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君を一番に出来ないと言われました

作者: 高月水都

同性同士なら問題ないのにね

「婚約者候補としてこの場で言うのはおかしいだろうが、あえて言いたい事がある」

「………なんでしょうか?」

「君を一番に出来ない」 

 と、普通の人が聞いたら憤慨ものだろうなと思いつつも、

「でしょうね」

 と言われた方も何をいまさらという感じで相槌を打った。


 ここは我が国――リンツ王国で最も美しいと言われている王宮の中庭。そこで女王陛下付きの女官であるマルチナと女王陛下の護衛であり、次期騎士団長であるアーチボルトとのお見合いは敬愛する女王陛下と騎士団長の計らいで行われた。


 アーチボルトは、次期騎士団長であり、現騎士団第三部隊の隊長である素晴らしい方なのだが、どうも社畜精神が根付いていて、家があるらしいが、ほとんど騎士団の寮で暮らして………いや、休暇の日も鍛錬場で部下の訓練に付き合っているかひっそりと女王の護衛を行っていて、かつて女王陛下が視察中に襲撃されて、それを非番だったアーチボルトが解決したとか……ちなみにその時に護衛していた部下たちは訓練をやり直されたとかだ。


 そこまで女王に忠誠を誓うアーチボルトは素晴らしいものだ本来ならば。


「このままだとわたくし、アーチボルトと婚姻しそうなのよ」

 と女王がマルチナの目の前に差し出されたのは世間で人気な書物。騎士と姫君という作品でタイトルからお察しだろうが、女王とアーチボルトのことがモデルなのだ。


「わたくしが誰と婚約をしてもこの書物が出ていると勝手に悲恋にされて、相手に失礼になってしまうわ」

「外交問題にもなるかもしれませんね………。下働きも読んでいて二人の恋を応援しようという雰囲気があります」

 マルチナは次期女官長候補であるがゆえにその手の情報はしっかり集めている。


 だが、女王の一番傍でお仕えしていると自負しているマルチナからすれば、アーチボルトの想いは敬愛であり、主従関係でそこに男女間のものはない。


 ここで性別がどちらも同じならば美しい主従愛――一部例外もいるだろうが――で片が付くのだが、悲しいことに両者の性別は異なっていた。


「この書物の発売を禁止したら余計信ぴょう性が増しますし、表現の自由を謳っていますのでそれも出来ませんね」

 と溜息を吐いてどうすればいいのかと悩んでいる女王。


「で、騎士団長も困っているのよ。アーチボルトを騎士団長にしてそろそろ現役を退きたいが、こんな噂がある状況で退いたらますます噂がヒートアップするのではないかと」

 マルチナの脳裏に髪の毛が薄くなってしまって育毛剤を購入しようとしていた騎士団長の姿が浮かび上がる。彼の髪の毛は明らかにストレスだろう。


 思わずほろりと涙を流しそうになったが今は仕事中なのでそんな騎士団長のことは髪と同じような儚さで記憶の片隅に消えていく。


 困っている主君のために何かいい方法がないかと思って計略を立てた。

「ならば、新しい別の情報を世間に流してみたらどうでしょうか?」

「新しい情報?」

「はい。――アーチボルト第三部隊隊長には実は女王陛下の傍に恋人がいるというのとか」

 だけど――その情報の相手に一番相応しい立場の人物のことはすっぽりと頭から抜け落ちていた。


 それこそ、まさに次期女官長と言われている私マルチナが一番適任だったという事実を。





「………怒らないのか」

 巨体を縮こまらせてこちらを窺う様は、真っ黒な髪もあってか森林狼かシベリアンハスキーが尻尾を縮こまらせているように見えて少し可愛らしい。


「いえ。たぶん。同じような事を私も言いますから」

 アーチボルトとは所属も性別も違うが、自分もまた主君である女王が一番でアーチボルトはその下になるだろう。


「女王陛下のために命を掛けてくれることを喜びつつも一番に愛されないと喚きませんね。まあ、自分の命を蔑ろにしてまで陛下を守ろうとしたら怒りますが」

 この方が常日ごろ女王を守ってくださるからこの国は平和なのだ。


「正直……陛下のお父君の治世が長引いていたり、兄君が王になっていたらこの国はこんな安らぎとは無縁でしたでしょうし」

「ああ……そうだな……」

 先の王は酷かった。気に入った女性がいれば部下の妻や年端の行かない娘でも気にせずに側室として召し上げて、飽きたら放置。血税を湯水のごとくその当時気に入っている側室に使い続けて、国庫を傾けた。


 そんな前王が病気で亡くなった時娘のいる家庭は皆喜んだそうだ。


 そんな前王が亡くなる前に前王という見習ってはいけない見本を見て育った兄君は、真実の愛というものを求めて側近候補と共に一人の平民の少女を取り合い、婚約者であった侯爵令嬢――ちなみにブスメイクをして、前王対策もばっちりだった彼女をブスは自分の隣に相応しくないと喚いて冤罪で婚約破棄した。

 まあ、冤罪だったので論破されたし、その真実の愛の相手だった少女は前王の目に留まり、側室になった。ちなみに少女本人も乗り気で、兄君はある意味乗り捨てられたというオチも込みだ。

 で、兄君は廃嫡されたのだが、兄君を傀儡にしようとする輩は多く、女王の命がたびたび脅かされている。


 そんな馬鹿な事をしでかした前王と兄君のとばっちりで玉座につく羽目になった我が女王は初の女性の王であるがゆえに反対派が騒ぎ立て、とっくの昔に継承権を手放した前王の弟を玉座に着けようとする動きもあったり、まあ、前王弟は女王の後見人になって揺るがないが、王族の末端が自分こそ王だと虎視眈々と反乱を起こそうとする。

 

「だからこそ、家族を持って安らぎを得ろという騎士団長の言葉は嬉しいが、何かあったら陛下を、民を国を守るために前線で戦う。妻と子供は優先順位が一番低くなるだろう。だから……」

 結婚するのに躊躇うと告げるアーチボルトにすごく正直な方だと逆に好感を持てる。


「大丈夫ですよ。私も貴族の娘ですし、実は例の騒動の時に婚約を解消されましたので」

 マルチナの元婚約者も例の平民の少女に入れ込んだ男だった。その頃は前王対策でブスメイクをしている貴族令嬢が多く、そんな事実を察しなかった貴族令息ほど入れ込んだのだ。その際の元婚約者は自分の立場が悪くなるのを恐れて、入れ込んでいるのを隠していたがバレバレでしまいには逆ギレしてきたのでさっさと婚約を解消したのだ、相手の有責で。

「陛下が私を女官にとお声を掛けてくれなかったら事実はどうであれ面白おかしく言われていたでしょう。そんな陛下を守る。国を守ると堂々と言われるアーチボルト様を尊敬します」

 元婚約者と比べること自体間違っているがアーチボルトは素晴らしい相手だ。


「…………そ、そういってくれる女性がいたとはな」

 信じられないと告げるアーチボルトに、

「価値観は人それぞれなので」

 自分の考え方が異端だろうがと声に出さずに思うだけに留める。


 すると、今まで表情一つも緩めなかったアーチボルトがふわりとまるでブラッシングされて気持ちよさそうな犬のように目を細めて、 

「お見合いだと思って緊張したが、貴方が相手でよかった」

 と告げてくる。

「………っ!!」

 そんなことを言われたのは初めてだった。可愛げのないと散々言われて、お前ならあの女好きの王も手を出さないからよかったなと言われることはあったが、その今までマイナスポイントだったところも認めてくれる相手。


「私もあなたが相手でよかった」

 とそこで初めて男性相手に恋愛的な意味で好印象を抱けたのだった。





 まあ、それからいろいろあった。

 元婚約者が上から目線で婚約をし直していいぞと言い出したり、私を弱点だと思って狙おうとする軍部をアーチボルトは女王の護衛で動けないが、彼自身が育てた私兵がしっかり守ってくださりと。


 その間にも女王は平民出身の宰相を王配として傍に置き、そんな二人の間に生まれた子供には当然のように私たちの子供が側近候補として傍に控えた。


 そんな私たちを女王は忠義の一族という名前の書籍として情報を操作して、識字率も上げて名君と謳われるようになったのは当然だろう。そして、そんな主君を誇らしく思いつつ、敬愛する主君を一番に考えて常に行動するのであった。





この夫婦はどちらも一番は女王、次に民、その後国。そして、家族という関係で子供もそれ前提であったりする。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 名君の元に良き臣あり、よき臣に良き部下ありき…ってことですよね~!! 乱世のあとの王位には心身を尽くす人員、いくらあっても足りない…!!
[気になる点] 廃嫡された兄王子は結局始末されたのかされなかったのかが気になります。 あと、平民の少女も。
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