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酒好きの男

作者: カワラヒワ
掲載日:2024/06/04

酒好きの男がいた。今日も男は昼間から家で酒を飲んでいる。仕事が休みの日はいつもこうだ。昨夜も十分飲んだのに、目を覚ますと、また酒を飲み始めた。

一人暮らしなので、もんくをいう家族もいない。以前は妻も子もあったが、男がこういう生活をするもんだから、妻は子を連れて出ていってしまったのだ。

「ああ、酒がなくなった」

 男は空になったビールの缶をその辺に放り投げていった。

「買いにいくか」

 男は酒屋に向かった。ちどり足で鼻歌を歌いながら歩いていると、

「こんにちは」

 知らない男があいさつをしてきた。白髪まじりの初老の男で、グレーのカーデガンをはおり、上品そうな男だ。

「こんにちは」

 男はごきげんであいさつを返した。

「おさんぽですか?」

「ええ、ちっとそこまで」

 初老の男は、男と並んで歩きだした。

「フフフ、飲んでいらっしゃるんですね」

 初老の男は笑っていった。

「エヘヘ、はい」

 男も笑って答えた。

「私もこれから家で飲もうと思って、酒を買ってきたんですよ。一人で飲んでもつまらないし、もう少しお飲みになるのなら、ごいっしょにいかがですか?」

 初老の男はビニール袋を持ち上げていった。

「ええ? そんな、初めて会った方のお家にお邪魔するなんて、悪いですよ」

「いえいえ、あなたとは話しが合いそうだ。ぜひ、いっしょに飲みたいのですよ」

 初老の男は、男に近づいていった。

 不思議なことに、男の方も何となく、初老の男と話しがしたい気がした。つい、今しがた会ったばかりの相手なのに、どうしてだろう。

「そうですか。それじゃあ、お言葉にあまえて、お邪魔しようかな」

 男は初老の男についていった。細い路地をいくつも通る。

(へえ~、こんなところに道が続いていたんだ)

 男が感心してキョロキョロしていると、

「ここですよ」

 初老の男が立ち止まっていった。こじんまりした同じような家が並んでいて、その中の一軒の家だ。

「まあ、どうぞ、一人暮らしできれいにしていませんが」

 小さな玄関から入って、家の中に通された。部屋はきれいに整頓されている。

「気楽にしてくださいよ」

 初老の男がテーブルの上に缶ビールを置いた。

「前は妻も娘もいたんですけどね。私がのんべえなもんで、二人で出ていってしまいまして」

 初老の男は缶ビールの、ふたを開けていった。

「ええ! そうなんですか。おれと同じだ」

 男は驚いていったけれど、初老の男はにっこりとほほえんだ。

「どうぞ、どうぞ、飲んでください。たくさんありますから」

「ありがとうございます。では、いただきます。ええっと、こちらにはずっとお住まいなんですか?」

 男がビールを飲みながらきいた。

「二十年ぐらい前から住んでいます。妻子が出て行った後、一度家を出たんですが、また、戻ってきました。未練がありましてね。情けないことですが、一人になって考えるのは妻と娘のことばかりです」

 初老の男が笑っていった。

「わかりますよ。一人でいるとねえ、考えますよ。今頃どうしているのかなあって」

「うん、うん。でも、あなたはまだお若い。やり直せる。生きていればまた、奥さんや子供さんと暮らせますよ」

 初老の男はビールを飲み干していった。それから二人は、お互いのことをいろいろ語り合って、楽しい時間を過ごした。


 ドカドカと歩く足音で、男は目を覚ました。いつの間にか寝てしまっていたようだ。男が薄目を開けた時、まぶしい光に照らされた。

「おい、何をしている?」

 光の向こうから声がした。あたりは真っ暗で声を出した男が、こちらに懐中電灯を向けているのがわかった。

「何をって、二人でビールを飲んでいたんだよ」

男は手で光をさえぎりながらいった。

「他にもだれかいるのか? 近所の人が空き家から声がすると言うので見に来たのだが」

(警官なのか? けれど、空き家なんて何をいっているんだろう)

 男は思った。

 警官が部屋の中を懐中電灯で、ぐるりと照らした。さっきとは家の中の様子がちがっていた。カーテンは破れているし、そこいらじゅうにいろんな物が散らばっている。そして、初老の男の姿がない。

「あっ」

 警官が声をあげた。床に向けられた懐中電灯が照らしていたのは、ボロボロのグレーのカーデガンを着た、白骨化した人間の亡骸だった。


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