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千変万化!  作者: 守山じゅういち
93/142

93 初クエスト

 腹の上に圧迫感を感じて目が覚めた。

「ぅ……苦しい」

「くぁ~」

 俺の上に重なるようにキャロルが寝ている。

「重てぇ~……」

 キャロルをシーツにくるんで自分のベッドに移すと一階へ降りた。

 調理場に顔を出すと野菜の皮剥きをするペレッタとエリオがいた。

「おう、おはよ」

「おはよ、イオリさん」

「おはよ」

 朝食作りの手伝いをする為、二人と一緒に芋の皮剥きをしているとシンクとルウが顔を出した。

「たっだいまぁ~っと。あ、おじさんおはよ」

「おぉ、おはよ。朝早くにどっか出掛けてたのか?」

「へっへ~ん、シン兄と一緒に商業ギルドと冒険者ギルドに行ってきたんだぁ~。これからは私が聖なる盾の売買担当になったからね! 話を通して来たよ」

「それとイオリさんのパーティー加入の件も話しておいたから後でハル姉さんとペレッタを連れて冒険者ギルドに行ってくれるかな」

 山盛りの芋を剥き終わり、根菜類を千切りにしていく。

「おう、わかった。そういうわけだからペレッタ。後で冒険者ギルドに行こう。シンク、ハルにも伝えておいてくれ」

「は~い」

「わかった。伝えとく」

 エプロンを着けたルウが熱したフライパンに水で溶いた小麦粉を流し込み、手際良く薄焼きを量産していく。

 本格的に忙しくなる前に調理場を後にして庭に出るとリッキーが薪割りをしていた。

「こりゃ珍しい、サボり魔のリッキーが薪割りとは……さては偽者かぁ?」

「うっせぇな……俺だって、たまにはやるんだ……よっ!」

 慣れない作業の上に振り上げた斧の重さに負けて身体がふらつき、狙いを外してる。

 丸太の端を叩いて軌道が変わり、斧が足元の地面に刺さった。危ねえ。

「無理せず鉈を使え。それと勢い付けすぎだから。軽く刃を食い込ませてから叩けばそれほど力はいらんだろ」

 多少コツを教えつつ、横で薪を割っていく。



「うな~ん。周囲に怪しい奴はいませんにゃ」

 散歩中の猫妖精を捕まえてひと撫でしながら警備状況の報告を聞く。

「そっか。新しい屋敷の方は?」

「にゃ、にゃ、にゃ。新しい屋敷はほぼ完成していて大工連中も撤収しましたにゃ。いつもの巡回している連中以外は誰も近づいてはいませんにゃ」

 猫妖精の顎下を撫でながらお腹をワシャワシャとマッサージする。

 巡回しているのは闇ギルドの連中だな。そろそろ手を引いてもらおうか。

 何時までも好意に甘えていると警戒心が薄れてしまう。闇ギルドの奴らだって上からの命令で動いているだけだし、味方だと思い込んで油断したら痛い目にあいそうだ。



 朝食後、ハル、ペレッタと連れ立って冒険者ギルドにやって来た。

「あ、おはようハル。シンク君から話は聞いてるわよ。イオリさんがパーティー加入するのよね?」

 事前にシンクからアーリに話が通っていたので手続きはスムーズに行きそうだ。

「ええ、今日はその手続きをしに来たの」

「良かったぁ、ようやくイオリさんの貰い先が見つかって。これで心配事が一つ片付いたわ」

 貰い先って……人を子猫か子犬みたいに言うな。

「イオリさんって一人で色々やれるから……そういう冒険者ってソロでやりたがるからちょっと困ってたのよねぇ。いくら優秀でも一人じゃ出来る事に限界があるし、万が一の時に助けが無くて手遅れになっちゃうから」

 意外と気に掛けてくれてたんだな。

 そんなアーリに感謝しつつ手続きを済ませ、俺は聖なる盾のパーティーメンバーに加わった。

「折角ギルドに来たんだし、新生聖なる盾の初クエストを受けていかない?」

 ペレッタに誘われてクエストボードでアレコレ見てみる。

 とりあえず戦闘訓練も兼ねて討伐系のクエストでも受けてみるか。

「この赤毛虎(レッドタイガー)の討伐なんてどうだ? 毛皮は高く売れるから捕れたらルウに売らせよう」

「そうですね、いいんじゃないかしら。ペレッタ、どう?」

「うん、やってみよ」

 受付でクエストを受けようとするとアーリから追加のクエストを依頼された。

「調査依頼?」

「はい。赤毛虎の縄張り近くに薬草の群生地が二ヶ所ありまして、そこの繁殖具合を確認して来て欲しいんです」

「それはつまり指定する場所を見て回れって事だよな。もしもその群生地が無くなっていても問題は無いのか?」

 物が薬草なら誰かが根こそぎ持ち去っている可能性もある。存在しない群生地を探していつまでもウロウロするのは嫌だ。

「あくまでも調査依頼なので、もし空振りに終わっても報酬はちゃんとお支払いします。それと今回はその群生地には手を付けないようにお願いしますね」

 悪くない内容だ。赤毛虎の討伐ついでに少し足を伸ばして二ヶ所回るだけで報酬が増える。

 しかし、見てくるだけの依頼なんて楽勝過ぎるな。それに貴重な薬草の群生地の情報なんてそれだけで価値があるのに、ただの冒険者に話していいのかね?

 そんな疑問をハルとペレッタに聞いてみると。

「それだけ私達がギルドから信用されてるって事じゃない? 普通の冒険者には教えられない情報やクエストを任せられるパーティーって事だよ。まだDランクだけど期待されてるんだよ、きっと」

「そうですね。それに赤毛虎の強さを考えると縄張り近くの群生地なんて簡単には行けないでしょうから、ついでにって面もあると思いますよ」

 そうか。強力な魔物の縄張りに侵入するかもしれない危険が伴う、案外難易度の高いクエストだったんだな。

 でも赤毛虎を討伐すれば魔物の生息地に変化が起きてその薬草の群生地にも簡単に行けるようになるかもしれないなと話すと、ハルは首を振り。

「魔物の縄張りって色々と難しくて、例え主の魔物を討伐しても結局、別の魔物が居座りますからねぇ……それに討伐した赤毛虎の気配が完全に消える前に縄張りを奪うような魔物がいるならその魔物は同格か、或いは格上の魔物という事になります。まあ滅多にある事ではないんですけどね」

 なるほど、赤毛虎の強さを上回る魔物か。

 まぁ、気にしても仕方ない。今は赤毛虎に集中しよう。

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