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邪神探索 (1)

 公爵邸では昼食がすでに用意されていた。王宮での食事と違い、ひとりずつ料理が供される。テオドールの皿は、他の者の皿に比べると多少多めではあるものの、常識的な量に収まっていた。王子はそれに対して、特に不満をもらすこともない。


 食卓での話題は、もっぱら「失せ物探し用の方位磁針」についてだ。フリッツとテオドールが話しているのを、公爵夫妻はほとんど口を挟まずににこにこと聞いている。公爵夫妻に方位磁針について説明した後、テオドールはフリッツに声をかけた。


「食事が済んだら、さっそく出掛けてみよう」

「うん、それがいい」


 フリッツも同行するようだ。いったいどんなメンバーで探索に出るのだろうか。気になったベリンダは、質問してみた。


「他には誰が行くんですか?」

「二人だけだよ」


 なんとテオドールとフリッツの二人だけだと言う。他にメンバーがいない理由は、転移魔法を使う必要があるためだ。ベリンダが想像していたよりもずっと、転移魔法の使い手は少ないものらしい。邪神にたった二人きりで挑むなんて、大丈夫なのだろうか。心配でベリンダは眉をひそめるが、フリッツはのんきに構えている。


「方位磁針さえ使れば、こっちのもんだ。ホウキのおかげで、楽ができるな」

「フリッツ、それなんだけどさ。たぶんホウキは使えないと思う」

「え、なんで?」


 不思議そうに目を丸くするフリッツに、テオドールは朝の出来事を説明した。つまり、ベリンダを迎えに行ったら不在だったので、ホウキで探しに出てみようとしたが飛べなかった件だ。


「だけど、二人で飛んできたじゃないか」

「それはそうなんだけど。まあ、後で確認してみよう」

「うん」


 その後も、テオドールとフリッツは邪神探索の相談をしながら食事を進める。ベリンダは公爵夫妻と同じように、口を挟まず聞き役に回った。


 食事の後、ベリンダは与えられている部屋に戻った。だが、邪神探索に出かける二人のことが気になって仕方がない。うろうろと部屋の中を歩き回ったり、そわそわと窓から外をのぞいたり、そっと部屋の扉を開けて廊下の様子をうかがったりと、どうにも落ち着かない。


 やがて、ついに我慢できなくなった。せめて見送りをさせてもらおう。そう思い立って部屋から出ようとしたところで、ベリンダはびっくりして固まった。なんと、部屋の前にフリッツが立っていたのだ。それも、まさにノックしようと片手を上げたところだ。フリッツも彼女と同じくらいに驚いたようで、目をパチクリさせている。


 フリッツは青いローブに着替えていた。どこからどう見ても魔術師だ。今まで貴族然とした服を着ているところしか見たことがないので、何だか新鮮だった。


「ベリンダ、ちょっと付き合ってくれるかな」

「はい」


 見送ろうと思っていたところだから、まさに渡りに船だ。ベリンダは素直にうなずいて部屋から出た。廊下に出てみると、テオドールもいる。こちらは軽装備を身にまとっていた。探索のために着替えたようだ。そして二人ともホウキを手にしていた。


 それを見て、あわててベリンダは部屋に置いてあった自分のホウキをとってくる。するとテオドールは流れるように自然な動作で、彼女のホウキを受け取って二本まとめて持ち、反対側の腕を差し出した。もうベリンダは、この腕が差し出された意味を知っている。エスコートだ。彼女は照れながらも、そっと手を王子の腕にかけた。


 廊下を歩きながら、二人に向かって質問する。


「どうしたんですか?」

「いやあ、テオも僕も、ホウキで飛べなくてさ」


 フリッツの返事に、ベリンダは眉間にしわを寄せた。


「でもテオさまは、今朝アステリ山脈から一緒に飛んで来ましたよ」

「うん。だから実験に付き合ってほしいんだ」


 何だかよくわからないながらも、ベリンダは素直にうなずいた。


 二人と一緒に裏庭に出て、二人がホウキにまたがるのを庭の片隅から見守る。二人がそれぞれ「飛べ」と命令を発すると、どちらもふわりと空中に浮き上がった。ベリンダは思わず眉根を寄せる。


「飛べてるじゃありませんか」


 フリッツとテオドールは、空中で顔を見合わせた。


「今は飛べてるね……」

「そうだね」


 そのやり取りに、ベリンダは首をかしげる。まるで、さっきまで飛べなかったかのような言い方だ。いぶかしく思いながらも、彼女は黙って二人の様子を見守った。二人は何やら相談しながら、敷地内を飛び回り始める。しばらくそうして飛び回った後、ベリンダのところへ降りてきた。


「ベリンダ、ちょっと一緒に飛んでくれる?」

「はい」


 頼まれるがままにホウキにまたがり、フリッツとテオドールの後ろについて飛ぶ。今度は敷地の外へ飛んでいくようだ。公爵邸の敷地を飛び出して、しばらく王都上空を飛んだ後、フリッツとテオドールは顔を見合わせてうなずきあった。


「フリッツ、やっぱりそうだ」

「うん。テオの言うとおりだったな」


 何の話だかさっぱりわからず、怪訝な表情のまま後ろからついて飛ぶベリンダに、二人は「一度、戻ろう」と声をかけた。公爵邸の裏庭に戻って着地してから、フリッツが説明した。


「僕らは、自分ではホウキで飛べないことがわかった」

「え? でも、さっき二人で飛んでましたよね」

「うん。ベリンダがここにいたからね」


 どういうことかと首をかしげるベリンダに、テオドールが最初から説明した。


 ベリンダが見ていないところでは、ホウキはウンともスンとも動こうとしなかったのだと言う。彼女を裏庭に呼んで、フリッツとテオドールの二人だけでホウキで飛んでみたのは、二人だけでどこまで飛べるのかを試したのだそうだ。そして敷地内から出られないことがわかった。そこで次に、ベリンダと一緒に飛んでみた。すると、敷地を出て自由にどこまでも飛び回れた、というわけだ。


 そう説明して、テオドールは次のように結論づけた。


「だから残念ながら、ホウキは邪神探索には使えないようです」

「まあ、仕方ないな」


 ベリンダは腑に落ちないながらも、納得はした。二人が飛べないところを見ていないから、信じられない気持ちはあるけれども、二人ともそう言うなら、実際そうなのだろう。だけどベリンダが一緒なら飛べるのだから、やりようはあるはずだ。


「だったら、私も一緒に行きますよ」

「だめだ」

「いけません」


 ベリンダが提案すると、フリッツとテオドールはどちらも険しい顔をして勢いよく振り向き、口々に否定した。


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