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雪の王子と星の魔女の極秘の婚約 ~落ちこぼれ魔女、呪われた英雄王子を救いに押しかけ婚約者になる~  作者: 海野宵人


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邪神探索 (3)

 二人の帰還した様子を聞きつけて、ベリンダは玄関へ駆けつけた。


「おかえりなさい!」


 二人とも疲れた顔はしているものの、ベリンダの声かけに、口々に「ただいま」と挨拶を返した。挨拶を交わすのももどかしく、ベリンダは気になって仕方のなかったことを質問する。


「どうでした?」

「使えましたよ」


 彼女の質問には、テオドールがにっこり笑みを浮かべて答えた。


「よかった……!」

「本当に助かりました」


 その答えを聞いて、ベリンダは心の底からホッとした。役に立たなかったらどうしようかと、ずっと気をもんでいたのだ。帰りが遅いから、たぶん使えているのではないかと思ってはいたけれども、あまり自信はなかった。


 フリッツは笑って、テオドールの肩をたたく。


「詳しい話は食事のときにしよう。その前に、まず着替えないと」

「うん、そうだね」


 ベリンダはあわてて「気が利かなくて、ごめんなさい」と謝り、通路の脇に寄って道をあけた。方位磁針が役に立ったかどうかが気になるあまり、気遣いに欠けていた。そんな自分にがっかりだ。


 テオドールはしょんぼりした彼女の顔をのぞき込んで、微笑みかけた。


「わざわざ出迎えてくださって、ありがとう。あなたの顔を見たら、ホッとしましたよ」


 王子の心配りに、ベリンダのほうこそ胸が温かくなる。照れて頬を紅潮させながら、彼女は階段のほうを手で指し示して、二人を着替えに送り出した。


「どうぞ着替えていらしてください。また、お食事のときに」

「うん。また後で」


 テオドールはフリッツと一緒に、にこやかに手を振って二階に上がって行った。公爵邸で与えられた客室に移動して、そこから王宮の自室に転移して着替えてくるらしい。部屋の中で転移していることを知らなければ、公爵邸の部屋で着替えているようにしか見えない。


 食事の席では、当然ながら邪神探索が話題に上がる。テオドールはさっそく方位磁針の使用感を報告した。


「今まで試した方位磁針とは違って、忌み地に入っても針がブレないんです」

「それはよかった。何とか進展しそうですな」


 公爵が喜ばしげに返すと、テオドールも「そうですね」と微笑む。


 邪神探索が実際にどのように進められているのか、ベリンダは興味津々だ。公爵やフリッツたちの会話に口をはさまないように静かに食事をしつつ、耳をそばだてていた。


 話を聞く限り、とても大変そうだ。忌み地ではまったく視界が利かないため、テオドールとフリッツは互いの体をロープでつないでいる。何しろ、ぶつからずに歩ける程度の距離をとっただけで、互いの姿が確認できなくなるからだ。


 方位磁針を持ったテオドールが先頭を歩き、その背に手を当てながらフリッツが後ろから進む。足もともまともに見えないので、一歩ずつ地面を探りながら歩かざるを得ず、歩みは遅い。


 テオドールとフリッツは、それぞれ自分を中心として渦状に風を起こす魔法を使い続けて、視界を確保しようと試みている。実際にある程度は有効なのだが、それで確保できる視界はせいぜい腕の長さ程度なのだと言う。


 つまり、フリッツがテオドールの背中を触れている限りは後ろ姿が見えるけれども、手が離れた途端に霧の中に消え失せてしまうらしい。魔法を使わなければ、視界はその半分以下だそうだ。目隠しして歩いているのと、ほとんど変わらない。その上、ときどき魔物も出現する。


 ベリンダが想像していた以上に、探索は過酷な作業だった。知らず知らずのうちに眉尻が下がっていたらしい。沈んだ表情に気づいたらしいテオドールが振り向き、彼女に微笑みかけた。


「楽ではありませんが、前に進めるようになっただけでも大きな前進です。本当にどうもありがとう」

「他にもっとお手伝いできることがあるといいんですけど」

「すでに十分、助かっていますよ」


 食事の席では、その後も邪神探索の話題に終始した。


 その日から毎日のように邪神探索のため、テオドールとフリッツは日中の間は家を空けるようになった。同行できないベリンダは、何とかして二人の手伝いができないかと頭をひねる。そして考えた末、昼食用の軽食作りを始めた。


 テオドールとフリッツは、休憩や昼食のときには転移で公爵邸に戻っている。忌み地では、のんびり休むことなどできないからだ。だが二人にとっては、公爵邸できちんとした昼食をとる時間が惜しいらしい。


 そこでベリンダは、農夫や狩人が外で食べる弁当を真似て、簡単に食べられる軽食を用意してみた。そうしたら、これが二人には大好評だったのだ。質素であろうと、手早く食べられるのがうれしいのだと言う。


 もっとも、ベリンダが作っていたのは最初のうちだけだ。しばらくしたら、料理人が似たようなものを用意するようになった。夫人からも「使用人の仕事を奪うのは感心しない」とたしなめられたので、素直に仕事を譲り渡した。


 こうなるとベリンダは何もすることがなく、身をもてあましてしまう。夫人とは定期的にお茶会をして、貴族のあれこれについて「お勉強」をしているけれども、さすがに毎日というわけではない。


 夫人に相談した結果、最終的にはアステリ山脈にいたときと同じことをするようになった。つまり、薬作りだ。ベリンダの作る薬は、傷薬から痛み止め、特定の病気に効く薬までと、幅広い。傷薬や痛み止めくらいなら、作れる者は割とどこにでもいる。


 けれども特定の病気によく効くような、需要は少ないものの重要度が高い薬は、ベリンダが作ったものが国中で使われていた。だから彼女が薬作りをやめてしまうと、困る者が出てくるのだ。


 ベリンダの作った薬は、以前と同様、アステリ山脈地方の問屋に卸している。流通経路を変えて混乱が起きないように、との配慮だ。と言っても、今は納品は彼女が自分で行くわけではない。フリッツが邪神討伐の合間に、転移魔法を使って卸しに行ってくれている。


 こうした生活が半年ほど続き、ベリンダはすっかり公爵邸になじんでいた。


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