第1話 春風と共に
―――急に朝日に打たれ、意識が戻る。
目を冷ました時には既にレンガでできた道に立っていた、周りはどこかアニメで見たような店や家が建っていて、鎧やローブを纏った冒険者らしき人たちも見かける。
「ほんとに来たんだ…。異世界に!!」
「うん…!信じられない、夢みたいだね。」
現世で散々言っていた唯斗も実際の景色を見て興奮しているみたいだ。
アニメの中だけだと思っていた世界が目の前にあるのだから。
「見惚れるのはこれくらいにして、そろそろ行こうか。」
「そうだな…えっとどこに行けばいいんだ?」
俺はこう見えてあんまりアニメや漫画を見ないし、見るとしても少年漫画系の作品なので特別に慣れていないのだ…ぴえん。
「まず、世界を救うなら冒険者になるのがRPGの基本だよね。
それなら酒場に行ってみようか、そこで手続きとかこなせれば、冒険者になると思うから。」
流石現実で異世界アニメしか見てなかっただけある。
酒場を探しに歩いているが、周りからの視線が痛い。
俺は私服としてただのパーカー、唯斗はパジャマ、たしかにこの世界では変わった服装かも知れないな。
☆
〜1時間後〜
「ぜんっぜん見つからねえ…。」
街は無駄に広く、かれこれ1時間近く歩いているが、中々酒場が見つからない。
俺はともかく、引きこもりの唯斗はもう汗だくで荒い息遣いだ。おまけに今日は快晴。
春なのに夏くらいの暑さのせいでバテそうだ。
「ちょっと、あの裏路地で休憩しないか?日陰だし…。」
「さっさと行こ…!」
俺が言うと唯斗は即座に反応する、やっぱり疲れていたのか俺の手を掴むと早歩きで日陰のある路地裏に入り込む。
意外にも涼しかったので、しばらく立ったらまた戻ろうと思う。
「それにしても、裏路地なのに店もあるな」
「隠れ家的なカフェみたいなもんでしょ」
「もしかしたら、ここにあったりしてな!」
そう思い俺は路地裏を歩き出す。薄暗くてよく見えないが、謎の安心感によって突き進んでいく。
「怜王、こういうのは慎重に行こうよ。もしかしたらチンピラとかに会うかもしれないじゃん」
「アニメの見すぎなんだよ、そんなピンポイントで会うわけ無いだろ。」
その時、警戒心が薄れていたのか、何者かにぶつかって、尻もちをついてしまう。
「痛ってぇ…、、誰だよ!」
俺はイライラし、ぶつかった本人に愚痴を言おうとしたが、そして上を見上げた時にはその威勢はなくなっていた。
若く細身で何かを殺すような鋭い瞳、銀髪の髪に腰には鋭いナイフがかけられていた…。
「あ?オレがなんだって?」
ギロリと鋭い目つきでこちらを睨んでくる。
「な、ななななんでもああああありありままま」
あまりの強さに言葉が詰まってしまう。当たり前じゃん、ナイフだよ?
目の前にナイフ腰掛けた人がいるんだよ?これでビビらない奴はよほどの戦闘狂だ。
「ゆ、唯斗…!ここは、」
2人でやるぞ!と言う前に唯斗は既に路地裏に置いてあった樽に隠れていた。
…アイツは後で埋めてやる。
俺はいつでも反撃できるように身構えると、その男は手を差し伸べてくれた…。
「大丈夫か?よく前見えて無くてな…悪い」
そう言って心配してくれる男…。その男の手を取り立ち上がる。
「えっと…ありがとうございます…。」
「気にすんな」
そう言ってニヒッと笑う男性。
「見ない顔だが…新入りか?」
「あ、えっと…俺達…。」
「遠くの国からこの街にやってきたんです。」
俺が言葉を詰まらせていると、唯斗が弁解してくれる。
「そうかそうか…、ここに来たってことは冒険者になろうってことか…面白い、
ようこそ始まりの街『ハルカゼ』へ!それで、何かお困りか?」
そう言って男は歓迎してくれる。
「俺達、酒場を探しているんだが見つからなくって…」
そう言うと、男性はかっかっかと笑い。
「この街は広いからわかるぜ、酒場ならこの先を右に曲がったらあるぜ?」
親切に教えてくれ、またなと手を振り去っていく。いい奴だった…人を見た目で判断してしまった。
一生の不覚!!そして隠れたバカ従兄弟に一発制裁を食らわせ、俺達は酒場へと歩き始めた。