俺、生まれ変わったら【碁盤】になっていたのだが…
……俺は、碁盤。
本榧足付、本蛤と那智黒の碁石付きの、高級碁盤だ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、碁打ちだった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、碁盤になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺はどうしても…神の一手に近づきたかったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…石を打つ時の音を忘れられなかった。
対戦相手に読み勝ったことを確信しては石をド派手に碁盤に叩きつけていた事と、半目差で負けて悔しさのあまり扇子を叩き負った事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――一番高いやつがええなあ!!
俺を購入したのは、成金のオヤジだった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
町内会の『優しい囲碁教室』に気まぐれに参加し、トーナメントで優勝してしまったオヤジは…勘違いもはなはだしかったのだ。
ほんの少し定石の知識があるだけなのに、えらそうに初心者を指導し、上級者に食って掛かる…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――私もやってみようかしら
会社を退職した嫁が、分厚い囲碁の本を買ってきた。
毎日こつこつと囲碁の基礎を学び、めきめきと強くなっていく、嫁。
俺は願った。
「オヤジではなく、奥さんにもっと碁を打ってもらいたい」
そう願ったのには、理由があった。
オヤジはいつも打ち方がワンパターンで向上心のかけらもなく…セコイいかさまをしてはしらをきることがあって、不愉快だったからだ。
弱い相手を見つけてきてはコテンパンにし…悦に入っているのが、実に情けない。
棋力が上がってきた奥さんに暴言を吐きながら、間違った指導をしていて…心がえぐられ続けている。
……いっそ、奥さんに指導してもらえばいいのに
―――フン!お前にはこの…マグネット囲碁で十分だ!!二度と使うな!!いいな!!
オヤジは、嫁と対局して負けた腹いせに…俺を納戸の奥深くにしまいこんだ。
かび臭さと湿気、ネズミにゴキブリ…俺を取り巻く環境が、大きく変わった。
俺の願いも…むなしく。
俺にかぶせてあった布はあっという間に穴が開き、ホコリや雨漏りの水、ネズミの糞にゴキブリの汁…俺の表面にいろんなものが染み込みはじめた。
真っ黒にすすけてしまった俺は、黒い碁石がどこにおかれているのかすら判別できなくなり…囲碁を知らぬ娘によって燃えるゴミの日に出された。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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