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雪の王子と星の魔女の極秘の婚約 ~落ちこぼれ魔女、呪われた英雄王子を救いに押しかけ婚約者になる~  作者: 海野宵人


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夜の中庭 (5)

 テオドールは、フリッツとベリンダをじっとりとにらんでから文句を言う。


「君たちは最初からグルだったのか」


 フリッツとベリンダは、顔を見合わせてからそれぞれ首を横に振った。


「まさか」

「いいえ」


 きれいに息の合った二人の返答に、王子は疑わしげな視線を向ける。


「だって、息がぴったりじゃないか」


 そう言われても、フリッツと顔を合わせたのは今日が初めてだ。ベリンダは再びフリッツと顔を見合わせる。フリッツは肩をすくめて、テオドールの疑惑を否定した。


「そう言われても、彼女と顔を合わせたのは今日が初めてだよ」


 たった今、自分が考えたのと全く同じことをフリッツが言葉にするので、ベリンダは笑ってしまいそうになる。


「事前に示し合わせたりはしてませんけど、きっと気持ちが一緒だったんだと思いますよ」

「うん、きっとそうだね」


 不思議とフリッツとは、気持ちが通じる。こういうのを「馬が合う」と言うのだろう。ベリンダと一緒になってテオドールに畳みかけた後、彼は満足そうな笑顔を見せてこう結論づけた。


「今日の夜会は、一番重要な課題が解決したという意味で、大成功だね」

「婚約者ですね!」

「うんうん」


 もはやテオドールは苦笑をこぼすばかり。文句を言うことも諦めたようだ。


 そのテオドールの胸先に、ベリンダは突如笑みを消して真剣な顔になって人差し指を突きつけた。


「殿下」

「はい」


 触れたわけでもないのに、まるで指先から強い圧力を感じたかのように、テオドールは少しのけぞる。


「婚約者として、まずお願いしたいことがあります」

「なんでしょうか」

「体重を減らしましょう」


 ベリンダがテオドールの目をまっすぐに見つめてそう言うと、王子は一瞬言葉に詰まってから「できるものなら、ぜひそうしたいと思いますが……」と小さな声で返した。


「できるなら、じゃなくて、やるんです。だってね、今のままだと必ず病気になりますもの」


 婚約によって呪いが回避できたとしても、病気で命を落とすようでは意味がない。


 少々ふっくらしていたり、ぽっちゃりしている程度なら、別にベリンダだって気にはしない。けれども、どう見てもテオドールの体型は度を超していた。今はまだ無事でも、早晩、なにがしかの病気になっても不思議ないのだ。


「でも、どうすればいいんでしょうか」

「こういうのは贅沢病とも言うくらいですからね。だいたいはお食事が原因なんです」


 途方に暮れた様子のテオドールに、ベリンダは食事の内容を記録しておくよう約束させた。素直にうなずく王子に、彼女は満足そうにうなずく。


「大事な婚約者さまには、健康でいていただかなくちゃ」

「私はいたって健康ですよ?」

「いつ病気になっても不思議ないような状態の人は、健康とは言いません!」

「そ、そうですか」


 ピシャリとベリンダに言い切られ、テオドールはぎこちなくうなずいた。


 その間にも、ベリンダは頭の中でテオドールの健康化計画を練る。食事の記録は約束してもらったから、後でその内容を確認した上で対策を立てよう──と考えたときに、ふと大きな問題に気づいてしまった。


 彼女の家は、王都から遠すぎる。


 テオドールの健康化計画のためには、少なくとも当面の間はそれなりの頻度で顔を合わせて、様子を確認したり対策を練り直したりしたい。しかし王宮から、アステリ山脈の麓にある彼女の家まではホウキで片道三時間ほど。日帰りできないわけではないが、気軽に往復できる距離でもない。


 かといって、めどが立つまで王都の宿に滞在し続けたら、どれだけ金がかかることか。


 愕然とした表情で急に頭を抱えてしまったベリンダに、フリッツが心配そうに声をかけた。


「ベリンダ、どうしたの?」

「ちょっと困ったことに気づいてしまって」


 彼女が事情を説明すると、フリッツは「なんだ、そんなことか」と笑みを浮かべた。


「転移を使えばいいんじゃないかな」

「転移?」


 初めて聞く言葉に、ベリンダはきょとんとする。


 フリッツはベリンダが転移魔法を知らないことに驚いたような顔をしたが、丁寧に説明してくれた。魔術師は、一度訪れたことのある場所であれば、瞬時に移動することができるのだそうだ。その魔法を、転移魔法と呼ぶ。


 誰にでも使える魔法ではなく、ある程度、力の強い魔術師にしか使えない。フリッツかテオドールが指導して教えるし、もし使えるようにならなかったらテオドールがベリンダの家へ通えばよい、と言うのだ。


 それを聞いて、ベリンダは「なるほど」と思った。思ったが、あまり良案とは思えなかった。王子さまや伯爵さまを家庭教師代わりにしたり、家まで来させたりするって、どうなんだろう。


 彼女が返事を渋っていると、フリッツはまた別の提案をしてきた。


「とりあえずさ、しばらくは王都に滞在したら? うちに泊まっていけばいい」

「え」


 気軽に招待されて、ベリンダは返答に窮した。


 今日、初めて会ったような貴族の家に、いきなりお呼ばれしちゃうの? フリッツは気さくで親しみのわく人物だし、それでいて礼儀正しくもあるけれども、だからといって気軽に誘いに乗ってよいのだろうか。社会経験に乏しすぎるベリンダには、ちょっと判断がつかなかった。


 なのにテオドールは「それはいいね」と、首を縦に振りながら同意している。


 非常識でないなら、お世話になってもよいだろうか。そう思って「明日、宿を引き払ったらお邪魔します」と言おうとしたところ、それより先にフリッツが口を開いた。


「じゃあ、今日からよろしくね」

「え?」


 ベリンダはあわてた。貸馬車を待たせてあるし、宿に荷物も残っているし、今日これからいきなりというわけにはいかない。


 フリッツにそう説明したら、笑顔で「大丈夫」といなされてしまった。


「貸馬車には、言づけをしておくよ」


 宿に置いてきた荷物は、人をやって引き取らせると言う。宿代は前払いだから、荷物さえ引き取れれば何も問題はない。断る理由がすっかりなくなり、ベリンダは素直にフリッツの家に身を寄せることにした。


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