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雪の王子と星の魔女の極秘の婚約 ~落ちこぼれ魔女、呪われた英雄王子を救いに押しかけ婚約者になる~  作者: 海野宵人


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邪神討伐

 忌み地の地図が手に入ってからというもの、邪神探索の効率は格段に上がった。あらかじめ地形がわかるおかげで、最適なコースを事前に検討しておけるようになったからだ。


 これまでは山や谷に行き当たったとき、迂回ルートは文字どおり手探りで探すしかなかった。まさに暗中模索の状態だ。だが地図があれば、どのように迂回したら効率よく先に進むことができるのかがわかる。これは大きな違いだった。


 地図を入手してから、テオドールとフリッツはまず忌み地周辺を再調査した。その結果、忌み地自体が縮小していることが判明する。半年前に記録した転移座標のいくつかは、当時は忌み地の内部だったはずなのに、現在は霧の晴れた場所になっていたのだ。


 二人が探索から公爵邸に戻ってくるときには、相変わらず疲れた顔をしている。けれども、以前とは違って心まで折れそうなほど追い詰められた様子がなくなった。夕食の席でその日の進み具合を話すときにも、ときおり冗談を交えて笑いがこぼれるくらいだ。


 ベリンダがギョッとするような話を、笑いながら報告したりする。


「今日は、テオが崖から落ちちゃってさ。体重が減っててくれて、本当に助かった。以前のままだったら、たぶん僕じゃ踏ん張りきれなくて一緒に落ちてたね」

「えっ。大丈夫だったんですか⁉」

「大丈夫、大丈夫。だからほら、二人とも無事でしょ」


 話を聞いたベリンダは目をむくが、当の二人は「ちょっと失敗しちゃった」くらいの軽いノリだ。先頭を歩いていたテオドールが、足を滑らせて崖から転落したのだと言う。そういうときのために、二人は互いの体をロープでつないでいるのだが、後ろを歩いていたフリッツが踏ん張って、何とか引っ張り上げたのだそうだ。話を聞いただけでも、ベリンダは恐ろしくて胸がドキドキする。


 顔色をなくしたベリンダを見て、フリッツとテオドールは冗談が過ぎたと気づいたようだ。二人は口々に彼女をなだめる。


「大丈夫だって。本当に危ないときは、転移で戻るからね」

「うん。危ないときの脱出は、早めに判断するようにしてます」


 脂肪がすっかり落ちきってしまった今でも、テオドールはフリッツよりも重い。フリッツより身長が高い上に、筋肉量が多いからだ。


「テオさまが後ろのほうが、安全なんじゃありませんか」


 筋力でまさるテオドールが後ろにいるほうが、フリッツが落ちたときに楽に引き上げられるだろう。そう思ってベリンダは提案してみたが、二人は首を横に振った。


「崖なんて、気をつけてれば普通は落ちないから。それより、魔獣の対処が重要なんだ。だから僕より強いテオが先頭を歩くほうが、安全なんだよ」


 ずっと二人で工夫しながら探索を続けてきたわけで、ベリンダにはわからないノウハウをいろいろと積み上げてきたのだろう。そう思った彼女は、それ以上のよけいな口出しは控えておくことにした。


 こんな具合にちょくちょくそれなりに危ない目に遭いつつも、二人とも大きなけがをすることなく、邪神の探索は順調に進んでいった。


 逆に言うと、大きなけがこそないが、そこまで大きくないけがであれば、しばしばある。その都度、帰還したときにベリンダが手当てをするのだが、二人が探索に出ている間にまた危ない目に遭うのではないかと、心配でたまらない。


 魔物との戦闘で二人が軽いけがを負った翌日、ベリンダはあることを思い立った。気休めにしかならないだろうが、何もしないより気が紛れそうだ。彼女は二人が探索に出た後、そっと屋敷を抜け出して夕方まで戻らなかった。その数日後、ベリンダは小さな布製の袋をテオドールに差し出す。


「テオさま、これをどうぞ」

「ありがとう。これは何ですか?」

「お守りです」


 袋の中には、「癒やしの花」かもしれない白い花を陰干ししたものが入れられている。丸一日かけて王都から霊峰スペシアの山頂まで、ホウキに乗って採りに行ったのだ。これが本当に「癒やしの花」かどうかは、わからない。もし本当にそうなら、万が一のときに役立つこともあるだろうし、そうでなかったとしても気休めくらいにはなるだろう。


 そう説明すると、テオドールは渡した袋を内ポケットに大事そうに入れた。もちろんフリッツの分も用意してある。順番に渡しているのに、説明の途中で「僕の分は⁉」と騒ぐのには閉口した。


 正直なところ、ベリンダは気休め以上の効果は期待していなかった。ところが意外なことに、このお守りを渡した日からというもの、二人がけがをすることが激減する。理由を聞けば、なんと魔物にほとんど遭遇することがなくなったのだと言う。これにより、探索の効率はさらに上がった。この花は、本当に「癒やしの花」なのかもしれない。


 ところがこの頃から、ベリンダはテオドールと会う機会が減ってしまった。減ったというか、ほぼなくなった。というのも、なぜかテオドールが公爵邸に帰還しなくなってしまったからだ。これまで公爵邸に帰還していたのは食事のためだったはずだが、食事は大丈夫なのだろうか。


 ベリンダはテオドールのことが心配だったが、フリッツは軽い調子で「大丈夫だよ」と請け合う。ベリンダの名前を出せば、王宮でも適正な量の食事をとれるようになったのだそうだ。「ベリンダの指導に従うため」と言えば、指示どおりの量の食事が出てくる。つまり、それだけベリンダの健康指導は高く評価されているということだ。


 それを聞いてホッとはしたが、やはりさびしかった。これまでずっと毎日のように顔を合わせていた人と、急に会えなくなってしまったのだから。


 でも探索の様子は、フリッツ経由でこれまで同様、詳しく聞ける。だから彼女は、それで我慢するしかなかった。どんどん邪神の本体に近づいて探索も佳境に入り、討伐を間近に控えているというのに、つまらないわがままを言って二人の邪魔をしたくはない。


 そうして白い花のお守りを二人に渡してから一か月ほどが経過したある日、ついにテオドールとフリッツは邪神を討伐した。戦闘は数時間にも及んだらしいが、かすり傷を負った以外は二人とも無事だった。


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