップル。
この人たちさっきまで笑ったり楽しそうにしていたんだよ?
そんなことがまるで嘘だったかのように血まみれとなって横たわっている。
まさか今日死ぬなんて微塵も思っていなかっただろう。
いつも通りの一日となっていつも通り終わる。
当たり前の日常。これが今後ずっと続いていく。
そんなこと、当たり前すぎて思うことすらなかっただろう。
でも終わった。
わたしの目の前で大学生カップルの人生は終わったのだ。
興奮する。心臓がドキドキ昂っている。
ぐちゃぐちゃとなった大学生カップルから視線をそらすことが出来ない。
この人たちの命はどこに行ったの?
この人たち、死んじゃったんだ。
そこから先はあまり記憶にない。
自分の中で初めて芽生えた感情に支配されて混乱してしまったのだろう。
相変わらず周りの人たちは悲鳴を上げ続け、救急車もやってきたと思う。
「美香どうしたの?」
母親から声を掛けられて、ハっとした。
「帰ってきたときからずっとぼーっとしちゃって。学校で何かあったの?」
どうやらわたしは帰ってきて、ご飯を食べているようだった。
「なんでもない」
一瞬、交通事故を目の前で見たことを言うと思ったけど止めた。
何でだろう。自分の感情をまだ理解できないでいる。
わたしの心臓はまだドキドキしている。
◯
夜中になっても今日起きた出来事を自分の中で整理できずにいたが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
学校に行く前にテレビでニュースを見た。
昨日の大学生カップルの事故がやっていないかと気になったからだ。
「ニュースなんて見ちゃって珍しいわね」
母親が声を掛ける。
「別に」
わたしはそっけなく返す。
ニュースは政治家の何かの問題で騒いでいるようで、大学生カップルの事故のことはやらなかった。
もしかしたら昨日の事故は夢だったのでは?
と思った。
目の前で人が跳ね飛ばされ死ぬ。こんなこと現実にあるの?
頻繁にニュースでやっていたりするけど、まさか自分がそれを目撃するなんて考えもしていなかった。
学校に行く前に事故現場に寄ることにした。
どうしても本当にあったことなのかどうか確かめたかったから。
現場に着くと何事もなかったかのように、普通に人々がいて、普通に車が走っている。
大学生カップルが跳ね飛ばされ地点を見てみると赤黒い染みが地面にあった。
これは血? やっぱり本当にあったことだったんだ!
そして心臓がドキドキした。
人が二人死んだというのに、翌日にはまたいつもの風景になっている。
人の死ってこんなに軽いものなの?
学校の先生は言っていた。
――命は大切にしましょう。
大切であるはずの命が一瞬で無くなったのに、翌日には誰もそのことすら考えていない。
わたしはその事実に興奮する。
「美香」
友達のさおりんだ。
「どうしたの? 美香、通学路ここじゃないのに」
交通事故現場はわたしの通学路からは少し外れていた。
「あぁ、事故現場見にきたんだ! 昨日ここですごい事故があったんだってね!」
さおりんは怖がりながらも嬉しそうに話す。
「ねぇ、さおりん。人は死んだらどこに行くんだと思う?」
なんとなく、さおりんに聞いてみた。
「さぁ? わかんない」
さおりんは首をかしげて言う。
あの大学生カップルはあの後どうなったのだろう。
救急車で運ばれたのかな。どう考えても即死だったので病院での治療なんて不可能だろう。
「ねぇ、さおりん――」
さおりんに話しかけたにも関わらず、わたしが黙っていると
「なんか美香、変だよ。体調悪い?」
さおりんは心配そうにしてくる。
――人が目の前で死んだのに興奮しちゃうっておかしいかな?
とは聞けなかった。
◯
確信したのはそれから数カ月後。
さおりんの家でクラスメイトたち何人かで一緒に映画を見ることになった。
さおりんのお父さんが映画マニアで家にたくさんのDVDを揃えているらしい。
小さいが映画鑑賞用のシアタールームもあって、さおりんが自慢すると、皆が羨ましがって、それなら一緒にシアタールームで見せてあげもいいという流れになった。
さおりんの家に皆が集まると一悶着あった。
どの映画が見たいか皆の意見がバラバラだった。
「さおりん家なんだから、さおりんが決めていいんじゃない?」
わたしがそう言うと、さおりんは目を輝かせて
「パパには絶対見るなって言われて、こっそり見ようと思ったんだけど、やっぱり怖そうで見れなかったホラー映画にしよう! 皆と一緒なら見れそうな気がする!」
皆、ホラー映画と聞いてキャーキャー言っていただが、次第に見たい雰囲気になって盛り上がった。
わたしはホラー映画というと幽霊が出てくるイメージしかなかった。
しかしさおりんが用意したのは殺人鬼が現れて次々に殺戮をする映画だった。
途中で泣き出したりする子が多く、最後までまともに見れていたのは、さおりんとわたしだけだった。
そしてわたしは、心臓がドキドキして頭の中がジンジンして興奮状態に陥っていた。
「ひゃー! 面白かったね。皆情けないよ。ちゃんと見れたのわたしと美香だけだったね」
映画が終わり、さおりんがわたしの方に振り向くと驚いていた。
「美香? どうしたの?」
「どうしたのって?」
訳がわかずさおりんに聞き返す。
「映画楽しかったけど、そんなに笑顔になる?」
さおりんは少し怖がっているようだった。
「え?」
わたしは自分が笑顔になっているなんて全く気づかなかった。
シアタールームに設置してある鏡で自分を見てみた。
そこには満面の笑みで嗤っているわたしがいた。
「あ、うん。わたしもこういう系の映画好きかもって思った」
わたしは慌てて取り繕う。
「そう? 一人だとやっぱり怖いけど皆で見ると楽しいよね!」
さおりんはそう言ったが、わたしに対して何か引っかかっているようであった。
その後、別の部屋に逃げていた他の友達も戻ってきて、今度はコメディ映画を見ることになった。全く面白いとは思わなかった。またホラー映画を見たい。
帰り道、わたしは確信した。
数ヶ月前に遭遇した大学生カップルの交通事故。
その時に芽生えた興奮が今日もまた味わえた。
わたしは人の死に興奮する。
これはおかしいことなの?
◯
「ねぇ、さおりん家ってまだこの間のホラー映画みたいなのいっぱいあるの?」
わたしはまた見たくなってしまい、さおりんに聞く。
「パパがいっぱい持ってるよ! 他の子たち怖がるから二人で見る?」
「うん! 見たい!」
嬉しくて思わず大きい声で答えてしまった。
それから何度かさおりんの家でホラー映画を見た。
殺人鬼がたくさんの人を殺戮する。これはホラー映画の中でもスプラッターというジャンルらしい。さおりんのお父さんが好きみたいでたくさんの作品があった。
全部見たい。毎日でも見たい。
でもさおりんがパパにバレるとまずいからと言って、月に一回くらいしか見せてくれない。
「美香、あのさ、スプラッター映画の見るのもうやめよ」
今日も映画を見て、興奮して、余韻に浸っていると、さおりんが突然言い出した。
「え?」
いきなりだったので驚く。
「美香ちょっと怖いんだよね。映画見てるときも見終わったときも、その顔」
シアタールームにある鏡で自分を見ると、満面の笑みで嗤っているわたしがいた。
そういえば初めてスプラッター映画を見たときも、さおりんに言われたっけ。
「わたしもこういう映画好きだからわかるけど、そこまで笑顔になれる?」
さおりんがキツめの口調で言う。
「また前みたいに映画見る以外で遊ぼうよ!」
さおりんはキツく言い過ぎたと思ったのかフォローする。
「やだ。わたし見たい!!」
わたしは怒鳴り声を出して反発する。
「美香おかしいよ! やっぱり子どもはこういう映画見ちゃダメだったんだよ。パパの言う通りだった!」
さおりんの家から締め出されてしまい呆然とする。
もう人が死ぬ映画見れないの?
でもわたしもそろそろ映画に飽きてきた頃だった。
やっぱり大学生カップルの交通事故死は目の前で起こってリアルさがあった。
あの衝撃、空気感、そういうのは映画じゃ体験できない。
やっぱりリアルで人の死が見たい。
まがい物ではなく、本物の死を。
◯
「はぁはぁはぁ、ハハハ、アハハハハハ!!」
ついにやった。人を殺した。
死ぬ瞬間の顔、なんて堪らないの!
さっきまで止めてくれ助けてくれって叫んでいたのに、死んだ途端無言になる。
この人の命はどこに行ったの?
死ぬ寸前まで表情豊かで泣いていたのに、今は死んだときのままの顔。
命ってなんなの?
命が失われるときなにが起こってるの?
死ってなんなの?
人の命が無くなる瞬間、わたしは異常に興奮する。
◯
もう9人殺した。
近所に廃ビルがあって付近には誰もいない。
人を殺すにはうってつけの場所だ。
リアルな人の死は全く飽きることがない。
やはり映画とは違う。現実の臨場感、これに勝るものはない。
次は誰にしようかな。
最近、さおりんとは全く話すらしなくなってしまった。
さおりんって死ぬとき、どんな顔するんだろ?
無意識に思ってしまった。
わたし今、さおりんの死に顔を想像していた?
想像じゃ満足できない。リアルで見たい。
次はさおりんにしよう。
◯
「美香、今日は誘ってくれてありがとね! 最近なんかわたしたち話してなかったよね」
久しぶりさおりんに話かけて遊びに誘ってみた。
「うん、わたしさおりんの顔見たかったから」
死に顔をね。
「あそこの廃ビルって入れるの? 周り厳重に柵があって入れなかった気が」
「わたし秘密の入口見つけたんだよ。さおりん、廃ビルの中入りたがっていたから、一緒に探検しようよ」
「やったー! 楽しそうだね!」
さおりんはわたしとの関係が改善されると期待してテンションが上がっている。
わたしが9人を殺した廃ビル。さおりんで10人目になる。
「美香、最近雰囲気変わったよね」
「そう?」
「なんて言ったらわからないけど、人生に満足してるっていうか、そんな顔してる」
人の死に顔を見る興奮を覚えたわたしは確かに充実感でいっぱいだ。
「美香、これからもっと遊ぼうよ! 来年は中学生になるし。そういえば部活とか入る?」
「さおりんはもう中学生になったときのこと考えてるの?」
「なんか少し大人になるって感じじゃん! 友達も増えそうだし、部活も陸上部にしようかなって思ってるんだ。それに彼氏とかできちゃうかも!」
さおりんは決して訪れることのない中学生になったときのこと考えて、嬉しそうに笑う。
ダメだ。さおりんの死に顔を想像しただけで興奮しちゃう。
わたし今きっと、満面の笑みで嗤っているんだろうな。
「美香? ねぇ、わたし美香のその顔ちょっと怖いんだよ。前にスプラッター映画見てたとき、そういう顔するから美香のことちょっと嫌になったの。でもやっぱり友達だからまた仲良くなりたかったんだよ!」
さおりんは泣き出しそうになって叫ぶ。
「さおりんは中学生になれないよ」
わたしはポケットからナイフを取り出した。
「美香、なにそれ?」
さおりんは驚愕する。
「わたし、さおりんの死に顔が見たいの」
さおりんは大慌てで逃げようとするが、廃ビルの足元は瓦礫でいっぱい。
足が瓦礫に引っかかり転倒する。
「美香! 美香、やめて、どうしちゃったの!?」
さおりんは涙を流し、鼻水を流し、助けてと懇願している。
これ、これ! これ! これ!!!
この顔、堪らない! 死の間際に必死に懇願する姿。
「さおりん、バイバイ」
わたしはさおりんの胸に思いっきりナイフを突き刺す。
「美香……」
さおりんは苦痛にもがき苦しみ狂ったよう暴れる。
さおりんもこんな風になるんだ。
やがてさおりんの動きがゆっくりとなり、最後の瞬間の顔を見る。
やっぱ。これがさおりんの死に顔。
そしてさおりんの命が消えた瞬間、目から光が無くなる。
「アハハハ、キャハハハハ!!!」
わたしは友達を殺した。友達が死ぬ瞬間を見た。
さっきまで中学生になったときの夢を語っていたさおりん。
それがもう実現しない。さおりんの人生は今終わった。
ねぇさおりん、どこに行っちゃったの?
わたしはさおりんと二度とお話できないの?
興奮のあまり、わたしは奇声を発し続けている。
すると突然背後から
「お前これで10人目だな。すげーな」
声が聞こえた。
わたしは我に返り
「誰!?」
と振り向く、男が立っていた。
黒尽くめでサングラスをしている。ヤクザ風の男。いや、ヤクザよりもっとヤバそうな奴。まるで殺し屋。
「今までは大人の男だけだったのに、友達を殺るとはね。恐ろしいガキだ」
「なんで知ってるの?」
わたしが今まで殺してきた人たちを知っているようだった。
「この廃ビルは俺が殺しで使ってる現場だからだ。まさか他の奴にも使われるとはね」
男はわざと大きいため息をつく。
「わたしを殺すの?」
わたしはナイフを握りしめる。
「なんで俺がお前を殺すんだ?」
「だって殺し屋なんでしょ?」
「おいおい映画かなんかの見すぎか? 殺し屋だからって見境なく人を殺したりはしねーよ。そもそも殺し屋はビジネスだ。金を支払う依頼人がいなければやらねーよ。まぁ人を殺すのは楽しいがね」
男は不敵に笑う。
「むしろ俺の方が殺される可能性が高いんじゃないか? お前は趣味で殺しやってんだろ。恐ろしい恐ろしい」
男はおどける。
「警察に通報する?」
これまで捕まらないようにこの廃ビルにターゲットを運んで殺してきた。ここで発覚されたらわたしは間違いなく少年院に送られるだろう。
「おめでたい奴だな。まさか今までの犯行が警察にバレてないとでも思ってるのか?」
「どういうこと?」
「証拠を残しすぎなんだよ。まず死体の処理は今までどうしてた?」
言われて初めて気づいた。そういえば私は死体の処理をしていなかった。
殺して相手の死ぬの瞬間の顔を見て興奮して、気づいたら家に帰っていた。
そんなことの繰り返しだった。
「俺らが処分してたんだよ。お前が殺した奴は事故、自殺扱いにした。俺らが処理してなかったら、死んだ奴らの家族、知り合いがとっくに捜査願いを出して、街中の防犯カメラを調べてお前と一緒にいるところを発見している」
そんなこと考えもしなかった。
「だから警察にはバレていない。俺らに感謝するんだな」
本当に心の中から感謝していた。
「俺らって他に仲間がいるの?」
「あぁ。俺の他に青年と爺さんだ。三人でチームで殺しをやっている。そこでお前に提案なんだが」
男がサングラスを外して、わたしの目を見て言った。
「お前も俺のチームに入れ」
男はニヤっと笑う。
「意味わからないです」
突然の提案に戸惑う。
「お前もう普通の生活に戻れないだろ。さすがに小学生が死んだとなったら俺らでも事故や自殺で隠蔽はできない。行方不明扱いには出来るがな」
男の言う通り、さおりんが殺されたとなったら学校はもちろん世間のニュースになるだろう。そして徹底的に調べられ、警察はわたしに行き着くだろう。
「友達もお前も行方不明扱いにしてやる。その代わり、俺のチームに入れ」
男は再びわたしを勧誘する。
「なんでわたしを殺し屋に入れたがるの?」
「お前が気に入ったからだ。この廃ビルで度々死体が見つかったとき、俺は許せなかった。俺の縄張りを穢された気分でね。同業者かと思ったがやり口からみて、どう考えてもド素人の犯行。そして張り込んでみたら、まさか小学生が殺しをやってやがった。そして10人殺したら、スカウトしようと決めて、今日声を掛けたんだ」
「わたしは何をするの」
「そうだな。むしろお前は何をしたい?」
「人の死を見たい」
「ククク、良い答えだ。でもお前、殺しはもう止めておけ。あと数人殺してみろ。お前の人格ぶっ壊れるぜ。お前は人の死を見るのが好きなのであって、殺すこと自体には抵抗あるだろ?」
その通りだった。ナイフを相手に突き刺す瞬間、興奮と同時に抵抗感もあった。
わたしは純粋に人の死の瞬間、それだけが見れたら満足だ。
「殺しは俺がやる。お前は見てるだけで良い。その代わり、女を磨け。お前はハニートラップ要員に育て上げる」
「ハニートラップって?」
聞き慣れない言葉だった。
「女の色香を使って、男を落とす。今までお前がやってきたことだ。まぁお前はまだ小学生だ。ロリコン野郎しか釣れなかったみたいだがな」
男はクククと笑う。
「お前は成長すれば間違いなく良い女になる。それを武器にしろ。そして影響力を身に着けろ。これからの時代、それが必要だ」
「……もう殺し屋チーム入るしか道はないんでしょ? 家にも帰れないし」
「契約成立だな。安心しろ。お前の生活の面倒は全部見てやる。小学校は転校させるが中学、高校、大学にも行かせてやる」
わたしとさおりんは行方不明扱いになった。
女子児童二人が同時に行方不明になったので世間で話題になったが、やがて忘れられた。
こうしてわたしは殺し屋チーム<午前零時の案内人>に加入した。
黒尽くめのサングラスの男はボス。
ボスが何者なのか、経歴はどうなのか、一切不明。
ボスの隣という特等席で人の死を見続けられればわたしは満足だ。
他のチームメンバーはダークと剣三。
ダークはわたしより10歳くらい年上。最近まで刑務所に入っていたらしいけど、コンピュータに詳しくてボスにスカウトされた。わたしの戸籍など法律上の難しいことはダークが全て役所のシステムに侵入して書き換えてくれた。
剣三はお爺さん。わたしがやってきた殺人の後始末は剣三さんがやってくれていたみたい。殺し屋の世界ではとても有名な人。
そしてわたしはmikaと名乗ることにした。
ボスから言われて女を磨いた。
ボスから言われて影響力を身に着けた。
今では女子大生インフルエンサーとしてSNSのフォロワーは1000万人を超えた。
◯
「mikaです。読書会は初めてなので緊張しています。よろしくお願いします」
今日は文学サロンでの読書会。
初めてmikaさんという方が参加した。
「あ、あ、やっぱり! mikaさんだ! あのmikaさんですよね!?」
リリーが興奮している。
「あのって?」
J会長は何も知らないようで尋ねる。
「J会長はネットをやっていないんですか!? 女子大生インフルエンサーとして超有名なmikaさんですよ! お姉さまは知ってますよね?」
「もちろん。mikaさんとは同じ大学だわ」
エラリーはさらっと答える。
「えぇ!? お姉さまそうだったんですか!? 早く言ってくださいよ! わたしがmikaさんファンなの知っていますよね!?」
「同じ大学なだけで、親しい関係ではなかったから」
「わたしが使っているコスメ、mikaさんのおすすめばっかりなんですよ! mikaさんはそんじょそこらのインフルエンサーじゃないんです。まず案件なんて絶対やりません。自称インフルエンサーの案件なんてただの営業じゃないですか。そんなのを影響者と呼べますか? mikaさんの【mikaの日常】チャンネルは良いものは良い、悪いものは悪いとハッキリ言ってくれるのが魅力的なんです。企業におもねることなく、レビューしてくれるので信頼性抜群なんです。レビュー動画以外でもmikaさんの日常が魅力的で全女子の憧れなんですよ!」
リリーは熱弁している。
「リリーさん、そう言っていただけると嬉しいですけど、今日はわたし読書会に参加しに来たんです。本の話をしてみたくて」
mikaは申し訳無さそうに言う。
「mikaさんすみません! わたしテンション上がっちゃって。本当に大ファンで、ってそういう話は懇親会のときにしましょうか!」
リリーは大人しくなるも、ウズウズしてるようである。
「九院さんですよね? 大学で度々お見かけします。お話して見たかったので、こういう場で出会えてとても嬉しいです」
mikaはエラリーに言う。
「mikaさんが本が好きだったなんで意外でした。って言ったら失礼ですよね。わたしもmikaさんと本の話ができるの楽しみです」
エラリーも丁寧に返す。
◯
次のターゲットは九院偉理衣。
ボスからの司令でわたしはターゲットに接触することになった。
九院偉理衣は偶然にも同じ大学であった。
今まで認識したことはなかったけど、探偵をやっていて格闘技が強い子がいるという話は知っていた。それが九院偉理衣だったとは。
初めて見た感想は知的で美人。
【大学の同級生をコーデしてみた!】
っていう動画を作ったらめちゃくちゃバズりそう。
出演してくれないかな。
でもダメだ、もう興奮しちゃう。
九院偉理衣、あなたは死ぬ瞬間、どんな顔をするの?