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juvenile-juvenile!!

Jubillie+1



 ロータリーを少し歩いた先、テナントビル地下一階のレコード屋。微妙に電波の入りにくい店内の、レジ奥の試聴機がいつもの集合場所だった。

おぉい、と声をかけるが相手は眉間に皺を寄せたまま、CD裏面のクレジットを睨んでいる。

肩を(はた)いて到着を知らせると、やっと気が付いたようで、低い位置にある頭がこっちを向く。試聴用の大きなイヤホンがやたら重たげだ。

「……読めない」

むすっとした声。

「眼鏡、すりゃいいじゃん」

野暮ったい縁の眼鏡がTシャツの襟首に引っ掛けてある。学生時代からそうであったように、汗で滑って使い辛いのだろう。それか前髪を切れ、と言いたいが目元をすっかり隠してしまう長い前髪は彼にとって人前に出るための武器の一つなのだ。

そうじゃなくて、と唇を尖らせる。

「これ、なんて読むんだろ」

何処、と十五センチ四方の紙面を見やる。

ここ、と細くて硬い指先がクレジットの最後尾を示す。

複数の言語とローマ数字の組み合わせで示された、名前のようなもの。うろ覚えの知識を引っ張り出して、読む。

ア、キシィ……。

「なんか聞きやすいなって思ったんだよね」

ヘッドホンをこちらへ向けてくる。

……聞きやすい。

ギター二本と、ピアノとドラムと、ビオラだろうか。ロックに珍しい編成だが、音の粒が一つずつ、それぞれに際立つ。なのに、ちゃんと一緒に演奏している距離感で聞こえる。

そうだな、と答えるとぱっと満面の笑みが浮かぶ。

「後、これとかも気になってて、こっちも!」

飛び出していったかと思うと、両手に宝物のようにCDを持って戻ってくる。靴音が鳴る。それさえも一つの音楽のようで、つい固唾を呑んで聞いてしまう自分がいる。

さすがにくるくると回りながら歌いだしたときには止めに入った。

「こら、お前もうプロなんだから勝手に歌うんじゃねえ!」

CDを握ったまま、思わず叫ぶ。

 ああ、親父。

昔同じこと言われてたな。



【11歳のJUNK】

 帰ったら、親父がいた。

「おお、息子」

 驚いたのは親父も同じだったらしく、もさっと呟く。

母親は仕事で、妹はまだ学童だ。

おかえり、も、ただいま、もなく、台所の椅子に座る。一つだけ雑多に物が積み上げられた椅子の上から携帯ゲーム機を取り上げる。

親父はソファーに何をするでもなく座っている。

途中、立ち上がって米を研ぎ、炊飯器のスイッチを入れ、カーテンを閉める。

干した洗濯物をソファーの上に放り投げてゲームに戻ると、入れ替わりに親父が立ち上がった。

「どこか、出掛けるか?」

正直ゲームを続けても何の問題もなかったのだが、魔が差したのかもしれない。

しばらく車は市内をうろうろしていたが、やがて郊外のモールに辿り着いた。

正直あまり買い物は好きじゃない。いつも母親に付き合っているからだ。

けれど。

「あれ、どうしたんですか。今日、レッスンなかったでしょ?」

着いたのは普段用事のないカルチャーエリア―――楽器屋だった。

いやあ、ちょっと。といいですかね、奥借りて。もごもご呟いた親父に連れてこられたのは、ドラムコーナー。

ちょっと座ってみろ、お前とんかつ好きだよな、とんかつ、のリズムで真ん中の太鼓叩いてみろ。お、そうだそうだ。リズムキープがリズム隊の要だからな。いつもとんかつ、とんかつ、だぞ。そうだそうだ、うまいぞ。才能がある。さすが俺の息子だ。今度はとんかつ、のつの音の時にこっちのシンバルも叩け。同時にだぞ。ゆっくりやってみるぞ、と、ん、か、つ、と、ん、か、つ、ほら違う、ちょっと遅れた。そうだ、そうだ、いいぞ。

 「おやー、息子君上手ですね」

さっきの店員さんがやってきて、売り物のドラムで時間を潰す二人を褒めてくれる。

親父はにやりと笑うと、オレをその場からひょいと引き上げた。

わ、と思わず声を上げる。縦にも横にもクラスではかなり大きい方なのに動き一つでぽん、と床に降ろされてしまう。オレの代わりに椅子に座った親父は、クルリと一度借り物のスティックをまわし

たあん!とドラムを打った。

脳みその中をダルマ落としされたみたいだった。すっこーんと音が前から後ろへ抜けていく。

足元の床が振動する。地震みたいに。

そう言えば、音は振動だ、と理科で習った。

それに比べたら、さっきの俺の音なんて、全然何にも震わせてない。足の裏がさざ波のように揺れ続ける感覚に、無意識に、さっきの手の動きを繰り返す。

 後年、

『子供達だけだったら私が面倒を見られるけれど、あなたの分まで面倒を見る余裕はないから、出て行って。』

そう言って家を追い出されてしまう親父だったけれど。

俺が中学生になって、ブラスバンド部を、パーカッションを選んだ時に、母親は「血は争えない」と笑ったけれど、止める事はなかった。何のかんの言っても、母親も親父の才能を、愛していたのかもしれない。

 たん、たん、たん、たん、たん!とこの上なくクリーンで強い音がモール内に響いて、脳みその中のもやもやがまとめて後ろへ抜けていく。

すっげーと、思わず俺が呟いたのを、親父は聞き逃さなかった。

「いいもん見せてやろう」

 すっかり興に乗った親父は、オレと店員さんを引き連れて店内を縦横無尽に駆け回った。

「もー、一応プロなんですからー」と苦言を呈する店員さんを尻目に十の太い指を慎重にキーボードに乗せて流行りの歌を弾き、アコースティックギターを取り上げてはジャジーなインスタントレーションを披露する。ハーモニカを取り上げて「さすがにこれはやめとくか」と元に戻す。

そうやってほぼ店内を一周して、最後に辿り着いたのは書籍コーナー。親父はその辺にあったソファーにどっかり腰を下ろしぽんぽんと自分の太腿を叩いた。

「絵本を読んでやろう」



 『王様と魔法のばち』


むかしむかしある所に王様がいた。

まだ子どもの王様だ。

王様魔法のバチを持っていた。

叩くとリズムの変わる不思議なバチだ。


王様には臣下がひとり。

じいやがいた。

じいやは魔法のマレットを持っていた。

王様が動かしたリズムを元に戻せる不思議なマレット。


とんとんとんとん

じいやと執務中の王様。

王様砂時計に目をつけた。

さらさらさらー

さーらーさーらーさーらー

きゅうけいじかんがのびていく。

ぐうぅ……。

「王様!寝てばかりいてはなりませぬ!」

じいやの時計はいつも正確。


とんとんとんとんとんとん

王様流れ星に目をつけた。

すいーっと夜空を流れるおおきな星に

まちのひともむらのひとも旅人も

猫もいぬも馬も

戦争をしている人らも動きをとめた。

みんなで夜空を見上げたんだ。

そして気付いた。

隣にいるのは友だちだった。


とんとっとんとんとんとん

王様オーブンに目をつけた。

ケーキを焼いてる厨房のオーブン。

チクタクチクタクチクタクチクチクチクチク

ケーキは生焼け

残念王様


とんとんっとっととーんと………とー

王様雨粒に目をつけた

ぴちょんぴちょんぴちょんぽつぽつぽつぽつさああああああっ

「王様何をなさるのです。こんなに雨を降らせては」

雨の中バチをふり回して王様は踊る。

じいやは走って迎えに行く。

「今だじいや!雨を止めてくれ!!」

じいや魔法のマレットをひと振り。

雨はすうっと上がってく。

雲が切れて太陽が見えて

そこにかかったのは大きな声で虹

「じいやみんな見えただろうか。かの者らは虹の橋を渡れただろうか」

じいやは黙って王様の後ろに立っていた。

二人並んで風邪引いた。


とーんとーんとーとー…….とーとっととーん

王様桜の花びらに目をつけた。

ひらひら降りる桜の花びら

動きをゆっくりゆっくりに

落ちることなく、ずっと二人の前をただよっている

王様、車いすの後ろから、じいやに声をかける。

「なあじいやこれなら見えるか?満開の桜だぞ」


ガラッバタンッ


とーんとーんとーとー


王様気付いた

じいやの心臓の音が自分と違う事に

正常ではない事に


「じいやじいや今待っていろ」


王様じいやを抱えて走り出す。

もう子どもでない大人の王様と

ずっとじいやのままのじいやと


お城へ帰り着いた王様はさっそく魔法のバチを引っ張り出す。

じいやの胸にバチをあて


とんとんとんとんとんとんとん


ゆっくり目を開けたじいや


「じいや、じいや。もう大丈夫だ。魔法のバチが治してくれた」

「王様それはなりませぬ」


じいやは魔法のマレットをそっと差し出し


「とまらないでうごくものはいつかとまってしまうもの」

「なら今じゃなくてもいいだろう。じいやじゃなくてもいいだろう?」

「いいえ、じいやはそれを望みませぬ。どうか叶うならこのマレットを私の胸にお置きください。じいやはあなたにそうしてほしい」

王様はじいやの手から魔法のマレットを受け取った。

「あなたがうごきつづけるかぎり、じいやもまたとまらないでうごきつづけますぞ」

最後にあなたと話ができてよかった。

じいやはそうっと目を瞑った。

王様は優しく優しくじいやの胸にマレットを下ろした。

ふたりっきりの王国の

たったひとりの臣下の胸を


とん


とんとん………とん………と、とん………とん、とー…….……


王様は魔法のバチとマレットを持っている。

とんとんとんとんとんとん



Jubillie+2



 「賑やかやの」

いつもの待ち合わせ場所にはもう二人が来ていて、遅刻した訳でもないのに少しバツが悪い。

「あ!」

嬉しそうに駆け寄ってくる。

「あのね、すごいの!すごいことに気づいたの!こっち!」

ぐいっと腕を引っ張られて、思わずたたらを踏んだ。ぴっと一度痛みが走る。

顔を顰めたのに気づいたのだろう。ごめん、と甲高く叫んだ。細い面は既に蒼白だ。

「痛いよね?腕抜けた?」

「いや、だんねえ。びっくりしただけ」

ほれ、とグーパーしてみる。大げさだなあと呟くと、

「大げさじゃないよ!俺の大事なベーシストの腕だよ!」

「そうだよ。腕は大切にしなきゃ駄目だろ」

フロントマンとリズム隊の相方に言われて悪い気はしなかった。

「ありがと、ほやけどだんねえ。ロボットでねえでこれくらいじゃ腕抜けんよ」



【9才のjuxtapose】



 何か忘れてる、と思ったら妹が熱を出して寝ていることを忘れていた。

あまり入らないようにねと言われていた子供部屋に妹が一人で横になっている。

お兄ちゃん、といつもより聞き取れない声で呼ぶ。

冷えピタを貼ったおでこの温度は分からなくて、ほっぺたに触ってみる。びっくりするほど熱いという事もないけどやっぱり熱い。

「……おなかすいた」

「なんやおなかがすいたのか」

でも、何を食べさせていいのかわからない。ふと、自分がおやつのプリンを持ったままだったことを思い出した。

自分が熱を出した時も食べていたので、食べても大丈夫だろう。ただ妹の方が体が小さいので、全部食べてよいのかわからない。

なにより、これは自分のおやつなのだ。半分こくらいが妥当なところだろう。

「ほら、起きろ」

両手を掴んで引っ張り起こそうとしたら、痛い、と泣かれた。

「あー、ごめんごめん兄ちゃん間違うた。腕、抜けてえんか?」

ぐすっと妹が頷く。今度は畳に腰を下ろして、そうッと背中に手を入れた。先に半分食べて貰って、後でゆっくり自分が食べよう。そう思ったけど、風邪ひきだったことをまた思い出した。

「ちょっこし、ちょっこし待ってな」

急いで半分より少ないくらいプリンを食べて、残りを押し付ける。

飲み込むの最優先で、味がよくわからなかったけれどまあ仕方ない。

残ったプリンをそうっと口に運んだ妹は

 「わたしも、お兄ちゃんの役に立ちたいのに」

それはよく、最近母さんが口にしている言葉だ。

―――「今なら、私先生のお役に立てると思うの。ずっとお世話になってきたから、役に立ちたいの」

―――「ちょうど学校行事もないから、少し私がいなくても大丈夫だと思う。みっくんは学校があるからこっちに残って、るぅは申し訳ないけど、私が連れていくね」

母さんが先生と呼ぶのは、おばあちゃん。父さんのお母さん。もともと母さんはおばあちゃんのお教室の生徒だったんだって。そのおばあちゃんが怪我をしてしまって。命にベツジョ―はないけれど、暫くは向こうの親せきが色々家の事を手伝っていて。

「私ほら、結構役に立つでしょ?教室のお手伝いはさすがにできないけどね」

それで、妹と一緒に暫く福井へ行くことにしたのだ。

「わたしは誰の役にも立てないのかなあ」

枕もとのリュックサックはぱんぱんで、ゲンセンされたぬいぐるみが二匹その隣のポーチに収まってる。

「そんなことないですよ。ペコラとお兄ちゃんの役にこれから立ってもらいまーす」

ちょっと恥ずかしかったけど、女の子の声真似をしてみた。

これから?と首を傾けるので

「そう。お兄ちゃんの音読の課題を母さんの代わりに聞いてもらいます」


『星釘堂縁起絵巻』



 むかしむかし羊飼いの谷に仲の良い兄妹がいました。

踊ることが大好きな兄と兄のことが大好きで手先の器用な妹でした。

谷にはしばし嵐が訪れます。

「じいさん手伝いに来たよ!」

兄妹も羊飼いの手伝いに走ります。

洞窟の中に羊達を追い立てて嵐の夜を共に過ごすのです。

羊の群れの中は藁のベッドより温かく

空気の入れ替えがわかるようにカンテラで照らされています。

「助かったよ!ありがとうな」

羊飼いは自分の水筒からお茶を入れてくれました。

どうやら空気の通りも良いようで、用を済ませたカンテラがふうっと表に出されます。これは明日もし三人が戻らなければ探し出すための手がかりとなるのです。

そろそろ寝もうかとなった時

「兄さん、私帰る!!」

嵐の中妹の方が急に泣き出しました。

「どうしたんだよ。なにも不安な事なんてないだろう?」

だって、と妹がしゃくり上げます。

「ここは暗いんだもの」

暗い?と羊飼いと兄は顔を見合わせました。

「お前夜に出かけるのだって怖がらないだろ?今日だって」

二人で今にも月を隠してしまいそうな(あらし)(ぐも)の中を必死にかけてきたのです。

「だってここには星も月もないんだもの」

だから怖い。帰りたい。

兄のしがみつきしゃくりながらいつしか妹は眠ってしまいました。


 嵐の過ぎ去ってある日のこと。

谷の狭間のバザールに兄がやってきました。

彼は釘を一袋買い求めました。

不思議に思った店主は彼に尋ねます。

にかっと鳶色の瞳で笑って彼は

「星を作るのさ」


 再び嵐の晩。

妹を連れて兄は羊飼いの洞窟へと急ぎます。

こわごわと洞窟の中に足を踏み入れた妹の顔が、ぱっと輝きます。

「錨星……!それに鍵星も!」

それは洞窟の壁面に釘で描かれた星座でした。

兄の手に導かれ、妹は洞窟の奥深くまで、足を踏み入れる事が出来ました。


 その夜の嵐はこの年一番の大嵐でしたが、洞窟の奥深くで、手作りの星灯りに包まれて眠る兄妹には何の影響もないことでした。


 時は流れ、谷の狭間のバザールは滅び、羊飼いの谷は大国に制圧され、妹は儚くなりました。唯一生き延びた兄は波乱の生涯を歩む事となります。今はその大国もなくなり、兄の子孫にももはや大昔の物語を知るものはありません。

 けれど、釘を売った店の店主が兄の生涯の事を知り、このあらしの夜の出来事の事を屋号にして店を営み続けました。

 そして、その屋号を由来事引き受けた店が、今もこの世界の何処かでひっそりと営まれているかもしれません。


Jubillie+3



 「んー、んん?」

耳の中にある物語に集中していたら、いつの間にか集合時間を少し過ぎていたらしい。

顔を上げるといつの間にか三人が並んでこちらを見ていた。

他の人に迷惑が掛からないようにぎゅっと身を寄せ合っているのが少し可笑しくて思わず笑い声が漏れた。

 なんだよ、何、どうしたの。

三者三様の問いかけが昔の儘で。

 でも、それはいつの昔の事だろう。

初めて今の事務所の人達と会った、河川敷のライブハウスの事務室?

始業前の中学校の教室?

 ううん、もっと前。


【6才のjailbreak】



 きょうはじゅうにがつじゅうごにち。たんじょうびのまえのひにひとはとしをとるんだって。

だからきょうおれはろくさいになったんだ。

ろくさいになったということは、いよいよあれのけっこうのひだ。

まあくんまあくんとあかぎぐみをみにいくとまあくんはちょうどえほんをかえしにいったところだという。としょしつへいくとまあくんと

「みっくん!」

まあくんもみっくんもおれよりさきにろくさいになったから。おれよりちょっとおおきい。

こっちゃん、とまあくんがよぶのでしー、しー、としずかにしてもらった。

「おれ、きょうろくさいになったんだ!」

おおー、とふたりがはくしゅしてくれた。

「だからまあくん、きょうあれをやろう!」

やくそく!やくそく!とゆびきりをして、それでみっくんがいたことをおもいだした。

「みっくんも、いっしょにいく?」

「うん、いいよ」

みっくんもなかまにはいって、あとひとり。

ぎゅっとてをつないでもくてきちまであるいていく。


 「それで、おれにもなかまにくわわってほしいの?」

いぶきぐみのあっくんはいちばんおたんじょうびがはやいんだって。

「だから、ろくさいのエキスパートとしてなかまにくわわってほしい……」

わかった、とあっくんはうなずいて。

「で、なにをするんだ?」


 このあいだバスにのったら、ろくさいからしょうにりょうきんってかいてあったんだ。

ママにいみをきいたら、ろくさいになったらおかねをはらってバスにのるのよ。こうちゃんはごさいだから、ママといっしょにのればおかねはかからないのよ、って。

「んじゃ、ろくさいになったらひとりでバスれるね!」

まあ、そういうことにはなるわねとママはしんみょうなかおでこたえた。

さよならしたあといつもあそぶこうえんで。


 「いま、かあしゃんたちるぅのおむつかえにじどうかんいったよ」

せのたかいみっくんがスパイになって

バスだいのごじゅうえんだまよっつはおれのポッケのなか。

 ぬきあしさしあしこうえんをでて、すぐまえでとまるバスにならんだ。

 「おや、きょうはきみだけかい?」

「ろくさいですんで」

りょうきんをはこにいれるのはいちばんでっかいあっくんのやくめ。さいごにまあくんがうしろをかくにんして。

となりのおばあちゃんをけっとばさないようにぎゅっとつめていすにすわる。

「あれ、まあくんそれもってきたんだ」

うん、とまあくんはてさげからえほんをとりだした。




『ウネ・メデ』



あるひ、ひつじのぺこら、だれかがこまっているのをみつけたよ。

こんにちは、うさぎさん。

うさぎさん、たすけてほしそう。

あなのなかに、ぼーるがおちてしまったんだって。

もしもし、とどきますか?

はい、とどきますよ。

ねずみさん、あなのなからぼーるをもってきてくれたよ。

もしもし、とどきますか。

ねずみさん、たすけてほしそう。

はい、とどきますよ。

きりんさん、きのてっぺんからふうせんをもってきてくれたよ。

もしもし、とどきますか。

きりんさん、たすけてほしそう。

はい、とどきますよ。

かめさん、みずのそこからかっぷをもってきてくれたよ。

もしもし、とどきますか。

かめさん、たすけてほしそう。

はい、とどきますよ。

うさぎさん、こえをききつけてやってきてくれたよ。

こんばんは、かめさん。

かめさんはうさぎさんにいったよ。

うさぎさん、ぺこらちゃんのところにいってあげて。

わたしのあしはおそくって、このよるのおわりにまにあわないから。

だからうさぎさん、ぺこらちゃんのおうちにいったのさ。

あかいほっぺになみだのあと。

ひとりでうずくまってたぺこらちゃんのもとへ。

ぺこらちゃんはびっくりしたよ。

どうしてないてるのがわかったのって。

うさぎさんはこたえたよ。

ぺこらちゃんがわたしのこえにきがついてくれたから。

わたしもぺこらちゃんのこえにきがついたよ。


そうしてふたりはいっしょにひとばんをすごす。

ぬっくぬくになって、もうさみしくなんてない。


こんどはあなたのところへいくからね

たすけてほしいって

たすけてあげるっていくから

よんでほしいんだ

ウネ・メデ



 たのしかったねえ、たのしかったねえとはなしているうちにあっくんがきょろきょろしはじめた。

「おい、ここどこだ?」

ええ?どこって

「うんてんしゅさん、ここどこですか?」

うんてんしゅさんは

「―――じゅ、か――です。だいじょうぶ、すわっていてください」

「じゅかい……?」

みっくんがつぶやいた。

じゅかい、じゅかいっててれびできいたことがある。なにかすごいこわいことがおこるところだ。

あっくんのてをぎゅっとにぎる。みっくんが「おれもおれも」とてをつなぎたがって「じゃあぼくも」ってまあくんもえほんをしまう。よにんでいっぴきのどうぶつになったみたいにおなじほうこうにカタンとゆれて、ブレーキをふむとはんたいがわにカッターン。

バスのなか、おれたちはころげおちないようにたがいにつかまりあう。

「つぎはひなたみちいっちょうめ」

「つぎはさやかのだんち」

「つぎはあかねがはら」


 うんてんしゅさんのアナウンスはふつうのしゃべりかたとちがってなんだかマシンみたい。

しらないおととしらないしゃべりかたが、だんだんまねるとおもしろくなってくる。

「ぺこら」

「とんかつ」

「えほん」

「みどり」

「おうた」

「いしけり」

「とまと」

「ゆきだるま」

まねっこしながら、すきなものをじゅんばんにいいあってたら

「つぎはひかりだいにこうえん、つぎはひかりだいにこうえん」


 えー!こうえんだー!


 こうえんにつくとそこには

「あき!」

めったにみかけないあっくんのパパも

「まあや!」

まあくんのおにいちゃんと、まだうまれたばかりのおとうとと、おかさん。

「たかみち!」

るぅちゃんをつれたみっくんのおかあさん。

それに

「こう!」

じいじとママ。


 「どうしてバスにのったの?」

いつものうんてんしゅさんがおこさんたちがバスにのりこんじゃったので、いっしゅうぐるっとまわってつれてかえります。ってすぐにおしえてくれたんだって。

だからママたちはここでかえりをまっててくれて。

「どうして、って」

どうして、どうしてって。

ただのってみたかった。ろくさいになったらひとりでのれるから。ろくさいにはやくなりたくて。ただ、それだけだったんだ。

 どうして、のさきがのどにつっかかって、きがついたらなみだがぽろり。うぇーとこえがでた。

 みっくんがおそらをみてないていて、まあくんがしたをむいてくしゃくしゃかおをこすってる。おれはなかないぞってあっくんがりょうてをぎゅっとにぎってて。

「なかないでよう」

さんにんのところへかけよると、ぐっとてをつかまえられた。バスのなかみたいによにんでてをつないで。

ごめんなさいー!!のさいごはだいがっしょう。

もう、と。ママたちはかおをみあわせていた。

「よにんだと、なんでもできちゃうのね」



Jubillie+4



 「何でもない。四人なら何でもできるって、そう思っただけ」

そう言って真央(まお)は少し笑った。

「ほんとだよなあ」

(あき)(よし)がしみじみと、試聴機の上のパネルを見上げる。

「いつも思うんだけど、自分達のパネルの下で待ち合わせってちょっと変じゃね?」

なあ?と恭慶(たかみち)が隣にある低い肩にしなだれかかり

「んーそうかな?見間違えないし、いいんじゃないかと思うけど」

(こう)(すけ)はあまり目の良くない航輔らしい言い分を披露する。

メジャーデビューおめでとう!と手書きのポップがつけられた特製のパネル。

もう数年前のものなのに、サインが入っているからと新旧織り交ぜて飾り続けてくれている。

 この頃より航輔はこの頃より少しだけ優しい目で世界を見るようになり、他人にSOSを出して助けて貰う事を覚えて

 晃吉は自分の意見を言う事を躊躇わなくなった。

 恭慶は皆に音楽が上手になったと褒められて

 真央は少しだけふにゃッとした顔で笑った写真が増えた。


【12歳のjewel】



 今年の桜は葉桜一歩手前。必死に枝にしがみ付いているみたいだ。

兄のお下がりの制服に、同じ小学校の子どもがそっくり移る中学校。

誰かがなぞった道の上を、佇むことも立ち止まることもなく進んでいく。

少しだけ優しくて、少しだけ憂鬱で、少しだけ退屈なそんな日々のはじまり。

 その中に、声が聞こえた。

誰かが歌う声。

呼ぶように、歌う声。

さっき習ったばかりの校歌。

「これが歌えなかったら光中生とは認められないぞ」と先生たちが脅すから、大きな声を張り上げて歌ったばかりだった。

努力するとか、協力し合うとか、そんな前向きフレーズがなんだろう、きらめく……?

何かの、予兆のような響きを伴って、広い校庭へと広がっていく。

それは誰に向けて放たれたのでもなく、ただ歌いたくて歌ったのだろう。

きらきら、キラキラ、楽し気な気配が満ち満ちている。

「まあくん?」

その声の主は、懐かしい呼び声で僕を呼んだんだ。

こうちゃん、と呼びかけると

「なんかちょっと、恥ずかしいかもそれ」

「そっか。じゃあ柳?航輔?」

「航輔がいい。そっちは、真央って呼んでいい?」

「うん」

航輔、真央と呼び合うと、それも何だか気恥ずかしくて

「やっぱりこうちゃんって呼んじゃうかも」

「まあ、それもそれで」

「誰かもう会った?」

「ううん、でもけっこうあかり幼稚園の子もいるみたい」

「そっか。誰か会えるといいな」

気の早い部活見学か。校舎の上の方の階から太鼓の音が聞こえてくる。

太鼓だね、と呟いた航輔が振り返って目を細めた。

(さくら)(しべ)だ」

指差した先に桜の花びらがひらり。全部花びらが落ちたところに、花びらよりずっと赤いものが残っている。

「流れ星か、線香花火みたいだね」

よく見たら、道にもいっぱい赤いものが散っていてまるで絨毯のよう。

背の高い新入生が、妹だろうか。小学生くらいの女の子を抱えて写真を撮っている。新しい制服に、小さな靴の痕が幾つも残っている。彼の口からも、さっき習ったばかりの校歌が漏れているのが、なんだか楽しい。

「ねえ航輔は何かやってみたいことある?」

航輔はちょっとだけ思案顔になって

「わかんない。でも、何か一真央と緒にできたらいいな!」





『つはなをながす』



むかしあるところにいっぴきのオオカミがいた。

さみしがりで甘えん坊のくせに

いじっぱりで引きこもりのオオカミだ。


オオカミは石をつなげてアクセサリーを作った。

糸を染めた。

毛布を編んだ。

パンを焼いた。

生クリームを泡立てた。

ケーキを作った。

団子をこねた。


ぜんぶひとりで。


ある日いっぴきのキツネがやってきた。

ふわふわのチガヤのような銀色の長い尻尾

美味しそうに焦げた色の背中をした

赤い毛並みのキツネだ。


キツネはオオカミの声をかけた。


一緒にお店を開きましょう。

夜にだけ開くお店なら来られる人もいるでしょう。

夜にだけ開くお店ならあなたも怖くないでしょう。


素敵ね

それいいね

そうしましょう


キツネはオオカミに辛抱強く声をかけた。


オオカミが迷う時はキツネの毛並みを目印に

ケーキを焼いて

お菓子を焼いた


森の木々の間にガーランドを吊るし

手作りの看板にメニュー表

星と月の灯りを目印に


さあさあとチガヤが揺れる

穂が銀色に揺れる

星の軌跡のように


一体どこにいたのだろう

みんなが姿を現した


特製生クリームの苺サンド

堅焼きのむかし懐かしプリン

チーズと胡椒のほろほろクッキー

お酒入りのクリームソーダ

星流し

白玉しらっぷ

くだものたっぷりの果実酒


楽しいねえ

美味しいねえ


吹き渡る風は柔らかく

どこかちょっぴり雨の匂い


良かったねえ

嬉しいねえ


みんなの声と笑顔で

まるで流星群の中にいるみたい

こういうのが、好きだったんだなあ。


楽しいねえ

いい夜だねえ

キツネがひょんと得意げに尾を振った

泣き虫のオオカミ笑えなくて目を細めた

そうしないと何故だか景色がにじんで見えないから。


楽しいねえ

楽しいねえ


キツネの茅の花のような、長い尾が、南からの風に吹かれてぱたむ、と揺れる。

それは、まるで特大の流れ星のようだった。


Jubillie+encore



 「今日さ、帰りに本屋寄らない?久しぶりになんか読みたくて」

珍しく誘いをかけてきたのは晃吉で。

「普段学校の書籍コーナーだと音楽の本しかないから、ちょっと視界を広げたいかなって」

いいねえと即座に応じたのは恭慶。航輔も特に異論はない様子で

「だったら、図書館どうかな?」

真央の提案に、三人が図書館、と聞き返す。

「ちょっと面白いもの見かけたから、皆に見てもらいたくて」

「いいねえ。中学の時よく行ったよね」

行くか、行こうか、行っちゃおうか。

ライブの最後、アンコールを決める時みたいに四人で顔を見合わせて。

「さあ、その前に、今日は何から弾こうか?」

一番下から航輔がこちらを見上げる。

厚い前髪の奥の瞳が、透明な黒の輝きを湛えて、僕らを引き寄せる。

 そうして今日も、僕らは音楽をしながら生きていく。



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