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境界のない世界

 もう抑えられない。ユキさんの白い乳房の間に顔を擦りつけて僕は甘えた。なんて柔らかい。ユキさんはやさしく僕の頭を撫でてくれる。そのやさしい眼差しが見えたような気がした。

 それから僕は乳房の先端を頬張る。もうそうせずにはいられなかった。強い衝動が、腹のずっと奥底から沸き起こり、ほとばしる。

 一番てっぺんのそれをやさしく甘噛みするや否や、ユキさんはからだをきゅっと仰け反らせ、握ったこぶしを口に当てて、声とも吐息ともつかぬ喘ぎをその美しい鼻から深く、そしてゆっくりと吐き出した。すると驚いたことにてっぺんの蕾はさっきよりもずっと大きくその硬さを増した。

 と、突然ユキさんは僕の体を振り払い、体を起こし、僕の足の方に下りて行ったかと思ったら、あっという間に履いていたジャージとパンツをいっしょに引き摺り下ろしてそのまま剥ぎ取ってしまった。僕は身構える暇もない。

 最大限に興奮した僕の下半身があらわになった。恥ずかしさで耳までかーっとなる。ユキさんはそっとそこに手を触れる。もっとも敏感な先端部分をやさしく、手の平ですっぽりと覆い、二,三回ぎゅっと握った。何かを確かめているようにも思えたが、僕はもうそれどころではない。ぎゅっとその手で握られるだけで快感の波がそこから頭のてっぺんまで走る。

 そしてユキさんはベッドの上ですっと立ち上がり、するするっとパジャマのズボンを脱いだ。

僕はハッとした。ユキさんはあの紺色のレースの下着を身に着けていた。あの夜、僕はこの下着を身に付けたユキさんをどれほど想像しただろうか。今、それは想像ではなくまぎれもなく僕の目の前にある。 

 でもユキさんはその下着すら脱ぐことを厭わなかった。それから仰向けで寝ている僕の右横に横臥位で横たわり、僕の腕を豊満な胸の間に挟んだ。そして僕の左手をつかんで、自分の下腹部へと誘った。指先に確かな柔らかい感触が伝わる。僕がびっくりして腕を引いてしまうと、「大丈夫よ。さわって」と甘い声が耳元で聞こえた。

 僕は一度、体を起こしてためらいがちに指を滑り込ませる。そこは信じられないほど熱く、いびつで、やわらかい潤いに溢れていた。僕は左手だけでなく、全身が激しい興奮でぶるぶると震えるのがわかった。

「もうダメ」

 ユキさんはそう言うや、再び僕を仰向けに寝かして、さっと跨り、ゆっくりゆっくり、慎重に具合を確かめるように、腰を落として行く。僕はもうされるがまま、ああすべてが満たされて行く。もうどこまでが自分でどこからがユキさんなのかわからない。境界のない世界だ。自然に涙が溢れた。

 その余韻を楽しむ間もなく、ユキさんは天を仰ぎ、腰を前後に揺らし始めた。もうどの部分がどんなふうに感じているのかわからない。とにかく内側から痺れるような快感が広がる。ただ薄青い光の中で、ユキさんの隆起した喉笛だけがいやにはっきりと目に映った。

 二人の動きが完全に同調した時、その波はやって来た。も、もうダメだ。これ以上我慢できそうにない。

「ああっごめんなさい!」

 僕は思わず口走ってしまった。お尻の穴の奥がカッと熱くなり、まるで弾け出されるように上に向かって一気に広がり、すぐに全身が痺れたような感覚が訪れた。それはいつも一人でした時みたいな部分的な感覚じゃなく、頭も体も心までもがじーんと痺れたようにその快感の波にさらされている。それらはユキさんの中に混ざり合って同化してしまったみたいだ。とにかくぐったりと放心状態だった。

 ユキさんはそのやわらかな胸でぎゅっと抱きしめてくれた。僕は感動で何も言えなかった。

 暫くしてユキさんは体を起こし、僕の下半身を丁寧にタオルで拭ってくれた。恥ずかしかったけれど、僕はもうされるまがままだ。体が動かなかった。 


「あの……」

「ん?」

「あの、妊娠しませんか?」

「あはは、大丈夫よ。心配してくれてるの? ヒデ君はいい子ね」

「ごめんなさい」

「君があやまらなくていいわ。誘ったのはあたしだから」

 そう言いながらユキさんは足元のブランケットを引き寄せて、再び僕の横で体をくっつけて横たわった。ブランケットの中では、もちろん二人ともまだ裸のままだ。でもさっきよりも恥ずかしくなかった。体をぴったりくっつけること。そしてユキさんの体温を直に感じることが、恥ずかしいよりもずっと嬉しい気持ちが大きかった。そう、僕は泣いてしまいそうなほど嬉しかった。 

                                     続く

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