95 灼熱の虎
アケルの街を出発するとまずは指示された薬草の群生地を目指して移動する。平原を超えて森に入り赤毛虎の縄張り近くまで来るとそれまで鬱陶しいくらいに襲って来ていた魔物も徐々に減ってきていた。
縄張り近くまで来ると格下の魔物は赤毛虎を恐れて近付かないようだ。
まずは一ヶ所目の群生地に到着。俺とペレッタが周囲を警戒し、ハルが薬草の生育具合を細かく確認しメモしている。
「思ったより繁ってるな。何て言う薬草なんだ?」
群生地と言っても数十本くらいの小規模かと思ったら二、三人が寝転べるくらい広い範囲に目的の薬草が生えていた。
「この辺の草はマナリー草って言って、魔力回復用ポーションの材料になるんだって。魔力回復用ポーションは常に品薄でめっちゃ高いんだって。アーリさんが言ってた」
「ほほぅ。しかしこれだけ繁ってるのに品薄になるのか? 多少危険でも取りに来れない事も無いんじゃないか?」
「う~ん、何でもマナリー草の中でも品質の高い奴が必要らしいよ? 素人だと見分けがつかないし、判別出来る錬金術士にはこの辺りの魔物との戦闘は難しいからマナリー草が十分に育った頃に冒険者ギルドが護衛部隊を編成して錬金術士を護衛しながら採取に来るんだって」
結構大掛かりな作業になるんだな。だから無駄を省くために事前調査をするのか。
「お待たせ~。次の場所に行きましょうか」
調査を終えたハルが合流し、もう一つの群生地を目指して移動を開始した。
すでに赤毛虎の縄張りに入っている可能性もあるのでゆっくりと移動するのは危険だな。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『召喚術士』 『魔法使い』
『大いなる牙を持つ者よ、我らの元へ 召喚・軍隊狼』
感知能力を持った大型の狼を三体呼び出し、それに乗って移動しよう。
「コイツに乗っておけば赤毛虎に強襲されても対応出来るだろ」
「うん。よろしくね、ワンちゃん」
「では行きましょうか。次の群生地まで距離がありますが、この子達の脚ならすぐですね」
森を疾走し幾らか進むと不意にペレッタが何かを見つけた。
「止まって!」
周囲を警戒しながら軍隊狼がペレッタの指示する方向に歩いていくとそこには爪痕が刻まれた大岩があった。
「大きい……それに深い。独特の焦げ痕もある……間違いよ、赤毛虎の爪痕だよ」
「デカいな、爪痕から脚の大きさを計算すると体長は三メートルから四メートルくらいか。焦げ痕があるのは何でだ?」
「赤毛虎のスキルですよ。赤毛虎は『発熱』のスキルがあるんです。少し触れただけの岩に焦げ痕を残すくらい高温になるので迂闊に接近戦は出来ません」
よく見れば地面にも焦げ痕が幾つかあるじゃないか。赤毛虎がスキルを発動させた時に焦がしたんだな。
「この地面に残った痕を辿ればいいんじゃないか?」
焦げ痕を辿って赤毛虎を追跡し上手く先手を取れれば有利に戦える。と思ったんだがペレッタは首を振り。
「駄目だよ。この痕は多分、罠。下の地面に意識を集中させてどこかで上から襲い掛かろうとしてるんだよ」
むむ、赤毛虎はそんな戦術を取るのか。本能に任せて暴れるだけの獣では無いようだ。
だが此方には軍隊狼がいる。焦げ痕に惑わされず匂いで索敵すれば不意打ちを食らう事はない。
「赤毛虎は近いよ……準備しておこう」
ペレッタが矢を取り出し弓に添える。ハルが全員に耐火魔法を掛け、俺も強襲に備えて職業を変えておこう。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『召喚術士』 『暗殺者』
準備を整え、警戒しながら進む。そんな中、最初に反応したのは軍隊狼達だった。
三体の狼が一斉にその場を飛び退いた瞬間、上から赤毛虎が襲い掛かってきた。
「これが……赤毛虎か。あっちぃな」
赤と黒の体毛が発熱し、近くにいると肺を焼かれほどの高熱で空気が揺らいでいる。
「強射撃!」
赤毛虎の後ろにいたペレッタが矢を放つが、放たれた矢は対面の木の幹を貫通した。
「えっ……」
まるで瞬間移動したかのように赤毛虎の姿が消えた。
巨体に見合わない瞬発力で射られた矢を躱して飛び上がり、木の幹を蹴って再び襲い掛かってくる。
予想外の動きだ。辛うじて軍隊狼達が反応出来ているがこのまま戦うのは避けた方が良さそうだ。
「森を抜けるぞ!」
軍隊狼を全速力で走らせ、拓けた場所に出る。瞬発力なら赤毛虎、速力なら軍隊狼の方が上か。お互いの距離が徐々に開いていく。
「速攻射撃!」
猛スピードの矢が赤毛虎の肩に刺さるが強靭な筋肉に阻まれあまり深くは刺さらず、命中した矢もすぐに燃え尽きてしまった。
「散開!」
軍隊狼が散り散りになり赤毛虎を中心にして駆け回る。
赤毛虎が咄嗟に標的を搾りきれず立ち止まった隙を突いて俺の新装備が唸る。
贔屓にしている鍛冶士カルンに頼んでおいた魔法金属で造られた手甲を両手に填めて打ち鳴らす。出発前に顔を出して受け取っておいたんだ。
「いくぞっ!」
魔力を込めて突き出した手甲から暴れる大蛇のような雷が迸る。
雷を見切り飛び上がった赤毛虎にペレッタが追撃の矢を放つ。
「逃がさない……湾曲射撃!」
放たれた矢は大きく弧を描き赤毛虎の腹に命中した。流石に柔らかい腹を射抜かれては赤毛虎も身体をくの字に曲げて苦痛の声を上げた。
そして血走った目でペレッタを睨み、怨嗟の唸り声を上げて急降下しようとする。
「ふっ……いきます」
赤毛虎の意識が下に向いた時、その隙を突いて軍隊狼の跳躍と自前の身体強化で赤毛虎より更に上を取ったハルが大木のような赤毛虎の胴体を背後から抱きつくように締め上げ、ハルの剛力で締め上げられた赤毛虎が悲鳴を上げる。
締めると同時に高熱の胴体に密着させたハルの身体も少なからず焼けているが、そんな事にも動じる事なく赤毛虎の胴体に容赦なく指が食い込んでいく。
「終わりですっ!」
着地体勢が取れず頭から地面に激突した赤毛虎が首や背骨を砕かれて絶命した。




